第0419話

電話の向こうでは、ただ冷たく一言だけが返ってきた。「口を閉ざせ。余計なことを言うな。さもないと、お前の口を俺が塞いでやる」

そう言い捨てると、通話は一方的に切られた。

運転手は携帯を手にしたまま固まり、その背中はすでに冷や汗でぐっしょり濡れていた。

……

夜の帳が下りた。海斗はフロアトゥーシーリングの大窓の前に立ち尽くし、まるで僧侶が座禅に入っているかのように、一歩も動かず沈黙を保っていた。

太陽がゆっくりと沈み、空は次第に漆黒に染まっていく。そのどこか知らぬ場所では、闇がひっそりと、しかし確実に広がり始めていた。

やがて夜が完全に落ちると、ガラスには男の大きなシルエットが静かに映し出された。

その瞬間、彼は携帯を手に取り、ある番号を迷いなくダイヤルした。

電話はすぐに繋がった。

海斗は言った。「面白いことをしたな、時也？」

向こうは一瞬ためらい、答えた。「海斗、また何か狂ったことを言っているのか？」

海斗は口の端をゆがめ、冷たく笑った。「近藤太郎（こんどう たろう）から電話がなかったのか？」

――近藤太郎。あの運転手の名前だ。

電話の向こうは沈黙に包まれた。

海斗は続けた。「なら、奴らはまだ生きていることも伝えたはずだな？」

「……」

「残念なことだな。近藤は刑務所に入るのが怖くて、殺す覚悟まではなかったらしい。そうなると、俺は殺人教唆にも殺しの依頼にもならない。つまりお前が張り巡らせたその罠、全部水の泡だったってことだ」

時也の目が翳った。「……いつ気付いた？」

「はっ、俺らは長年の親友だ。お前が俺のことを理解してるなら、なぜ俺が、お前を理解してないと思った？」

美琴は確かに、理子親子のすべての経済的支援を断ち切り、ホテルにも通達を入れて二人を追い出させていた。

だというのに、あの母子はまるで何事もなかったかのように、別の五つ星ホテルに悠々と泊まり、毎日会社の前に現れていた。

背後に誰かがいなければ、あんな芸当ができるはずがない。

時也は軽く笑った。「お前を甘く見ていたようだ」

「……なぜだ？」海斗はこめかみに青筋を浮かべ、一語一語、かみ殺すように言った。「なぜ俺を罠にはめようとした？」

親友として長年付き合ってきたというのに、こいつは本気で――自分を刑務所に送り込む気だったんだ！

もし太郎が本当にあの母子を轢き