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第66話

Author: 豆々銀錠
「清水家の令嬢、唯と紗枝は大学の同級生です。唯は卒業後、すぐに海外に出ましたが、紗枝が帰国した後、彼女もすぐに帰国しました」

「調査によると、唯には好きな人がいます。同じ学年の男子生徒で、花城実言という名前です」

「彼女が紗枝をお見合いに参加させたのは、花城が関係していると思われます」

アシスタントは知っていることを全て和彦に伝えた。

和彦の眼差しは意味深長だった。

彼は新しい服に着替え、下に降りると、啓司と葵が一緒に立っているのが目に入った。まるで理想的なカップルのようだ。

和彦はしばらく迷ったが、今日の出来事を啓司に伝えなかった。

九番館。

紗枝は唯からの電話を受け取った。電話の向こうから、彼女の声は落胆に満ちていた。

「紗枝ちゃん、今晩帰るわ」

「どうだった?彼を見つけた?」

紗枝が尋ねると、唯は喉を詰まらせた。

「うん、見つけたわ。でも彼にもう彼女がいた。私たちはもう終わりよ」

紗枝は彼女をどう慰めていいか分からなかった。

唯は話題を変えた。

「お見合いはどうだった?相手に困らされた?」

「一言では言い表せないわ」

紗枝は窓の外を見た。夕日が沈みかけていた。

「今晩、景ちゃんと一緒に会いに行くわ。その時に話しましょう」

「いいわ」

仲夏の夜。

唯は帰宅後、失意を隠し、実言のことを再び口にしなかった。

紗枝と景之も気を使って、そのことを尋ねずに、今日のお見合いの話を彼女に伝えた。

「和彦?どうして彼が?もっと早くに確認しておくべきだったわ」

唯はため息をついた。

「彼が報復してこないか心配だわ」紗枝は正直に言った。

唯は気にせず言った。

「大の男が、私たち二人の女性をいじめるなんて、どうかしてるわ」

「以前はそう思ってたけど、和彦は葵のためなら何でもする男よ」

紗枝は和彦を紳士だと思ったことは一度もなかった。

本を読んでいた景之は、二人の会話を聞きながら、こっそりと昨日撮った和彦の写真をネットにアップした。

景之の巧妙な操作により、翌朝早く、ネットは騒然となった。

ニュースの見出しには、「豪門の御曹司、和彦、酔っ払ってお漏らし」とあった。

ニュースの下には、昨夜の店で和彦が赤ワインをかけられた後、狼狽している写真が掲載されていた。

唯は朝起きて、そのニュースを見て大笑いした。

「紗枝ち
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