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第2話

Author: 紗々
恭介は何も言わず、ただ無言で口を動かした。

[約束しただろ]

私は視線を戻し、笑顔で莉奈とグラスを合わせた。

「おめでとうございます。いつまでもお幸せに」

本心からそう願っていた。

だって、二人がこの結婚式でしっかりと結ばれてくれれば、都合が良いのだから。

莉奈は、口元を手で隠して嬉しそうに笑った。

けれど、恭介はきょとんとした表情を浮かべた。

莉奈はさらに数杯のグラスを交わしてきたが、最後には少し感傷的な様子を見せ始めた。

「もしあの人が去ったりしなければ、私の憧れの結婚式が叶っていたのかもしれないけれど……」

恭介は彼女の肩をそっと叩いて、優しい声で慰めた。

「あいつが逃げたのは損だよ。そもそも世の中には、分不相応な幸運なんて、最初から手に余るような連中もいるのさ」

莉奈は何も言わなかったが、恭介の肩に顔を預ける彼女の頬は少しずつ赤く染まっていった。

彼女はドレスの裾をきゅっと握り、小声で呟いた。

「でも、あなたが来てくれただけでも凄く嬉しかったわ」

周囲がまた冷やかし始め、二人は賑やかな人波に背を押されて次の席へと向かった。

莉奈の長いドレスの裾が、私の目の前からゆっくりと遠ざかっていく。

このウェディングドレスは、私が10軒ものウェディングドレスショップを駆け回って彼女のために選んだものだ。

ブライダルプランナーとして彼女の突発的な思いつきに付き合い、会場デザインを5パターン以上も書き直した。

アシスタント・二宮陽奈(にのみや ひな)は呆れ返って不満をこぼした。

「からかわれている気分ですか?言うことが真逆になって、これじゃ今までの苦労が全て台無しですよ」

私が言葉を挟む間もなく、出し抜けに恭介の冷たい声が響いた。

「お客様に満足してもらえるまで変更するのが、お前の仕事だろ?」

私が呆然と彼を見つめると、恭介はプランニングシートに目を落としながら、少し惜しそうに笑みを浮かべていた。

「完璧な結婚式にこだわりたいのは、どの女性だって同じだろ?

葵、お前はプロだ。そのことはお前が一番よく理解できているはずだろう」

ええ、理解できる。だがそれと同時に私は思い知らされていた。

彼はその気持ちを理解していながら、私にはいつ行われるかも分からない結婚式を、7年間もただ待たせ続けてきたのだ。

恭介の言った言葉の中で、一つだけ正しいことがあった。

そもそも世の中には、分不相応な幸運なんて、最初から手に余るような連中もいる。

突然スマホにメッセージが届いた。恭介からだ。

【お前のウェディングドレスに合わせるベールが決まってないよね?式が終わったら買いに行こう】

私はそれを読んでも返事をせず、鞄を持って席を立った。

外に出てしばらく歩いた頃、あるウェディングドレスショップからの予約通知を受信した。

これは恭介なりの埋め合わせのつもりなのだろう。

その瞬間、背後の式場の頭上に眩しいくらいの花火が上がった。

夜空に広がった大きなハートマークは、揺るぎない最愛の想いを象徴している。

これは、以前に私自身の結婚式のために心を込めて作ったプランの一部だった。

彼がたまたま見つけて絶賛し、今回、莉奈へのサプライズとしてそのまま使ったのだ。

私はスマホを開いた。新着の更新の一番上に、一つの投稿が表示された。

莉奈は、【私の好きという気持ち、やっと実を結びました!皆さん、お祝いしてください!】と投稿した。

添えられた写真は、結婚披露宴の華やかな雰囲気が並ぶ9枚の写真だ。

その下には、何人もの共通の友人からの祝福メッセージが寄せられている。

【え、本当に?学生時代の憧れの二人が復縁したなんて大感激!】

【うわ、驚いた!この間恭介さんに彼女がいるって噂があって、3組の篠原さんのことだと思ってたから。でも、本当によかった!】

【幸せそうで良かった!巡りめぐって元の場所に戻ったね。これからもずっとお幸せに!】

9枚の写真の真ん中にある、新郎新婦のロマンチックなキスショットが一際目を惹いた。

構図でごまかしてはいるものの、恭介の心はもうとっくに莉奈の方へ傾いていた。

私は画面をオフにし、深く静かに息を吐いた。

これほどまでに感情を込めた式だもの――

私が彼に別れを告げたとしたら、恭介はきっと迷いもなく、それを受け入れることだろう。

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