Share

第235話

Author:
忍は目を細め、彼女の作り笑いに思わず笑ってしまった。

彼は彩乃をベッドに押し倒し、さらに顔を近づけて、悪戯っぽく笑った。「そんなこと言ったら、本当にダメな男は怒るぞ。俺は違うけどな」そして、彼女の耳元で甘噛みしながら囁いた。「俺はダメじゃないからな」

彩乃は、彼の挑発に体が痺れるような感覚を覚えたが、声は落ち着いていた。「腕がいいかどうかを決めるのは女よ」

忍は耳たぶにキスをし、それから首筋へと唇を移した。「じゃあ、昨夜は俺の何がダメだったんだ?」

彩乃は言葉に詰まった。

忍は話を続けながら、彩乃の首から頬へとキスをしていった。彼女の苛立った視線を見て、さらに笑みを深めた。「昨夜、あんなに叫んでいたのは、気持ちよかったからじゃなくて、辛かったからか?」

彩乃はもう彼に押さえつけられているのが嫌だった。「どいて」

忍は言った。「あなたは本当に理屈っぽいな。真剣に話してるのに、イライラするなよ」

彩乃はこんなに図々しい男に会ったことがなく、忍の顔を突き放そうとした。

忍は彼女の唇を情熱的に奪った。激しいキスは、布団を剥ぎ取られ、さらにエスカレートしていった。

すぐに彩乃は、彼の髪が顎をくすぐる感触に気づいた。くすぐったくて仕方がない。

昨夜も、彼はこの場所が好きだった。

またするの?

彩乃は我慢できなくなり、少し怒って、彼の頬を両手で掴んで引き上げた。

彼女はもうほとんど力尽きていたが、忍は彼女をからかうのが好きで、軽く引っ張られると目の前に顔が来た。そのしぐさは彼女に合わせてあげたようで、いたずらぽかった。

彩乃は彼の唇についた唾液の光沢が見えたが、それ以上目を向けたくなかったから「やめて」と言った。

そう言った途端、忍は片手で彼女の腰を掴んだ。「あなたの腰、全然肉ついてないじゃん。なのに、どうして俺の好きな場所だけ、こんなにぷにぷにしてるんだ?」

次の瞬間、彩乃はその場所を強くつままれた。

彼女は言葉に詰まった。

彩乃は自分が風船になったような気がした。風船を押しつぶしたり、こねくり回したりするのが好きな人っているけど、今、忍がまさにそうしている。

彼女はまだ両手で彼の頬を掴んでいた。彼の顔を潰してしまいたかったが、やめておいた。「私の言うこと聞くって言ったじゃない?」

忍は「聞くって言ったけど、まだ次の約束してないだろ?」
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第345話

    その時、隼人の声が響いた。「もう中に入れ」彩乃は幻聴かと思ったが、顔を上げると隼人の姿が飛び込んできた。思わず目を見開いた。うっそでしょ。雲の上の存在である鷹司社長が、なぜ自分の家に?彩乃は少し焦った。「月子……なんで早く言ってくれなかったのよ!」そうすれば、庭で時間を無駄にせずに、もっと早くおもてなしができたのに。「今、言おうとしてたとこだったの」月子はそう言いながら隼人の方を見た。他人がいると、さっき彼とハグしたり、手をつないだりした場面が頭に浮かび、急に恥ずかしくなった。しまった。隼人を家に入れいたことを、まだ彩乃にちゃんと説明していなかった。月子は後ろめたさから、無意識に彩乃にぴったりとくっついた。隼人は、二人の繋がれた手に視線を向けると、すぐに視線を逸らした。その表情は相変わらず冷たかった。彩乃はそのオーラに圧倒されたが、彼はいつもこんな感じなので、深くは考えなかった。隼人がいるので、彩乃は忍にイライラさせられたことなんて忘れてしまった。急に元気になり、月子の手を引いて家の中へ入った。彩乃は、まさか隼人が自分の家に来るなんて、夢にも思わなかった。これも親友のおかげだ。今日は、早紀が自ら会社に来て、とても誠実な態度で二つの契約書を差し出したのだ。颯太に謝罪させれば一件落着だと思っていた彩乃にとって、早紀が自ら来てくれるなんて予想外だった。契約後、早紀はさらに食事に誘い、親睦を深めようとしてきた。月子は、本当に最強のコネを持っている。彩乃の家のインテリアはセンスが良い。しかし、隼人が入ってくると、小洒落た雰囲気は彼の気品ある立ち居振る舞いには見劣りするように思えた。多分、彼の様な身なりには、豪華な内装の方が似合うだろう。家にあるソファや椅子はどれも芸術的なデザインだった。隼人を席に案内すると、彩乃は丁寧に尋ねた。「鷹司社長、お酒はいかがですか?20年以上前の……を、大切に保管しているのですが」ちょうど入ってきた忍は、その言葉を聞いて面白くなかった。「どういうことだ、一条社長。この前は俺には出してくれなかったくせに。隼人が来た途端、態度を変えるなんて、ご機嫌取りもいい加減にしろよ。媚びへつらつくなら俺にしたほうがいいぞ。俺はどこぞかの冷たい奴らとは違って、優しいから、頼み事をして

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第344話

    そもそも霞にはそんなに優しくできるのだから、人から優しくしてもらには自身も何かしらの代償を差し出し必要があるってことくらい理解してるはずだ。なのに、自分には冷酷な態度を取るくせに、変わらず愛されたいなんて。本当、そんな都合のいいゆめから目覚めて欲しいもんだ。「いつまでイチャイチャしてるんだ?」ふざけた声が横から聞こえてきた。わざと挑発するように。「知らない人が見たら、付き合ってると思うぞ」そう言いながら、忍がゆっくりと近づいてきた。彩乃は即座に彼を睨みつけた。忍は気にせず、さらに挑発するように言った。「そんな目で見つめてどうするんだ?俺が駆けつけなかったら、あなたと警備員は一触即発だったろうが。あなたのその細い腕で、あの屈強な男二人に勝てるわけないだろ?」忍はそう言うと、さらに嫌味ったらしく笑った。「一条社長、時には強がるのはやめた方がいい。助けを求めるのも賢明な選択だ。例えば俺みたいに、情に厚くて、タダで力になってくれる相手をうまく利用するのも悪くないぞ」彩乃は忍と親しくなる前は、J市社交界で権力と財力を持つ彼に一目置いていた。しかし、深く付き合うようになってからは、忍がどれほど図々しいかを、よくわかったのだ。彼の言う言葉はどれも、彩乃の我慢の限界を踏んでいたのだ。育ち背景の違いから、彩乃は自然と彼に怒りをぶつけるのを抑えようとしていたが、しかし短気な彼女はもはや我慢の限界だった。「少し黙ってくれない?」彩乃は笑顔で皮肉ぽくに言った。忍はわざとらしく口を閉じた後、眉を上げて、また得意げに笑った。一樹の色ぽい目は笑うと甘い感じなのだが、忍の色ぽい目は笑うと、人を挑発しているように見えるのだ。「一条社長、口閉じたよ。これで満足?満足したら高評価してね」彩乃は呆れてものが言えなかった。月子は忍と彩乃を交互に見て、少し驚いた。彩乃はもともと短気で、何かあればすぐに爆発するタイプで、基本的に損をすることはないのだ。忍は面倒見がよくて気前もいい人間なのに、なぜ彩乃と会うと、あんなに嫌味なことを言うのだろう?月子は二人の間の険悪な雰囲気を感じ、仲裁に入った。「忍さん、本当に助かった。ありがとう!」忍は月子に対しては、急に態度を変えた。「礼を言われるようなことじゃないさ。あなたのためなら当然だ」彼は笑顔で

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第343話

    月子は中に入ったが、リビングには誰もいなかった。突然、胸騒ぎが止まらなかった。「彩乃?」次の瞬間、リビングの大きな窓の外、庭の向こうの明かりがついた。月子は忍と彩乃の姿を見つけた。彩乃も月子に気づき、すぐにこちらへ歩いてきた。その隙に、月子とりあえず隼人に家の中に入ってもらい、自分は外へ彩乃を迎えに行った。彩乃は大急ぎで駆け寄り、月子を抱きしめ、心配そうな顔で彼女をじっと見つめた。「もう、びっくりした!あの最低男、あなたに何もしてないわよね?」彩乃はそう尋ねると、月子の目が赤くなっていることに気づき、怒りがこみ上げてきた。「泣いたの!一体、どういうことなの!静真のやつ、許せない!」月子は彩乃の優しい言葉に心が温かくなった。やはり自分に合った相手といると自分もどんどん前向きになれるのだ。反対に合わない相手といると、知らず知らずのうちに落ち込み、イライラしやすく、感情的になってしまう。今はただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。「心配しないで。演技よ。静真からスマホを奪うためにやったの。そうでもしないと、あなたがどこにいるか分からなかったから」月子の言葉は、半分本当で半分嘘だった。静真は何度も同じことを繰り返していたので、月子はもう慣れっこになっていて、彼のために心を乱されることはなかった。だって、彼はそんな価値のある人間じゃないから。しかし、彩乃のことが本当に心配だった月子は、彼女が無事でいるのを見て安心した。それと同時に、静真への怒りが再びこみ上げてきた。今後、静真が何をしようと、もうそう簡単に影響されることはないだろう。彩乃は月子の言葉を少し疑っていたが、彼女の調子が良さそうなので安心した。月子はすぐに尋ねた。「一体、静真はどうやってあなたのスマホを奪ったの?」彩乃は歯を食いしばった。「静真ったら、本当に自己中なんだから!多分自分で来るのも面倒だったんだろう、秘書と警備員に私をホテルに閉じ込めて、スマホだけを奪ってあなたに電話掛けたのよ!最初はそんなに心配してなかったけど、秘書からあなたが探しに来たと聞いて、すごく焦った。少し抵抗したんだけど、警備員に突き飛ばされて……でも、大したことにはならなかったけど!」彩乃はそう言うと、月子の腕を掴み、真剣な表情で言った。「彼がまた何かをさせようとしてきた

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第342話

    二人は何も言葉は交わさなかった。しかし月子は、この瞬間、隼人との心の距離が、ぐっと縮まったのを感じた。彼の心配する気持ちが、ひしひしと伝わってきた。それは、ある種の直感だった。月子は、考えるよりも先に言葉が口からでたのだ。「私の家に来ますか?」それを聞いた隼人は、ただじっと月子を見つめていた。月子は、彼の目を見据えて言った。「私に後悔する時間を与えないでください」隼人は、月子が泣き崩れているのは静真のせいだろうと察し、内心では激しい怒りが渦巻いていた。そんな時、月子の突然の言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに彼女の真意を理解した。月子が自分に近づこうとしている。二人の間の壁を、彼女が自ら壊してくれたのだ。隼人は、何も考えず、月子の首に手を回し、強く抱き寄せた。それは、優しく包み込むような抱擁ではなく、まるで彼女を自分の支配下に置くような、力強い抱きしめ方だった。月子は彼の胸に顔を埋め、力強く、それでいて規則正しい鼓動に耳を澄ませた。そして、二人はこのまま彩乃からの連絡を待った。しばらくして、忍からメッセージが届いた。【もう大丈夫だ。さきに彼女を家まで送り届けるから】月子は顔を上げた。「先に彩乃の家に行ってもいいですか?」隼人は、月子の涙の跡を指で優しくなぞった。まだ涙が残っているような気がして、拭ってあげたかった。「ああ、一緒に行こう」普段、隼人が月子の車に乗る時は、運転するのはいつも彼だった。しかし今日は違った。彼は助手席に座ったまま、ずっとスマホを操作していた。今日は出張だったから、会社の仕事だろうと月子は深くは考えなかった。しかし、月子は隼人の目に宿る冷たさには気づいていなかった。彼は既に、今夜起きた出来事を知っていた。そしてそれについて賢に指示も出していたのだ。一連の操作が終わると、隼人はようやくスマホをしまった。そして月子に「手を出せ」と言った。月子が右手を差し出すと、隼人はそれを握り、静かに言った。「静真には、しばらく消えてもらうことにした。もう指示はしてある」「どうやってできたのですか?」「入江グループの海外プロジェクトに、少し手を加えた。これはおじいさんにも伝えてある。静真は行かざるを得ない。そして、戻ってくる頃には、おじいさんの誕生日も近い。ちょうどいいタイミングだ!」隼人の表情は

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第341話

    声は冷たく、危険な響きを帯びていた。しかし、月子はハッとした。いつの間にか、隼人という男は自分にとって安心感の象徴となり、彼の声もまた同じように響くようになっていたのだ。月子が静真に言った言葉は、半分は本心から、半分は演技だった。静真がこんな騒ぎを起こしたのは、結局、自分に無条件に愛され続けたいからだろう?愛していないものは、愛していないのだ。そして、同じ言葉を何度も繰り返すうちに、月子は何も感じなくなっていた。先ほど、彼女が心から動揺したのは、あの子供のことだった。それ以外は全て演技だった。最終的な目的は、彼のスマホを手に入れ、彩乃を見つけることだった。全ては順調に進んでいた。しかし、隼人とばったり会い、彼の心配そうな目に気づき、彼の言葉を聞いた途端、月子の中にあった悔しさが一気に込み上げてきた。涙が止まらなくなりながら、「彩乃を捜しています。彼女は……隣のホテルにいるはずです」と呟いた。隼人は月子の顔を優しく撫で、涙を拭った。彼女が取り乱している間、彼は冷静さを保ち、落ち着いた声で言った。「分かっている。もう人を送って捜させている」「私も行きます」隼人は反対せず、「ああ、一緒に行こう」と言った。隼人はそう言うと、彼女の手を取り、本当に一緒に彩乃を捜しに行った。しかし、数歩歩いたところで、彼は立ち止まった。月子が不思議そうに彼を見上げると、突然、視界いっぱいに男の胸板が広がった。何が起こったのか理解するよりも早く、月子は隼人に抱きしめられていた。彼の服に顔を埋めると、心地よい香りが鼻腔をくすぐった。数秒後、彼は耳元で囁いた。「怖がるな」その言葉を聞いた途端、月子の目に再び涙が溢れた。自分でも気づかないうちに、彼女は恐怖に怯えていたのだ。自分のせいで彩乃が傷つけられるかもしれないという、深い恐怖に。静真が自分に襲いかかってきたとしても、これほど怖くはなかっただろう。隼人の言葉は不思議な力を持っていた。彼の言葉は心を落ち着かせ、涙とは裏腹に、彼女の心は穏やかになっていった。冷静さを取り戻すと、今の自分の姿がひどくみすぼらしいことに気づいた。彩乃がこれを見たら、きっと心配するだろう。「分かりました。あなたの部下にお任せします」隼人は抱擁を解き、彼女の涙を見つめた。唇を固く結び、胸の奥

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第340話

    静真の心は引き裂かれるようだった。激しい痛みが彼を襲い、もはや耐え切れないほどだった。声はかすれ、「月子、これ以上、俺を追い詰めるな……」と言った。「私が追い詰めてる?違うでしょ!あなたの方こそ、ずっと私を苦しめてきたのよ!何度も何度も訴えてきたのに……聞いてくれなかったじゃない!」月子は必死に抵抗したが、静真の力は強すぎた。彼女は意を決して、彼に体当たりした。不意を突かれた静真は、床に倒れ込んだ。とっさに反応したが、それでも頭を打ってしまい、一瞬、意識が飛んだ。月子はその隙にすぐさま起き上がった。しかし、静真は素早く月子の肩を掴み、後頭部を押さえつけ、一気に距離を縮めた。月子の涙が彼の顔に落ちた。「静真、彩乃はどこにいるの!」彼女の熱い涙が落ちたところは、まるで焼けるように熱かった。静真は歯を食いしばりながら言った。「戻ってくるって約束してくれたら、教えてやる!」「馬鹿なこと言わないで!」冷酷な視線を向けた月子は、静真が油断している隙にテーブルの上の灰皿を掴み、彼の頭に叩きつけた。「……月子!」静真は咄嗟に身をかわした。その隙に、月子は彼のポケットからスマホを奪い取り、立ち上がった。額から血を流す静真は、月子が躊躇なく立ち去っていく様子を、ただ見つめるしかなかった。あまりにも潔い彼女の立ち去り方に、静真は、先ほどの彼女の苦しみや取り乱し方は全て演技だったのではないかと疑い始めた。まるで、深く傷ついたふりをしていただけで、あまりにも真に迫っていて、彼には見抜けなかったのだ。静真には、もう月子を追い詰める力は残っていなかった。彼は、彼女の背中を見送ることしかできなかった。数日前、自分の家から彼女が出て行った時も、まさにこの光景だった。離婚してからというもの、月子が彼に見せるのは、いつも冷たい背中ばかりだった。そして、彼は追いかける勇気がなかった。追いかけても何も変わらないことを知っていたからだ。彼女は全身で、彼から逃げ出したいと訴えていた。そして、この時になってようやく、静真は我に返った。自分が月子を抱きしめていたのだ。生まれて初めて、誰かに弱みを見せた瞬間だった。今まで一度も頭を下げたことのなかった彼が、月子の涙を見て、思わず頭を下げてしまったのだ。なぜだ?一体、自分はどうしてしまったん

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status