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第191話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第196話
「凛！！自分で数えてみてよ、私が何回電話したか？あなたは一つも、出なかっただから！どれだけ経ったと思ってるの？私から電話しなかったら、一生連絡する気なかったんでしょ？」すみれは本気で怒っていた。言葉が矢継ぎ早に飛んでくる。凛は慌てて通話履歴を確認した。画面には、ずらりと並んだ未接着信――全部、すみれからだった。実は何度か折り返そうとしたことはあったのだ。けれど、作業に追われるうちに、つい忘れてしまっていた。彼女は申し訳なく思い、急いで謝った。「ごめん、すみれ……ここ数日、本当に忙しくて。で、そのままバタバタしてて……気がついたら……はぁ、忘れてた。でも、約束する。こういうの、今後は極力減らすようにする……いや、絶対にしない！」実のところ、凛が研究室に入った翌日には、すみれはすでにそのことを知っていた。彼女と陽一の関係は、特に親しいというわけではない。子どもの頃はそこそこ仲が良かったものの、彼が海外に留学して何年も帰国せず、「天才物理学者」として周囲から持ち上げられるようになってからというもの、兄妹の距離はどんどん開いていった。大人になってからは──二人が顔を合わせた回数なんて、両手で数えられる程度だった。すみれは、従兄がいつも研究室で忙しくしていることは知っていたが、実際にどんな忙しさなのかまでは理解していなかった。だが、今の凛の様子を見て、ようやく納得がいった。これはもう、普通の社畜なんて比じゃない。本当に忙しいときは一週間消息が途絶えるなんてむしろ短いほうで、一ヶ月返信が来なくても全然おかしくないレベル。「……もういい、今回は許す。でも次はないからね」すみれの声は少し柔らかくなっていた。「でも、来月の食事会だけは絶対にすっぽかさないでよ。いい？」彼女が今日電話をかけてきたのも、その件を念押しするためだった。凛はくすっと笑い、唇をほんのり噛んだ。「わかってるよ。大切なすみれちゃんの誕生日でしょ？忘れるわけないじゃん。プレゼントだって、もう選んであるから──楽しみにしてて」「それなら許す」すみれはようやく満足した様子で、心なしか声にも期待がにじんでいた。電話を切った凛は、荷物を手に取り、再び研究室へと戻った。実験エリアに差しかかった瞬間──どこからともなく、悲痛な叫び声が耳に飛び込んできた。
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第195話
真奈美はそれが専門的な内容だとわかると、何のためらいも見せずに対応した。凛の実験手順をざっと把握すると、すぐに的確な調整案を提示する。その少し後に珠里が研究室に姿を見せた。彼女は凛が真剣に実験に取り組んでいる姿を見るや、思わず口を尖らせる。たかが学部生のくせに、頭の中にどれほどの知識があるっていうの？見せかけだけ！凛は午前中ずっと作業に集中していた。ようやくひと段落して振り返ると、すでに他のメンバーはそれぞれの実験台を離れ、昼食と休憩に出ているようだった。時計を確認すると、昼休みまでまだ1時間半ほどある。彼女は外に出て、適当に何か食べてから戻って作業を続けようと考えた。ところが、ちょうどドアを出たそのとき、テイクアウトの袋を提げて戻ってくる陽一の姿が目に入った。「さっき階下に食事を買いに行ったんだけど、ついでに君の分も買っておいたよ」テイクアウトの食物には一人分しかなく、凛はすぐに、彼自身はすでに食べ終えているのだろうと察した。「ありがとうございます」休憩室で軽くお腹を満たし、気分転換にとコーヒーを一杯淹れた。午前中、真奈美からもらったアドバイスをもとに、反応材料の比率を調整してみたが、まだ彼女が理想とする結果には届いていなかった。論文に使う分には、今のデータでも十分に結論を支えることはできる。けれど凛は、精度の面でもう少し詰められる余地があると感じていた。となれば、実験は最初からやり直しになる。そう考えたとき、彼女の胸には陽一への深い感謝が浮かんだ。彼が研究室を使わせてくれたおかげで、背後に十分なリソースがある。やり直すのが何度であろうと、怖くはない。そう思うと、凛は残っていたコーヒーをぐっと飲み干し、再び実験台へと戻ることにした。ドアを開けて中に入るとすぐ、陽一以外のメンバーが集まって、何かを話し合っているのが目に入った。凛は何気なく声をかけようとした。だが、彼女が近づいた瞬間、彼らはまるで示し合わせたかのようにすっとその場を離れ、それぞれ自分の持ち場へと戻っていった。凛は一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに気にするのをやめて、自分の実験に意識を戻した。無理に溶け込む必要はない。人と人とは、必ずしも同じ考えを持ち、価値観が一致するわけではない。まるで猟師と木こりのように──一方は獲物を追い
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第194話
ど、どういう意味？この慣れ親しんだ口調──まるで、二人が何度も一緒に出かけているようだった。いや、もしかすると……同棲している可能性すらある……。真奈美は去っていった車の後ろ姿をじっと見つめていたが、やがてゆっくりと視線を戻し、そばにいた博文の手をつまんだ。「博文、私の目、節穴じゃないよね？」博文は思わず顔をしかめた。「……真奈美さん、次からは自分の手をつねってよ」どうしていつも痛い目に遭うのは自分なんだ。真奈美は当然のように言い返した。「若いんだから回復早いでしょ？つねったぐらいでどうってことないでしょ」博文は虚ろな目で黙り込んだ。朝日は終始にこにこと笑っていたが、何も言わず、手を後ろに組んでそのまま散歩がてら歩いて帰っていった。一方、珠里の表情はもはや「不機嫌」などという言葉では片づけられないほど険しく、博文を待つこともなく、自分一人で先に車に乗り込み立ち去ってしまった。博文はそっと目を伏せ、その瞳に浮かびかけた失望の色を隠した。まあ、いいさ。どうせ、こんなことにはもう慣れてるから。彼は自分に言い聞かせた。誠意があれば、いつかきっと通じるはずだ。彼女も、いつか自分の良さに気づいてくれる。……一方その頃、陽一と凛は周囲の反応などまるで気づいていなかった。アパートに着くと、二人は一列になって階段を上っていく。足音に反応して、感応式の灯りが一段一段ぱっと点いては、後ろでまた静かに消えていく。凛は前を行く男のまっすぐな背中を見つめながら、灯りに照らされた二人の影が長く伸び、ゆっくりと重なっていくのを目で追った。──まるで、ずっと前からこうして一緒にいたような、不思議な錯覚が胸をよぎる。「今日はありがとうございます」大きな声ではなかったが、静かな廊下にはその言葉が少しだけ反響した。陽一は今日、機嫌が良さそうだった。顔は見えなかったが、どこか柔らかく、余裕を含んだ声が返ってくる。「家まで送ったから？それとも、ご飯をおごったから？」「どちらも。ご飯をご馳走してくれたことも、家まで送ってくれたことも、それから──研究室を貸してくれたことも、全部感謝しています」そして、食卓で彼が放ったあの一言──「雨宮さんは大谷先生の教え子だ」7階に差しかかったところで、陽一がふと足を止めた。振り返る
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第193話
真奈美は黙り込んだ。自慢気な！めっちゃ自慢してるじゃない！朝日はただ食事をしていただけなのに、思わぬサプライズに目を見張った。「まさかお前が、大谷先生がいつも残念に思ってるって話してたあの女の子だったとは！いやあ、驚いたよ……それで、今年の大学院の指導教授は誰を選んだの？」「大谷先生です」凛は淡々と答えた。朝日は手を叩いた。「それなら、大谷先生も大喜びだろうね！」その場で唯一、珠里だけがまだ立ち尽くしていた。顔に浮かんでいた詰問と得意げな表情は一瞬にして気まずさと戸惑いに変わり、立ち続けるわけにもいかず、かといって座ることもできず、完全に固まってしまった。その空気を察して、博文が絶妙なタイミングで口を開いた。「珠里、まず座って。何か食べたいものある？野菜料理は全部こっちにあるから、取ってあげるよ。そっちはちょっと取りづらいでしょ？」「……ありがとう」ようやく、珠里は気まずそうに腰を下ろした。博文は再び凛の方を見て、申し訳なさそうな目をした。「ごめんね凛、珠里の性格ってこういうところがあって、つい本気になっちゃうんだけど、悪気はないんだ。これから長く付き合っていけば、きっとわかるよ」悪気はない？凛はほんの少し眉を上げた。……そうであることを願うばかりだ。「珠里の代わりに、俺から謝罪させて。気にしないでね」「誰があなたに謝らせたの？！勝手な真似しないで！」珠里は怒って、テーブルの下で彼の足を思いきり踏みつけた。博文は思わず「うっ」と声を出しそうになったが、どうにか堪えた。ただ顔は真っ赤に染まり、苦悶の色が滲んでいた。真奈美は同情の眼差しで博文を見た。凛は淡々と言った。「気にしていません」博文は安堵したように頷いた。「よかった、よかった。ところで、一つ気になってたんだけど、なんであの時、推薦を蹴ってまでわざわざ大学入試を受けたの？結局B大に進学したんだからさ。同じゴールなら、楽な道を選ばなかった理由は？」「たぶん……高校3年間頑張ったし、自分の学力がどれくらいか試してみたかっただけでしょう」「それだけ？」「……他に何か理由が必要ですか？」博文は絶句した。つまり、試しに受けてみたってことかよ。大きな誤解を招いてしまったものの、今ではその誤解もすっかり解け、場の空気は徐々に和やかになってき
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第192話
そのとき、真奈美がふと思い出したように口を開いた。「学士から博士の一貫課程なら、B大学でもいくつかの専攻では申請できるはず。ただ、相当ハードルは高いけどね。凛、学部では何を専攻してたの？」「生物情報学です」「生命科学研究科ってこと？」真奈美は博文のほうを見て続けた。「そっちの分野はあなたの方が詳しいでしょ。生物情報学に学士・修士・博士の一貫課程なんてあった？」その瞬間、場の視線が一斉に博文へと集まった。珠里もその一人だった。「ええっと……」博文は箸を置いて、少し考え込んでから言った。「基本的には、その専攻には学士・修士・博士の一貫課程は設けられていないはずなんだけど……」珠里はその言葉を聞くや否や、勢いよく立ち上がり、冷ややかな目で凛をにらんだ。「もう証拠は揃ったでしょ。これでもまだ何か言い訳があるの？！」だが、真奈美は博文の言い回しにふと引っかかりを覚えた。「博文、今基本的にはって言ったよね？ってことは、例外があるってこと？」博文はうなずいた。「あるよ。生命科学研究科では、毎年ごくわずか――1人か2人くらいに限って、条件付きの特別枠っていうのがあるんだ。国際オリンピックの学問系競技で金メダルを取った学生だけに与えられる枠なんだけどね。」「『条件付きの特別枠』って何？」「簡単に言えば、金メダルの条件を満たしていて、さらに他の関連資格も持っている学生が、学院側と条件交渉できる制度のことだよ。たとえば全額奨学金とか、大学院の推薦資格とか。要するに、希望を出せば学院が総合的に検討してくれるってわけ。ただ、最終的に認めてもらえるかどうかはまた別だけどね」「つまり、その条件に博士一貫課程の資格も含まれるってこと？」真奈美が確認するように聞いた。博文はうなずいた。「原則的には可能だけど、実際はかなり難しいよ。博士一貫なんて誰だって欲しがるけど、それを口にする自信があって、しかも学院に認められる人なんて、ほんの一握りだ。俺の知る限り、この10年……いや、20年でも、生命科学研究科が正式に博士一貫資格を与えたのは、たったの2例しかない。一人は上条奈津先生の弟子、内藤一（ないとう はじめ）。そしてもう一人はたしか大谷先生の学生だったけど、名前までは覚えてないな。ただ、女性で、当時のオリンピック物理・化学・生物・情報学の四つの学科
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第191話
すぐに料理が次々と運ばれてきた。朝日は香りを嗅いで、胃の中の食欲がうずき始めた。彼は鶏肉をひと切れを取ると、柔らかくジューシーな鶏肉を口に運んだ。「うまい、うまい！こんなうまい鶏の照り焼き、久しぶりに食べたよ。今日は本当に来てよかったな。」博文もその言葉を聞いて、ひと切れ取って味見した。「確かにうまい！珠里も一口どうだ？」「いらない、ダイエット中よ」博文は慌てて箸を引っ込め、料理を自分の茶碗に移しながら笑った。「じゃあ、ダイエットが終わったら、二人でまた来ようか……」珠里は呆れたように目を白黒させた。「誰があんたと一緒に来るのよ？」その隣では賑やかなやり取りが続いていたが、向かいの真奈美も上機嫌で、凛のほうを見て少し興味ありげに声をかけた。「凛、まだ聞いてなかったけど、今年で何歳？九月から大学院に行くってことは……二十二？二十三くらい？」真奈美はただ何気なく聞いただけで、特に深い意味はなかった。凛もただ何気なく答えた。特に問題はないと思っていた。「いえ、二十六歳です」しかし、周りの人々はそれを聞いて、表情が一瞬微妙になった。二十六歳でやっと大学院に合格したのか？これはちょっと……博文は黙っている陽一をこっそり見た。彼は淡々と料理を食べており、明らかに前から知っていた様子だった。珠里は眉を上げ、座ってから初めて笑みを浮かべた。「二十六歳でやっと大学院に合格するなんて、どれだけ苦労したの？何回受験したの？」珠里が口を開くと、博文は急いでテーブルの下で彼女を突いた。（落ち着いて、この子は庄司先生が連れてきた人だ。）残念ながら、返ってきたのは珠里の冷たい睨みだった。（黙れ、余計なお世話よ！）凛は淡々と答えた。「一回だけです。全体を見ると、一次試験も二次試験もそれほど難しくなかったです」「そう？」珠里は彼女が強がっているだけだと思った。「あなたが言うほど簡単なら、なぜ大学卒業後に受験しなかったの？今さら受験？何回受けたかなんて誰にも分からないじゃない？」「大学卒業後、ある事情で修士博士一貫の資格を放棄しました。今になって後悔し、再び大学院受験を選んだのですが、何か問題でも？」「……はっ！話せば話すほどでたらめ！うちで医学専攻以外に修士博士一貫の制度があるなんて、聞いたことないけど？」珠里が海外留学
