Masuk傍から見れば不運で不幸、と思われる人生を真面目に生きた十九年。それが、あの世に逝った瞬間に大きく切り替わった! 何と、ファンタジーな異世界で、『生神様』と呼ばれる存在になってしまう! 降臨した神殿にいた神子と共に、神様として、この世界を破滅から救い、そして新しい俺の世界として創り直して見せる! 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しております。
Lihat lebih banyakさて。
俺、
小学校の入学式修了後、写真を撮っている時に突っ込んできた車によって目の前で両親を亡くした。
唯一の親族、父方の叔父さんが俺を引き取り、俺は小学生にして家事全般を自己流ながらマスターして、男二人暮らしで、学校から帰ったら買い物、料理、掃除、洗濯、と主婦並みには働いていた。叔父さんは無口な人で、あまり家には会話はなかった。
その叔父さんも俺が高校生の時に病に倒れ、帰らぬ人となり、俺は家に一人取り残され、一人で生きてきた。
ここまで聞くと、大抵の人が苦労したねえ、大変だったろう、と言って同情する。
のだが。
俺は一度たりとも、自分を不幸だと思ったことはない。
死ぬ時は誰でも死ぬ。遅かろうが早かろうが、みんな死ぬ。嘆いていても何にもならない。それが両親の通夜から葬式にかけて考えに考えて、幼心に辿り着いた結論だった。一年生になったばっかのガキが考える事じゃないとは自分でも思うけど、事実そうなんだから悩んでも仕方がない。
両親の死因は九十パー相手が悪い事故だったので、成長するまでの必要経費と学費を払ってもらうことができた。それの預かり役であるおじさんは、それを俺に無断で使うことなく、きっちり貯蓄してくれていた。無口で不愛想だったけど、非常に真面目な人だったので、入院直後に弁護士を呼び、家と、その貯蓄した財産を遺してくれた。
おかげで高校を中退することなく卒業できたのである。
もちろん大学は無理だったけど、家があって、高卒で働ける場所を見つけるまで食いつなげる程度には貯金もある。これの何処が不幸なんだ。
あっ。でも、まあ……。
確かに、十九で鬼籍に入るのは、不幸かもなあ。
「遠矢慎吾さん?」名前を呼ばれ、俺は我に返った。
目の前には、死んだおじさんくらいの年恰好をした男がいた。その人があんまりにも何処にでもいそうな人だったので、実感がわかず、しかし起きた現実は記憶にきっちり刻まれており、俺は思わず現実逃避をしてたんだ。
何でかというと、ついさっき死んだばかりだから。
ハローワークに行くために自転車に乗って走っていたところ、子供がボールを追っかけて車道に飛び出してきたのだ。
何とか避けたところ、子供はそのまま車道のど真ん中まで行ってしまい、対向車線を越え、走ってくる四トントラック。
俺は自転車を捨てて、子供を突き飛ばして歩道に押し込み。
一人で見事に跳ね飛ばされたわけである。
そして気が付くと、俺は全面ふわふわと白いものに覆われた空間で、デスクを挟んで座った男を目の前に立っていた、と、こういうわけなのである。
まさか親子そろって車で死ぬとはなあ。
俺の一族、車に祟られてたんだろうか。
「神様……」 少女は祈っていた。 荒れ果てた神殿。大地も海も何もかもが荒れ果てて、空だけが青い。「どうか、神様……」 祭壇に向かい、祈る。「世界を……お救い下さい……」 もうこの世界は駄目だ。 動物も、植物も、全てが失われ、生き残った人間もまた、滅びゆこうとしている。 神官だった両親は、食事を自分に譲って、死んでいった。 もうこの神殿で祈るのは自分しかいない。 神殿に祈りに来る者も、いなくなった。 この地は神に見捨てられたのだ、と。 だけど、自分はこの神殿から離れない。 一族だけが知っている、ある伝説。 それを信じているから、自分はこの神殿から離れない。 世界が破滅する時、神が天下りて世界を創り直すのだと。 その手伝いをする一族の者がいなくなれば、本当にこの世界が終わってしまう。 だから。「神様……」 その時。 祭壇に飾られた、透明で平らな石が光を放った。 神が天下り、力を揮う縁となる神器と伝えられている、この神殿の至宝。 石が光っている……いいや、違う。 上空から光が降りてきて、石に当たっているのだ。「まさか――」 少女は目を見開いた。「神様?」 降りてきた光が、ぶわりと膨らんだ。 神殿いっぱいに光が広がって。「うわあ?!」 人の声……? ううん。 神様の!「神様!」 神殿にぶつかると思った瞬間に、視界が反転して。 気が付くと、俺は暗い場所にいた。「何なんだ一体……」 死んだと思ったら訳の分からない場所で訳の分からないことを言われて、いきなり上空から落っことされた。 いや、死んでないけどさ。 あれだけの高さから落とされたら、普通死んでるけどさ!「ったく、一体どこなんだ……」 起き上がりながら辺りを見回す。 何だかボロボロな建物の中。 よっこいしょ、と起き上がって。 ここが周りより一段高い場所。何かの台の上に、俺が倒れていたらしい。 そして、下のほうで、何か大きな黒いものがある。「ん?」 黒いものが動く。 見ると、それは人間だった。 ぼさぼさの長い髪で顔は隠れて見えない。服もボロボロで、男か女かすら見分けがつかない。「神様?」 小さい声が聞こえた。 女の声だ。「神様!」 その声は震えていた。 てか、神様って。 辺りを見回すけど、それらしき存在はいない。
「生神?!」 職員さんは手を止め、目を見開いてこっちを見た。「どうして、その言葉を」「き……貴船って人が、そう言えって」「貴船」 職員さんの目が飛び出そうなほどになってる。「貴船さんが、あなたに、そう言えと言った」「何か……悪かったでしょうか。それとも」「い……いやいやいや!」 職員さんは慌てて手を振った。「人のために生きてきた、あなたは間違いなく生神の価値がある。それだけの人生を送ってきた。ましてや貴船さんの推薦があるとなれば」 やはりあのおじいさん、只者じゃなかったらしい。 目力半端なかったもんな。真正面から見れなかったもんなあ。「……分かりました!」 職員さんはバン! と机に書類を置いて頷いた。「生神に、なってください!」 いや、なってくださいと言われても。「あの……生神って、何ですか?」 聞いておいて、変なことを聞いたと俺は慌てて手を振る。「いや、貴船って人にこう言えって言われただけで! それがどういう意味かは俺、さっぱり分かんなくて!」「もちろんです。生神の意味を知る人はいません。少なくともあなたの人生に生神は関わってこなかった。知らなくて当然、何をすればいいかもわからない。でも、そうでなければならないのです!」 なんのこっちゃ。「ちょうど生神派遣要請もあることですし! 遠矢慎吾さん、あなたを生神として、ワールドに派遣します!」 いや、そんな興奮されても俺よくわかんないんだけど。「いやいやいや、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫。あなたならできますし、トリセツも当然付けますので!」 トリセツ? 余計訳分からん。家電にでも生まれ変われってのか? 職員さんは俺の疑問に一切答えず、書類に素早く書き綴った。「遠矢慎吾さんを、ワールド「モーメント」への派遣生神とします! 詳しいことはあちらへ行ってからトリセツでご確認ください!」 俺の名前が書かれた書類に、バン! と朱印を押して、職員さんはそれを俺に押し付けた。「では、行ってらっしゃい! 存分に楽しんで!」 職員さんが俺に押し付けた書類から手を離した瞬間、書類が眩しい光を放った。 途端、足元に感じていた柔かい感覚が消えた。 浮遊感。 落ちてる?!「うわあああああマジかああああああ」 白い空間が切り替わって闇に変わり、そのまま全身が落下する感覚
おじさんは言っていた。困っている人は、可能な限り助けてやれって。 情けは人の為ならず、という。誰かを助けたら、その行いは必ず自分の身に戻ってくる。だからと言って、恩返しを目的に人を助けるな。下心のある親切は必ず報いがあるとも。 口数少ない叔父さんが何か言う時は、含蓄のある深い言葉ばかりだった。小学生の時からそうだった。子供にも真剣に教えてくれた人だった。両親の記憶は遠ざかっているけれど、叔父さんと暮らした九年間は俺の根底を成していると言っていい。 だから、ここでおじいさんを見捨てるのは俺の選択肢にはなかった。それだけ。「本当にすまんな。君だって時間がないのに」「時間は……たっぷりありますが」「いや……うむ……そうだ」 おじいさんはゆっくりと立ち上がった。 ……百七十センチある俺より背が高い。予想外だ。 おじいさんはサングラスを外した。 下から現れた顔に、最初に抱いた「痩せたサンタクロース」の印象はなかった。 闇に紛れて牙を磨く肉食獣の目。 年老いた外見にそぐわない、強い目力。 思わず俺が後ずさったほど。 軍人に会ったことはないけれど、多分そういう関係の人が持っている……いいや、それ以上に磨き抜かれた目。中学の時美術展で見に行った日本刀にも似ていると思った。「この礼はさせてもらうよ」 ほんの少しだけ、獣の目が笑った。「三日後」 おじいさんは人差し指を立てた。「君は、選択を迫られる。何になりたいか、と問われる」「え、それって」 もしかしたら、明後日受ける、別会社の面接のことか、と身構える俺に、おじいさんは続けた。「そうしたら、こう言いなさい。生神《いきがみ》になりたいと」「いき、がみ?」 何を言われたか分からず、俺は間抜けな顔をしていたと思う。「誰に聞いたか、と問われたら、「貴船《きふね》」に言われたと答えなさい。それでいいはずだ」 どういう意味かさっぱり分からない。「君は、そうなるだけの価値がある」 おじいさんは深々と頭を下げると、俺に背を向けて歩き出した。 思わず突っ立って、その背が路地を曲がって消えたところでようやく我に返った。「生神……?」 おじいさんに言われた謎の言葉から、別の単語が出てきた。 死神。 ……そうだ、俺はあのおじいさんに、死神を見たんだ。 全身に鳥肌が立っていることに気付いて
三日前。 オレは疲れ切って町を歩いていた。 何故かというと、二桁目の会社の面接を終えたから。 在学中に就職先が見つからなかったので、なけなしの金で買ったスーツで、中途採用の会社に履歴書を送りまくっていた。 そのうちの一社の面接を終えて、家に帰る途中だったのだ。 緊張して話していたので、喉が渇いてきて、持ち歩いている水筒に口をつけて……一滴もないのに気付いた。 何で面接が終わって帰るのにここまで喉が渇くんだろう。 とはいえ、貧乏暮らしの俺に、自販機でミネラルウォーターを買うという選択肢はない。コンビニ? そんな魔の住む場所、行ったことない。 どっか水飲むところないかな。トイレでもあれば洗面所で飲めるんだが。 きょろきょろと見回して、何か黒いものに気付いた。 黒スーツと黒サングラスの……おじいさん? 白い髪に白いひげ、赤い服を着ていれば痩せ気味のサンタクロースにも見えるおじいさんが、ぐったりと道端で座り込んでいた。 どうしたんだろう。何か病気? おじいさんの姿が、高一の時亡くなったおじさんに重なって、俺は慌てて駆け寄った。「大丈夫ですか?」 おじいさんはゆっくりとこっちを見上げて……サングラスしていても分かるほど、驚いた顔をした。「……何か用か?」「あ、いえ、具合でも悪いのかなって」 ヘルプマークはないけれど、具合が悪そうだったら救急車を呼ばないと。未だガラケーを使っているけど緊急連絡には問題はないはずだ。「……すまんな、ちょっと疲れただけだ」「具合が悪いなら救急車を呼びますよ」「大丈夫だ……喉が渇いただけだ。この年になると、それだけでも具合が悪くなる」「ちょっと待っててください」 俺は魔窟に飛び込んだ。 魔窟と呼ぶコンビニには色々なものがお高い値段で売られていたけど、俺は真っ直ぐに行って冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出すとレジに行く。 百円。 う~ん、高い。 家の水道水ならもっと安いのに。 だけどまさか喉が渇いているならそこらのトイレの水でも飲めなんて言えない。俺だったらどんな水でも飲むけど、あのおじいさんが飲んでお腹でも壊したらどうする。 五十円玉と十円玉をさらえて差し出して、全力でおじいさんの所へ戻った。「……?」 ぐったりと座り込んでいたおじいさん。サングラスで表情がよくわからないが、多分