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第878話

作者: 雪吹(ふぶき)ルリ
二人はすぐにベッドへともつれ込み、真司は身にまとっていたバスローブを脱ぎ捨てた。佳子の手が彼の筋肉に触れると、「そうだ。ここ、コンドームがないよ」と口にした。

真司は彼女の唇を塞ぐようにして囁いた。「なら、使わなくていい」

佳子は小さく頷いた。「うん」

なら、今夜は思いきり楽しもう。

若く、そして愛し合う二人は、この夜に青春を惜しげもなく燃やし、愛を貪るように味わった。節度などなく、二人が眠りについたのは夜明け近くだった。

真司は汗に濡れた佳子を腕に抱き寄せた。彼女の白い頬には数束の長い髪が貼りついている。

真司はそっと指先でその髪を払いのけ、「疲れた?」と優しく尋ねた。

佳子は彼の胸に耳を当て、力強く刻まれる鼓動を聞きながら身を委ねた。

その心音は、彼女に不思議な安らぎを与えた。

佳子は目を閉じたままだ。「すごく……疲れたわ」

彼女はもはや目を開ける力さえ残っていない。

真司は彼女の額に口づけした。「佳子、せっかくだからここで数日遊んでから帰ろうか。俺たち、西山県に来るのは初めてだろう?一緒に見て回りたい」

長い付き合いではあるが、二人はまだきちんと恋人らしい時間を過ごしたことがないのだ。

佳子は目を閉じたまま、呟いた。「疲れてるから、いい……やめておこうね」

真司は笑って頷いた。「わかった。じゃあ明日の朝には帰ろう」

佳子「ええ」

「佳子、帰ったら結婚しよう」

結婚?

以前にも聞いた言葉だが、こんなに急ぐとは思っていなかった。

その時、佳子の指先にひやりと冷たい感触が走った。真司が彼女の薬指に何かをはめ込んだのだ。

佳子は目を開けると、自分の細く白い指に輝くダイヤの指輪がはまっている。

真司は彼女に指輪を贈ったのだ。

佳子はびっくりするように聞いた。「これ……どこで?」

「もちろん俺が買ったんだ。ずっと前から準備してたんだよ。本当はすぐにでも君の指に通したかった」

佳子の目の縁に熱い涙がにじんだ。まさか彼がもう買っていたとは。

真司は切なげに見つめながら言った。「佳子、本当なら盛大なプロポーズを用意すべきだった。でも、待てなかった。君を失うのが怖いんだ。だから指輪を渡して先に繋ぎとめておきたかった。佳子、結婚してほしい」

佳子「私……」

彼女が口を開く前に、真司は焦ったように言葉を重ねた。拒絶されるのが怖かっ
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