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第0411話

Penulis: 十一
耕介はまだ正式に実験課題に取り組んでおらず、この機器にどんな特別なところがあるのか知らなかったが、一があのような表情を浮かべるのを見て、彼も思わず何度か見返した。

「……先輩、これ高いの?」

一が頷いた。「とても高い」

「いくらくらい?」

「2000万円以上だな」

「!」

こ、これはあまりにも恐ろしい。

驚いたのは、金額そのものではなかった。そんな高価なものを、凛たちが本当に買ってしまったことだった。

三人で、2000万円以上……

耕介は自分の両親を思い出した。土にまみれて働く農家で、収穫が最も良かった年でも貯められたのはせいぜい数百万円だった。

それなのに、この機器を買うには、千万円単位の金が必要だった……

耕介は、呆然とその場に立ち尽くした。

その時、廊下の向こうから早苗の声が聞こえてきた。彼らが戻ってきたのだ。

一と耕介は、気づかれないよう裏口からそっと実験室を抜け出した。

出口へ向かう途中、一はふと足を止め、思わず振り返った。陽の光のなか、凛、早苗、そして学而の三人が、笑い声を交わしながら実験室へと入っていく。

凛の手には、エビアンのミネラルウォーター。高価なやつだ。

早苗は両腕いっぱいにお菓子を抱えていた。どれもパッケージに英語がびっしり並んだ輸入品で、値段も決して安くない。

学而は、これまで一が一度も見たことのないパッケージのスポーツドリンクを飲んでいた。その味も、当然、知らない。

「先輩、何を考えているの?」

二人が階下に降りると、耕介は隣で黙ったままの一を見て、そっと肩を突いた。

「……いいな」一がぽつりと漏らした。

耕介は感慨深げに頷いた。「ああ、新しい機器だもんな」いいに決まってるだろ?という顔で。

一は静かに笑った。

けれど彼が言っていたのは、機器のことではなかった。

あの三人には、理不尽に抗う勇気があり、正面から言い返すだけの土台があり、そして――そのすべての背を支える、確かな経済力があった。

……本当に、いいな。

――その頃、実験室内では。

「皆さん、まずお水をどうぞ」凛がにこやかに声をかける。

「ここにお菓子もありますよ!」早苗は元気よく続けた。

……

大谷が、新しいCPRTが導入されたことを知ったのは、その設置から三日後のことだった。

予想通り、彼女は怒りで全身を震わせていた
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