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第353話

Author: 十一
理子はぶつぶつと文句をこぼしていた。彼女には何が面白いのかさっぱりわからず、興味も湧かない。ただ、人混みがひどすぎて、押し合いへし合いでうんざりするばかりだった。

「もう行こう、早く出よう……」

美琴は嘲るように口元を歪め、彼らと一緒に出ようとしたそのとき、不意に見覚えのある人影を目にした。

凛とすみれが並んで立っており、二人の後ろにはやや年配の男女が寄り添っていた。

男性はショーウィンドウの前に立ち、スマホを手に展示品を撮影している。

女性もそっと近づき、熱心に目を向けていた。

よくよく目を凝らしてみると、その女性の顔立ちは凛に六、七割ほど似ていた。

美琴は、この二人が凛の両親に違いないと推測した。

慎吾は写真を撮りながら、感嘆の声を上げた。「この衣、本当に精巧だな……この型、この細工、この色合い……まさに驚くべき出来栄えだ」

数日前に凛が彼らを連れて一度来ており、今日は二度目の訪問だった。

慎吾は相変わらず興味津々だった。

そのとき、年配者ばかりの観光団体がやってきた。慎吾の詳しい説明を耳にすると、彼らは笑いながら「もっと聞かせてほしい」と口々に頼んできた。

彼らは目が悪く、文字を読むのが大変なため、解説を聞く方が好きだったのだが、たまたまガイドとはぐれてしまっていた。

「聞きたいです。続けてください!」

慎吾は善意で、展示品の横にある説明文を読み上げるだけでなく、そこに書かれていない知識もたくさん付け加えて話し始めた。

「……この衣にはちゃんとした由緒があるんです。普通は象牙や金、宝石といった貴重な素材で飾り付けられていて、この時代の仏衣の一種の様式なんですよ。

ここの仏衣とは、死装束ではなく、その名のとおり菩薩が身にまとう衣のことで、仏堂の供器箱に納められ、供養に用いられるものなんです」

……

「文献によれば、この時代、勅命によって作られた五色の仏衣は全部で十七着もあり、それぞれ各地のお寺に奉安されていたそうです」

パチパチパチ――

彼が話し終えると、その場には自然と拍手が湧き起こった。

気がつけば、年配の人々だけでなく、周りにいた若者たちもいつの間にか集まってきていた。

「おじさん、そこの冠について、もっと詳しく教えてくれませんか?」若い男性が声をかけた。

慎吾はちらりとそちらを見て、思わず笑った。おや、本当に
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