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第266話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第352話
2時間後、理子と峯人は両手いっぱいに大きな買い物袋を抱え、デパートから出てきた。その時——「しまった！ネックレスを買い忘れた！さっさと戻ろう……」理子が突然声を上げた。峯人はもう両手がふさがっており、足も棒のようだった。「母さん、今日はもういいだろう？こんなに荷物持って、また戻るなんて疲れ死ぬよ」「でも……」理子は眉をひそめたが、確かにこれだけ持っていては動きづらい。そこで彼女は目をきょろきょろと動かし――ふと、美琴の首元に目を留めた。「えっ？あなたのそのネックレス、悪くないわね。ちょうだいよ。あなたはまた新しいの買えばいいじゃない」その言葉に美琴は目を見開き、完全に固まった。このネックレスはカルティエの限定モデル。手に入れるまで四ヶ月待ち、購入価格は8桁に届くほどだった。この女、自分を何様だと思ってるの？簡単に「ちょうだい」と？！そんなこと、どうやったら口にできるのよ？！理子は眉を吊り上げて言い放った。「その顔は何よ？たかがネックレス一本で命まで取るわけじゃないでしょ？それに、私はあなたが着けてたことすら気にしないで、わざわざ新しいのを買うチャンスまであげようって言ってるのに、感謝もしないなんて。ま、惜しむならいいわよ。最初はちゃんと話し合おうかと思ってたけど、あなたの誠意ってものはゴマ粒ほどもないみたいね。だったら、もうこのまま引き延ばしでいいわ。私は別に急いでないし」そう言い終えると、理子は今度は峯人の方を振り返った。「そうだ、峯人。帰ったら、あの動画またアップし直しましょ」たった数言で、あきらめるを装いながら、はっきりとした脅しを繰り出してきた。美琴の顔色はみるみるうちに青ざめ、今すぐにでも「出ていけ」と言い放ちたかった。だが耳の奥に、昭典の冷たい声がよみがえった。美琴は何度も深く息を整え、なんとか怒りを押し殺した。そして、奥歯を噛み締めながら、手を伸ばし、自ら首元のネックレスを外した。「そうこなくちゃ！貴婦人なんだから、少しは寛大になりなさいよ」理子は満足げにネックレスを首にかけると、そのまま息子の方を向き、得意げに胸元を示した。「似合う？」峯人はニヤニヤと笑いながら答えた。「似合うよ。誰よりも似合ってる」その「誰よりも」は、言うまでもなく美琴への当てつけだった。「調子
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第351話
二日後、美琴は本当に理子からの電話を受けた。だが、それはお金の話ではなかった。「……何ですって？！」「前にあなたが他の貴婦人たちと集まったホテル、あそこで私と息子もアフタヌーンティーしたいの。何か問題ある？」理子は当然のように言い放った。美琴はスマホを叩きつけたくなる衝動を必死で堪え、歯をきしませながら、言葉を絞り出した。「あそこは会員制なのよ！」「それが？」「だから会員じゃないと入れないの！」「だったら、あなたが私を会員にすればいいじゃない？」美琴は歯が砕けそうなほど奥歯を噛みしめた。会員にするって？簡単に言うけど――あのホテルは、累計消費が4000万を超えないと終身会員になれない。理子みたいな人間が、足を踏み入れていい場所じゃない。「とにかく、今日あそこでアフタヌーンティーしたいの。どうするかは、そっちで考えてね！」結局、美琴はしぶしぶ自分の会員権を使い、理子と峯人をホテルの中へ連れて行った。ところが――ちょうど知り合いの貴婦人たちが集まっていたところに、ばったり鉢合わせしてしまった。「入江さん？本当にあなたなのね！」「さっきから声をかけてたのに、全然気づかないから、人違いかと思ったわ」美琴は無理に微笑んだものの、心の中では顔から火が出るほど恥ずかしく、穴があったら入りたい気持ちだった。「呼ばれてた？ごめんなさい、ちっとも聞こえなくて……」その時、ふと誰かの視線が理子と峯人に向けられた。「このお二人は？なんだか見覚えがあるような……どこかでお会いしたかしら？」ああ、ついに来た。ぶら下がっていた剣は、とうとう美琴の頭上に落ちてきた。理子はにっこり微笑みながら、わざとらしく言った。「前回も、ちょうどここで入江さんとちょっとした行き違いがあって、大きな声を出しちゃったの。そのとき、あなたもいらっしゃったでしょう？」その言葉を聞いた瞬間、貴婦人たちの顔に思い出したような表情が浮かぶ。彼女たちが美琴を見る目は、驚きと困惑、そしてはっきり言葉にはできないような詮索と判断の色を帯び始めた。とにかく、意味深だった。「あなたたちは……和解したの？仲直り？」一人の夫人が尋ねた。美琴が言葉を発する前に、理子が割り込んだ。「話はまとまったわ！とっくに和解済みよ！ほら、ことわざにもあるじゃない
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第350話
「どんな誠意が欲しい？」美琴は歯を噛みしめながら、声を絞り出した。彼女が怒れば怒るほど、理子の心はますます晴れやかになっていく。「早く値段を決めて、この件を片付けたい気持ちはわかるわよ？でもね、私たち、帝都に来てからもう半月も病院暮らしなのよ。泊まってるのは病室、寝てるのは付き添い用の簡易ベッド。おかげで腰は痛いし、背中はバキバキ、脚はつるしでボロボロなの。しかも、この前はあなたの家の運転手のせいで命まで危なかったし、心も体もズタズタよ。まずちゃんと休養を取ってからじゃないと、落ち着いて話なんてできないわよね？」「はっきり言いなさい！結局、何が欲しいの？」美琴は額の血管がぴくぴくと痙攣しながら、堪えきれず声を荒げた。理子は唇の端を持ち上げ、冷たく微笑んだ。「そうね、じゃあ……まずは私と息子をホテルに泊めてちょうだい。もちろん、五つ星よ。できればあれ、何だっけ……ほら、プレジデント？」峯人が横で小声で囁いた。「プレジデンシャルスイート」「そうそう、プレジデンシャルスイート！」美琴はもう、何度目かもわからない深呼吸をした。「……わかったわ！」彼女はすぐに執事に命じ、二人のためにホテルを手配させた。その夜、理子と峯人は、病院の近くにあるインターコンチネンタルホテルの一室にチェックインした。プレジデンシャルスイートはすでに満室だったため、執事が電話をかけて事情を丁寧に説明し、ひたすら低姿勢で交渉を重ねた結果――ようやく、理子はひとつ格下のビジネススイートでの宿泊を渋々了承した。しかしそれでも、目の前に広がる豪華さに、理子親子は思わず言葉を失った。「おや……ベッドルームが二つに、バスルームが三つもある！それにジムまでついてるし、プールまで独立してる……」峯人は部屋をきょろきょろと見回しながら、口を開けて感嘆の声を漏らした。「金持ちって、こんなに贅沢してるのかよ？！」用を足す場所ですら三ヶ所もある。まさか朝・昼・晩で使い分けてるんじゃあるまいな――理子は唾をゴクリと飲み込み、あちこちを触りながら、目を丸くした。「これでもまだビジネススイートなのよね……これより上のプレジデンシャルスイートなんて、一体どれだけ豪華なんだろう。ひぃ……一晩でいくらかかるのかしら？」「いくらでもいいだろ、俺たちが払うわけじゃないんだし！母さん
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第349話
言い終わると、海斗は大股で歩き去った。美琴は夫に叱られたばかりだというのに、今度は息子に責められ、あまりの理不尽さに、もはや天に昇ってしまいそうな勢いだった。「あんたたち親子はどういうつもりなの？！全部私のせいにする気？！私がこんなことしてるのは誰のためだと思ってるのよ！私の苦労なんて、少しも分かってないじゃない！いいわよ、もう！行けばいい！みんな出て行っちゃいなさい！二度と帰ってこなくていいから！夫は私を罵り、息子は親不孝、挙げ句に孫までいなくなって……私は前世でどれだけの悪事を働いたっていうのよ、こんな目に遭うなんて！？」美琴はそう叫ぶと、感情の糸がぷつりと切れたように、ソファへ力なく崩れ落ちた。しかし、やるべきことは、まだ終わっていなかった。彼女は深く息を吸い込み、執事を呼んで理子の連絡先を調べさせた。すぐに、携帯電話の番号が手に入った。美琴はもう一度、深く息を吸い、その番号にかけた。「もしもし？誰？」電話の向こうで、理子は苛立っていた。動画はあれだけ投稿したのに、どうして何の反響もないのか――その焦りと苛立ちが声に滲んでいた。「理子さん、こんにちは。入江美琴よ」その瞬間、理子の目がぱっと輝いた。あれほど募っていたイライラも、不安も、相手の声を聞いた瞬間、すべて霧のように消え去った。「あーら」理子はわざとらしく声を引き延ばし、偉そうに構えた。「あなたね。何の用？」反響がないなんて思ってたけど、ほら、ちゃんと来たじゃない！どうやら、動画の効果は抜群だったらしい。「話しましょう」美琴は単刀直入に切り出した。理子は息子と目を合わせ、芝居じみた口調で返した。「何の話？私たち、別に話すことなんてある？」その言い草に、美琴は一気に苛立ちを露わにした。「ふざけるのもいい加減にしなさい！ここまで騒ぎを起こして、結局お金が欲しいだけでしょ？！」理子は目をきょろきょろさせながら、しらばっくれるように言った。「ちょっと、やめてよね。私は娘のために正義を求めてるの。どうしてそれが、お金目当てみたいな言い方になるの？」「ふん……偽善者め」美琴は冷ややかに鼻で笑った。理子は歯を食いしばって言った。「私にそんな口の利き方をしないほうがいいわよ。今は、あなたが私に頭を下げてる立場なんだから、自分の位置をよくわ
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第348話
次の瞬間、峯人は海斗の会社の法務部から電話を受けた。彼らはすでに証拠の収集を完了しており、「今後、法的責任を追及する権利を留保する」と冷たく告げられた。そして最後には、低く鋭い声で警告された。「大人しくしていないと、容赦はしない」峯人は一瞬で怯んだ。だが、理子はまったく気にした様子もなく鼻で笑った。「何が怖いのよ？弁護士なんて口だけよ。ほんと、情けない子ね！私たちは続けて投稿するの。あっちが一つ消したら、こっちは一つ投稿する――ただそれだけ！」理子の口ぶりは強気だったが、現実はそんなに甘くなかった。彼らが一つ投稿するたびに、即座に削除される。賠償金は影も形もなく、峯人は広告費だけであっという間に十万円も溶かしていた。「続けて投稿しなさいよ！」理子は声を荒げる。「母さん！もうお金がないんだよ……」「……は？」理子は目を丸くした。「じゃあ、母さんがちょっと出してくれない？」「……いや、ほら、よく考えたら。前払いで金かけて、すぐ消されるんじゃ、これってただの無駄遣いじゃない？」「じゃあどうすればいいんだ？」理子は目をきらりと光らせた。「アカウントをたくさん作ってさ、こっちはお金なんてかけずに、ただ投稿するだけにしようよ」「それ……うまくいくのか？」広告費をかけなければ、話題にならない。話題にならなければ、誰の目にも留まらない。それじゃ、どうやって相手を脅して金を取るっていうんだ？理子と峯人のこの小さな騒動など、海斗の目にはまったく取るに足らないことだった。世論で彼を追い詰める？寝言は寝て言え。「社長、あの二人のこと、どうしましょう？」「話題にならなければ、放っておけ」「かしこまりました」もっとも、理子母子のこの一連の動きが「まったくの無意味」だったかというと、それもまた違っていた。少なくとも、理子と峯人の行動は、海斗をうんざりさせることには成功し、入江グループの広報部までをも巻き込む騒ぎとなった。入江グループは現在、昭典が実権を握っている。入江家の当主として、普段は分刻みのスケジュールに追われ、扱う案件は億単位、下す決断は軽く千万単位――本来なら、こんな些細な騒動に目を留めるはずもない。だが、彼には非常に有能な秘書がいた。峯人が動画を投稿すると、その秘書はす
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第347話
「何が分かるのよ！」理子は鼻で冷たく笑った。「今どき、1000万円で何ができるの？高級車一台だって買えないわよ。あんた、本当にそれだけの器なの？」「でも……値段を高くふっかけても、相手が払ってくれなきゃ意味ないじゃん。だったら1000万でも手に入れた方が楽だし……」「バカね、そんな狭い了見でどうするの？！このビルを見てみなさい、美琴が住んでるあの屋敷だってそう。それどころか、あの海斗がつけてる腕時計だって、どれも1000万円以上の価値があるのよ！どうせあの人たちは金持ちなんだから、少しくらい多めに吹っかけたっていいのよ。最終的に10億円は無理でも、1億くらいは引き出せるはずよ！」その言葉に、峯人は少し心が揺らいだ。1000万円と1億円では、桁が違う。「でもさ、そもそも相手は俺たちを完全に無視してるよ。100円だって取れそうにないのに、10億円なんて……」だが、理子は自信満々に胸を張った。「お金持ちが一番大事にしてるもの、分かる？」「何？」「メンツよ！金持ちほどメンツを大事にするの。どう言おうと、晴香は被害者、海斗は加害者よ。うちらは『正義』の立場にいるってこと！この前ホテルで美琴を追い詰めた時、動画撮ってたでしょ？あれ編集してネットに流しなさい。今のネット民はこういう騒動が大好きなんだから。特に金持ちのスキャンダルなんて最高よ！影響が大きくなれば、あの人たちも黙ってられないわ！」峯人はすぐに悪友たちに連絡を取り始めた。「母さん、さすがだよ。こんな方法思いつくなんて！もしもし、ネズミ？ちょっと頼みがあるんだけど……」峯人は自分のTikTokアカウントで、ある動画を公開した。動画の中では、顔にモザイクをかけられた中年女性が、ひとりのセレブ婦人の服をつかみ、その息子が自分の娘を妊娠させた挙げ句、捨てたと声高に訴えていた。その周りでは、富裕層の夫人たちがずらりと並び、興味津々といった様子でその騒ぎを眺めていた。動画を撮影していたのは「被害者の弟」という立場の峯人自身で、姉の無念を晴らすために、正義を訴えるかのような形を取っていた。タイトルはこうだった。#みんな見て！帝都トップセレブが殴打される、真相はまさか……#。名家、セレブ、殴打。この三つのキーワードが、見事にネット民のゴシップ心をくすぐった。殴
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