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第505話

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G市は亮太のシマだ。すぐに自分を見つけられるだろう。

静真がK市でどれだけ顔が利こうと、ここでは通用しない。

自分は安全だ。

大事にはならないだろう。

それより一番厄介なのはここにいる静真だ。

月子は思いを巡らせ、瑛太は多分大事には至らないだろうし、自分も今のところは安全だと理解したことで、少し冷静さを取り戻した。

そして、冷静になった月子は改めて静真の恐ろしい独占欲に気づいた。以前、彼がおかしくなったときも、比較的穏やかだったのは、自分の気持ちが先に冷めていたことに対して不満に感じただけで、それほど自分のことを眼中になかったからだろう。なにせ、彼は復縁を迫るときでさえ、上から目線だったから。

その状況が、この前入江家での出来事から一遍した。

それで静真は逆上したのだろうか?

月子は自分の推測が正しいと確信していた。離婚届を受け取った時、静真はまだ彼女の決意に気づいていなかった。そうでなければ、自分が妻として素直に正雄の誕生日会に来るとは思わなかったはずだ。だから、静真は自分を放っておいてた。結局彼は、自分が戻ってくると高をくくっていたのだ。

それが正雄の誕生日会の日を境に、彼はようやく自分の揺るぎない態度に気づき、それからやっと静真は自分を「重視」し始めたのだ。

月子は心の中で「最低な男」と呟いた。

ただ、静真がどれほど気が来るほど暴れようとも、自分には入江家に打ち明けないといけない理由があった。入江家に自分の意思表示をしてこそ、静真がどんなにゴネても、彼の言い分は通らない。そうすれば、いざという時は自分にだってちゃんと言い分があるわけだから、静真も親族を完全に無視するわけにはいかないだろう。

唯一のデメリットは、月子が彼に時間と労力を費やさなければいけないことだ。本当にこれ以上の無駄はないだろう。

彼女の沈黙に、静真の顔色はますます険しくなった。「どうして黙っているんだ。あいつを庇ってるのか?答えろ!」

「あなたと話すことはないのよ。分かった?」

「いいだろう。上等だ」

月子は静真を警戒しながら、車の進む方向を確認していた。しかし、土地勘がないため、どこへ向かっているのかがわからなかった。彼女はこの制御できない感覚は非常に不快だった。そして言われたがままにしたくなかった。

今は前回のように、静真が復縁を望んでいると分かっていた
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