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兄たち、今さら後悔しても遅い
兄たち、今さら後悔しても遅い
Author: ちょうどいい

第1話

Author: ちょうどいい
新年早々、三人の兄を助けようとして事故に遭った。

けれど兄たちは泣きながら「治療費はない」と言い張り、あっさり私の足を切り落とす決断をした。

「藤乃(ふじの)、ごめん……俺たちが不甲斐ないばかりに。大丈夫だ、血でも腎臓でも売って、君を養ってみせるから!」

――そう言ったくせに、術後すぐの私をボロアパートに置き去りにし、

「治療費を稼いでくる」と赤い目で言い残して消えていった。

ベッドは真っ赤に染まり、痛みに耐えながら私は這うように外へ出た。

――このまま終わらせよう。

もうこれ以上、兄たちの重荷にはなりたくない。

そう思って、近くのホテルの屋上を目指した。

そして辿り着いた瞬間、目に飛び込んできたのは――煌びやかな大宴会だった。

そこには兄たちが揃って、見知らぬ少女を囲んでいた。

彼女は豪華なドレスに宝石を身にまとい、石水家の「唯一のお姫様」と呼ばれていた。

億単位のギャラで呼ばれたオーケストラが奏でるのは――ただのバースデーソング。

その光景が、胸の奥に突き刺さった。

思い出したのは……血にまみれたボロアパートのベッド。

あの時、彼らはたった数百円の包帯すら惜しんだのだ。

長兄・石水遥斗(いしみずはると)は、甘ったるい声でケーキを彼女の口元へ運ぶ。

「花音(はなおん)……君だけが俺たちの妹だ」

次兄・石水蒼鳥(いしみずあおと)はティアラをそっと頭に乗せる。

「たった一度の誕生日だとしても、君の笑顔だけは守り抜く」

三兄・石水絃(いしみずいと)は膝をつき、シンデレラみたいにガラスの靴を履かせる。

「花音は俺たちの一番の宝物だから」

彼女は甘い笑みを浮かべ、兄たちから贈られたブラックカードをひらひらさせた。

「でもね、兄さんたち……姉さんはみんなをかばって足を失ったんだし……少しは姉さんのそばにいてあげたら?」

遥斗は冷笑した。

「……あいつにそんな資格はない。足を失った今、もう二度と君と『俺たちの愛』を奪い合うこともできない。ざまあみろ――」

――私は震える足で逃げ帰り、ボロアパートへと戻った。

散らかったペットボトルや段ボールに足を取られ、そのまま床に崩れ落ちる。

脚からは再び血が滲み、ズボンを思い切って引き裂いた。

その布切れ同然のズボンは、今年の誕生日に贈られたもの。

そして二十年のあいだで、私が唯一身につけた「新しい服」でもあった。

医者からは「脚は細心の注意を払いなさい。厚手の服で傷口を圧迫すれば感染し、死に至る危険もある」と何度も言われていた。

それでも私は頑なに、このズボンを穿いた。

三人の兄が、手ずから縫ってくれたものだったから。

両親が亡くなり、残されたのは返しきれない借金。

暖かい服一着すら買えない暮らしの中で――

兄たちは、私を寒さから守ろうと、何度も血を売って布を買ってきてくれた。

その姿に胸が締めつけられ、私はもう二度と誕生日プレゼントを欲しいとは言わなかった。

毎年の誕生日の夜、布団の中でひとり、小さな声で自分にハッピーバースデーを歌うだけだった。

政府の環境政策のおかげで、ペットボトルや段ボールは売ればお金になる。

だから私は子どもの頃から街中のゴミ箱を漁り、瓶を拾っては売っていた。

誰かが捨てた残り物に出会えれば、それがご馳走だった。

怪我をしても病院には行けない。

どれだけ血が流れても、ただ小麦粉を傷口にかけて「治りますように」と祈るしかなかった。

兄たちに余計な負担をかけたくなかったから。

唯一の防寒着も、ゴミ山で拾った古い毛布を縫い直したもの。

それで二十回の冬を越した。

同級生からは指をさされ、嘲笑された。

でも私は恥だとは思わなかった。

兄たちが言ったから――「俺たちは地道に稼ぐんだ。家が貧しくても、君は胸を張れ」と。

……だが、ほんの一瞬前に気づいた。

あれは全部、茶番だったのだと。

兄たちは貧乏でも何でもなかった。

ただ最上のものをすべて花音に捧げ、彼女を贅沢の極みに浸らせていただけ。

彼女のドレスの一枚のチュールにも劣る、私の誕生日の布切れ。

涙と血で真っ赤に染まった床で、胸を締めつける問いがただひとつ。

――私は、どこで間違えたの。

なぜ、愛されなかったの。

「藤乃、ただいま! ほら、見て。いいもの持って帰ったぞ」

遥斗の甘ったるい声が、壊れかけのドアの外から響いた。

まるで先ほど「資格はない」だと嘲ったのが別人のように。

「ホテルの人に頼んで残り物のケーキもらってきたんだ。ほら、美味しいぞ。たくさん食べろ、傷も早く治るから」

差し出されたのは、潰れたスポンジの端。

かつての私なら泣いて喜んだだろう。

けれど今は、ただ疲れだけが押し寄せていた。

蒼鳥が取り出したのは、インクが滲んだピンクのカード。

「これ、新年の手書きカードだ。世界でただ一人、大事な妹にだけ……」

花音にはブラックカード。

私には、誰も欲しがらないただの紙。

そうして私はようやく気づいた。

――私は彼らの「妹」じゃなく、ただの笑い種だったのだ。

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