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第6話

Author: 楽しくお金を稼ごう
その頃、ドレスショップでは、マネージャーが沙綾を試着室へ案内しようとした矢先、有栖の携帯に顧客であるセレブの奥様から電話が入った。

明日のチャリティーオークションの出品物について詳しく知りたいという内容だったため、有栖は資料を取りに店の外に停めた車へ戻っていった。

沙綾は一人で試着室に入った。店員がドレスを運び入れて退室すると、沙綾はそれを手にして着替えスペースへ入り、着ていた白いカシミヤのコートとジーンズを脱いだ。

ベアトップのロングドレスに身を包んだ、その時だった。

突然、背中からビリッと生地が裂ける音が響いた。

ドレスの背中部分が裂けてしまったのだ。

最近、太ったからだろうか。

いや、オーダーメイドのドレスが、こんなにも脆いはずがない。

訝しんでいると、突然、試着室のドアノブがガチャガチャと回された。

沙綾はビクッと肩を揺らした。

幸い、中に入った時に鍵をかけていたため、外から開けられることはなかった。

「有栖、あなたなの?」

沙綾は声を潜めて尋ねたが、返事はない。ただ、ドアノブを激しく回す音だけが続いていた。

さすがに動揺し、沙綾は声を張り上げた。「外にいるのは誰」

「もう、使えないわね。開かないなら体当たりして開けなさいよ」

唐突に、聞き覚えのある声が響いた。

「カメラの準備をしろ。ドアを蹴り破るぞ」

別の男の声がした直後、シャッターを切る音が連続して鳴り響いた。

すりガラスのドア越しに、黒い影が迫ってくるのが見えた。まさにドアを蹴破ろうとしている男の足だった。

その間にも、ドレスの背中の裂け目はどんどん広がり、ついには胸元からずり落ちてしまった。

こんな無惨な姿を、もしマスコミに写真でも撮られたら……

間違いなく、名誉は地に落ちる。

すべては、ほんの一瞬の出来事だった。

沙綾はパニックに陥り、叫び声を上げた。「有栖!マネージャー!誰か来て」

誰かが駆けつけるよりも早く、男の足がドアに激突した。

バンッ、と轟音が耳元で炸裂する。

フラッシュのまばゆい光が、もぬけの殻となった試着室を絶え間なく照らし出した。

「人がいないぞ」

異変に気づいた誰かが、驚きの声を上げた。

その時、沙綾が隣の試着室から姿を現し、入り口に立って冷ややかな表情で言い放った。「もう警察は呼んだわ。誰一人逃がさないから」

バッグは元の試着室にあり、スマートフォンもその中だ。

完全なハッタリだった。

氷のように冷たい声を響かせ、驚愕して振り返った暴漢たちを見据える。そして、一番近くに立っていた朱里の、血の気が引いた顔へと視線を落とした。

朱里は唖然としながら、沙綾を頭の先から足元までジロジロと見た。

沙綾は膝まである大きめのダークグレーのチェック柄メンズスーツを羽織り、その美しいプロポーションをすっぽりと隠していた。スーツの裾から覗いているのは、真っ直ぐに伸びた細い脚。冷たい床の上に、裸足で立っていた。

「お姉ちゃん、何か誤解してない?私は友達の浮気現場を押さえるのを手伝いに来ただけよ」

朱里が週刊誌の記者に目配せすると、記者もすぐに調子を合わせた。

「そうですよ、奥様。我々は不倫の証拠を掴みに来たんです」

その時、入り口から足音が聞こえてきた。

最高級のオーダーメイドで仕立てた黒のカシミヤコートを身にまとい、高貴なオーラを漂わせた時彦が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

その後ろには、困惑した表情の有栖と、ショップのマネージャー、店員が続いていた。

有栖は手に資料とスマートフォンを握り、通話を終えたばかりの様子だった。沙綾の無惨な姿を見ると、慌てて駆け寄った。

「小林さん、どうされたのですか」

沙綾は有栖の手を軽くポンポンと叩いて安心させた。

たった数ヶ月付き合っただけの部下でさえ心配してくれるというのに、時彦は冷淡な表情のまま一瞥しただけで、それ以上の反応は示さなかった。

「時彦、来てくれてよかった。お姉ちゃん、本当に誤解してるの。私は友達の浮気現場を押さえに来ただけで、お姉ちゃんが中で着替えているなんて知らなかったわ」

朱里はすぐに時彦のもとへ駆け寄り、その腕に抱きついて泣きついた。

「信じられないなら、すぐにその友達を呼んで話し合ってもいいわ」

時彦は冷ややかな表情で言った。「誤解だろう」

「誤解ですって?」

朱里が「知らない」と言っただけで、事情も聞かずに「誤解だ」と片付け、庇うのだ。

あわや尊厳を奪われるところだったというのに。

話し合う?

朱里の言う「友達」など、どうせ口裏を合わせるに決まっている。

沙綾は両手をぎゅっと握りしめた。

「私がドレスを着た途端、背中の糸がほつれて腰まで裂けたのよ。その直後に誰かがドアを蹴り破って、大勢の記者が中をフラッシュで照らしたの。これが誤解だと思える?最初から私を陥れる罠だったのよ」

「時彦、本当に誤解よ!私がそんなこと、お姉ちゃんにするわけないじゃない」朱里は必死に反論した。

時彦は薄い唇をわずかに動かし、淡々とした声で言った。「ああ、君を信じているよ」

「防犯カメラの映像を出して」沙綾はマネージャーに向かって言った。

沙綾もマネージャーにとって、決して怒らせてはならない相手だ。

だが、時彦は汐見市を牛耳るトップ豪門の社長だ。彼が足を踏み鳴らせば汐見市全体が揺れるとまで言われている。そんな彼を敵に回すことなど、絶対にできるはずがなかった。

時彦が明らかに朱里に肩入れしているのを見て、マネージャーはすっかりどうしていいか分からなくなってしまった。

防犯カメラという言葉を聞くと、朱里は可哀想な被害者を装って泣きついた。

「お姉ちゃん、私、本当にやってないわ。どうしてそんなに私のことが信じられないの?妹の私が、お姉ちゃんを陥れるわけないじゃない」

妹?

よくもそんなことが言えたものだ。

「何もしていないなら、何を恐れているの?それとも、真実が明るみに出るのが怖いのかしら」

沙綾は冷たく笑った。

「それは……」

朱里の小さな顔から血の気が引き、しどろもどろになっていると、時彦がそっと手を握って安心させた。

朱里を落ち着かせた時彦は、沙綾に視線を向けた。その瞳に宿っていた優しさは、すでに冷淡な色へと変わっている。

そして、アシスタントの洋一に命じた。「調べてこい」

洋一は恭しくうなずき、マネージャーに案内させた。

数分後、洋一が戻ってきた。

「社長、毎週水曜の午後は店内の防犯カメラのメンテナンスを行っているとのことで、映像には何も残っていないそうです」

「そんなはずない……」

沙綾が青ざめた顔で小さく呟いた、その時だった。

耳元に時彦の苛立った声が届いた。

「これで満足か」

まるで理不尽な騒ぎを起こしているとでも言わんばかりの、責めるような口調だった。

沙綾の返事を待つこともなく、時彦は朱里を連れて外へと歩き出した。その声は、恋人に囁くように甘く優しかった。

「どうして浮気調査なんてしているんだ。随分と暇を持て余しているようだな。何かやらせる仕事を見つけてやらなきゃな」

「時彦……」

朱里は甘えた声を出し、彼の腕にぴったりと寄り添った。

その光景を見て、沙綾は声を張り上げた。「私は最初から最後まで、自分が試着室の中にいたなんて一言も言っていないわ。ただ警察を呼んで捕まえると言っただけで、朱里は勝手に言い訳を始めたのよ。最初から仕組まれていた計画でもない限り、どうして私が中にいると分かったの」

二人の足がピタリと止まった。

朱里は慌てて時彦を見上げ、唇を噛み締めながら言い訳をした。「時彦……それは……」

しかし、時彦はさらに優しい声で朱里を慰めた。「説明しなくていい。君がそんな悪い子じゃないことは分かっている。誰かに唆されたんだろう」

時彦は背後にいる記者たちを、氷のように冷酷な目で見据えた。

「こいつらの足をへし折って、汐見市から叩き出せ」

「時彦!」朱里は驚愕の声を上げた。

記者たちが恐怖のあまり助けを求める間もなく、ボディガードたちに口を塞がれ、引きずり出されていく。

その光景を見て、朱里は完全にパニックに陥った。

沙綾も唖然とした。

一体、誰のために怒っているのだろうか。

すると、時彦の手が朱里の手にそっと添えられ、低く囁くのが見えた。

「君の名誉が一番大事だ」

その言葉に、朱里は花が咲いたような笑顔を見せ、勝ち誇ったように沙綾をチラリと見た。

去っていく冷酷な背中を見つめながら、沙綾は目頭が熱くなるのを感じた。

時彦は自分のために怒ってくれたわけではない。

朱里の悪事を揉み消しただけなのだ。

長年ビジネスの世界で修羅場を潜り抜けてきた、あの鋭い彼が、朱里の仕掛けた罠に気づかないはずがない。

ただ、真実などどうでもよく、妻である自分の顔に泥を塗ることも気にならないだけなのだ。

そして、あの防犯カメラ……

沙綾はマネージャーを問い詰めた。

「奥様、私どもは本当に無実です。奥様のドレスはお直しのために工場へ送り、今朝戻ってきたばかりなのです。数百万円もするドレスに、私どもが手を出すような真似などできるはずがございません」

「防犯カメラはどういうことなの」沙綾は尋ねた。

高級ブティックが、平日の営業時間中に防犯カメラのメンテナンスをするはずがない。

時彦を怒らせるわけにはいかない。だが、目の前の奥様も、そう簡単にごまかせるような相手ではない。

そう悟ったマネージャーは、数秒ためらった後、真実を口にした。

「高橋社長の部下の方が消去されました。申し訳ございません、奥様。私のような立場の人間には、逆らうことなど到底不可能でして……

このドレスの代金は全額お返しいたします。そして、もう一着別のものをお選びいただきますので、どうか穏便に済ませていただけないでしょうか」

時彦は朱里のやったことを知っているだけでなく、証拠まで完全に隠滅したのだ。

足元から這い上がるような冷たさが、全身を駆け巡った。

彼のために悲しむ価値などない。

それなのに、心はひどく凍えきっていた。

ショップを後にした沙綾は、矢も盾もたまらず奈々に電話をかけた。

離婚の手続きにどれくらい時間がかかるのか知りたかった。

もう一秒たりとも待ちたくなかった。

何度かコールが鳴った後、やっと電話がつながった。

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