LOGIN「あの野郎、やっとくたばりおったか。しぶとい奴だ、よくもまあ今日まで持ちこたえたものだ!」洋二は再び高笑いする。その顔には悲痛の色など微塵もなく、心の底では、ずっとこの日を待ち望んでいたのだ。和也は一晩中、ほとんど眠れなかった。この知らせを受けた時、最初こそ信じられなかったものの、やがて興奮が込み上げてきた。だが、冷静になると、再び半信半疑に陥った。あの裕也が、そう簡単に殺されるものだろうか?しかしあの日、殺し屋が刃を突き立てた瞬間、地面に血溜まりが広がるのを確かにこの目で見た。殺し屋が背を向けていて死角になっていたため、裕也のどこが刺されたのか、具体的な箇所までは見えなかった。だが、あれほどの出血量からして、致命傷であることは容易に察しがついた。「父さん、もし兄さんが本当に死んだとしても、あの20パーセントの株式はまだ絵里の手にある。どうするつもり?」洋二は鼻で笑う。「構わん。藤原を手中に収めてから、ゆっくりと料理してやればいい。素直に差し出すなら少しは顔を立ててやってもいいが、もし拒むようなら、その時は水原家ごと容赦なく叩き潰すまでだ」和也は眉を寄せる。胸の奥に、言葉にできない違和感が燻っている。父と母が、なぜあれほどまでに兄を憎んでいるのか、どうしても理解できなかった。ましてや兄が死んだというのに、父は少しも悲しむ様子を見せず、あまつさえこれほど歓喜している。まるで、最初から兄の死を望んでいたかのように。疑念は尽きなかったが、どう切り出せばいいのか分からなかった。その時、興奮冷めやらぬ洋二がすぐさま電話をかけ、明日は予定通りに計画を実行するよう部下に指示を出した。電話を切った直後、今度は俊介から着信が入った。「だから言っただろう?確実に裕也を始末して、お前に藤原をくれてやるって。これで信じたか?」俊介は手柄を誇示するために電話をかけてきたのだ。以前送り込んだ殺し屋は消息を絶っていたが、その後、裕也が重体で意識不明という知らせとともに情報が漏れ伝わってきた。最初は彼も疑っていたが、人を使って調べさせたところ、すでに病院内では周知の事実となっていた。だが、情報は厳重に統制され、外部には一切漏れていなかった。ましてや、そこは藤原傘下の病院だ。洋二が少し手を回せば、真偽など
ニュースがネット上のトレンドを爆発的に席巻する。絵里のスマホに、すぐに着信が入る。彼女の瞳の奥に、一瞬だけ「思った通り」という光が浮かんだ。電話には出ず、そのままバスルームへ向かい、シャワーを浴びる。その夜、スマホには絶え間なく着信やLINEの通知が届き続けた。友人たちからの心配するメッセージや、取引先からの問い合わせも少なくない。絵里はそれらを一切無視し、マナーモードにして眠りについた。翌朝、早く起きると、トレンドに上がっていたニュースはあらかた削除されていた。それでもネット上では、絶えず議論が交わされている。絵里は早々に病院へ向かう。目立たない服装にマスクとサングラスを身につけ、ほとんど誰だか判別できないほどの徹底ぶりだ。丈裕は病院の入り口で車を停め、張り込んでいる記者たちをちらりと見ると、後部座席の絵里を振り返って言う。「すべて計画通りに進んでいます」これらの情報は、彼があの夜、事前に買収しておいた人物に流させたものだ。目的はただ一つ、裕也が果たして死んだのかどうかを世間に推測させること。トレンドの削除も意図的な操作に過ぎない。水原も藤原も一切の反応を示さないことで、人々の憶測をさらに煽るのだ。絵里は短く頷き、指示を出す。「引き続き、計画通りに進めて」丈裕は厳かに頷く。「はい」彼が再び車を走らせて病院の敷地内に入り、駐車すると、すぐにボディガードたちが駆け寄り、絵里を囲んで降車させる。マスコミがどっと群がってきたが、近づくことはできない。それでも、鋭い質問が次々と飛んでくる。「水原さん、藤原さんに関するニュースは事実なのでしょうか!」「藤原さんの現在の容態はどうなっているのですか!世間が注目しています。一言お願いします!」「藤原さんが重傷で助からないというのは本当ですか!もしデマであれば、噂を流した者を追及するおつもりですか!」絵里は一切取り合わず、沈黙を貫く。そしてボディガードに護衛されながら、病院へと足を踏み入れる。マスコミは外で足止めされ、病院に入ることはできない。ボディガードはそのまま絵里を病室まで送り届ける。このフロアは高級なプライベート病棟で、何重にも警備が敷かれている。人ひとり入り込むのも容易ではないほどの厳重な警備だ。絵里は病室に入るなり、真っ先
自分をこれほどまでに庇ってくれる絵里の姿に、梨乃は胸を打たれる。ツンと鼻の奥が熱くなり、途端に心強さが湧き上がってくる。「ですから、あなたに譲っていただいたわけではありません。最初から私たちのものです」梨乃はそう言い添え、絵里と肩を並べる。二人が結束して立ち向かうその姿勢に、花音はぐうの音も出ない。だが、わざとやったのだと認めるわけにはいかなかった。彼女は目を赤くして意地を張り、言い放つ。「わかりました。あなたたちがそうおっしゃるなら、もう何も言いませんわ」そう言い残すと、恨めしそうな視線を章へと向け、ひどく傷ついたような素振りでその場を立ち去った。梨乃は章を見つめる。先ほど彼が助け舟を出してくれたことは分かっているが、何と声をかければいいのか分からない。章は彼女をじっと見つめ返し、唇の端をわずかに吊り上げる。「お前らしいな」そう言うと視線を外し、絵里に向かって軽く頷いて挨拶を済ませてから、踵を返して花音の後を追っていった。梨乃の頭の中は少し混乱していた。言葉にできない複雑な感情が胸の奥に渦巻いている。とはいえ、このバッグは勝者の戦利品だ。もらうべきものは、しっかりともらっておく。あの花音が彼女たちの前でやり込められるのを見て、店長は何度も二人に頭を下げた。先ほどの騒動のせいで、二人ともすっかり買い物を続ける気分ではなくなり、いっそのことフレンチでも食べに行こうという話になった。「章のあなたに対する態度、なんだか変わったみたいね」絵里はコーヒーを一口啜り、眉をわずかに上げて、探りを入れるような口調で言う。先ほどの雰囲気からして、彼女の直感が告げていた。この二人の間には、自分の知らない何かがあったはずだと。梨乃はハッとして、慌てて視線を逸らす。「そう?気のせいじゃないかな。彼、私を避けてるくらいだし、態度が変わるなんてあり得ないよ」「彼、お節介を焼くようなタイプじゃないわ」絵里は断言し、自分の見立てをさらに強固なものにする。梨乃は絵里の射抜くような、すべてを見透かそうとする視線を浴びて、自分の本心が丸裸にされそうな感覚に陥る。「確かに前ほど冷たくはないけど、あなたが思ってるほど親しいわけじゃないよ。たぶん彼に正義感があって、私が濡れ衣を着せられるのを見過ごせなかったか、あるいは
「口がきけないのか?自分のために弁解くらいしたらどうだ」章の口調には責めるような響きが混じっていたが、その暗く沈んだ瞳に怒りの色は微塵も窺えなかった。梨乃は驚きのあまり、言葉を返すことすら忘れていた。自分の婚約者の肩を持つべきじゃないの?どうして私を庇うようなことを。花音は顔を青ざめさせ、信じられないといった様子で章を見つめる。胸の奥に、かすかな動揺が広がった。「大したことじゃないの。章、もう行きましょう。父さんと母さんを待たせちゃ悪いわ」だが章は何も答えず、その視線は終始、梨乃に注がれたままだった。絵里は微かに口角を上げ、満足げな表情を浮かべる。少なくとも、章が一方的に肩を持つことはなかったからだ。それどころか、どう見ても梨乃を庇おうとしている節がある。「本当に口がきけなくなったのか?」章は苛立ったように眉をひそめる。梨乃はすぐに気持ちを切り替え、余計なことを考えるのをやめると、すかさず反論した。「まず、私は彼女を突き飛ばしていません。あんなにひ弱で、すぐに転んでしまうなんて知りませんでしたから。それに、わざと彼女とこのバッグを奪い合ったわけじゃありません。悪意のある差別待遇を受けたからです」梨乃の態度は堂々としており、その表情には毅然とした誇り高さがあった。たとえ花音が赤松家の人間であろうと、一歩も引く理由などない。店長が噛みつくように言った。「お客様が理不尽にも、いきなり暴力を振るったんじゃありませんか!よくもまあ、そんなでたらめを!」絵里の瞳に射抜くような鋭い光が宿り、厳しい声で言い放つ。「でたらめかどうかは、防犯カメラを調べればすぐにわかることよ」先ほどまで黙っていたのは、ただ梨乃に任せていただけであり、決して何もしないという意味ではない。「バッグが事前に予約されていたのか、それともあなたが悪意を持って差別待遇をしたのか。販売システムを見れば一目瞭然でしょう。調べればすぐにわかるわ」このような高級ブランドであれば、商品が予約された場合、必ず事前にシステムへ記録が残るはずだ。ましてや店長のようなベテランが、その点を見落とすはずがない。もし彼女が調べるのを拒むなら、それがすべてを物語っている。事実、その通りだった。店長は顔を青ざめさせた。後ろめたさから、とても調べる
店長の態度は極めて横柄で、梨乃の顔を立てる気など微塵もないことは明白だった。梨乃は怒りを通り越して鼻で笑った。「じゃあ、認めるんですね。さっき、私が見つけたバッグを彼女に渡したってことですよね?」店員は花音の機嫌を損ねるのを恐れ、傍らでうつむいたまま一言も発しようとしない。だが、その態度がすべてを物語っていた。「それが何か?たとえお客様にお支払いになる余裕がおありだとしても、赤松様にお譲りするのが筋というものです」店長は鼻を鳴らし、梨乃を横目で睨みつけた。梨乃は生まれつき、泣き寝入りするような性格ではない。花音が事情を知っていようがいまいが、この件に関して絶対に引き下がるつもりはなかった。「そうですか。それなら、そちらのブランド責任者に電話して、これが本当にそちらのルールなのか聞いてみます」絵里は終始無言を貫いていた。梨乃なら自力で対処できると信じ、彼女の出方を見守っているのだ。店長は梨乃の言葉をハッタリだと決めつけて鼻で笑い、彼女をドンッと強く突き飛ばすと、花音に先へ行くよう促した。花音は驚いたように目を丸くし、困り果てたような表情を浮かべた。だが、入り口に立つ白い人影をちらりと盗み見ると、途端に優しげな声を出す。「小林さんがそこまでお気に召したのでしたら、私、お譲りしますわ」先ほど突き飛ばされて危うく転びそうになった梨乃は、迷わず手を振り上げ、店長の頬に強烈な平手打ちを食らわせた。打たれて逆上した店長は、すぐさま打ち返そうと腕を高く振り上げた。しかし、その手が振り下ろされることはなかった。絵里がその手首をガッチリと掴んだからだ。絵里の眼差しは鋭く、有無を言わさぬ覇気を放っている。「動かない方が身のためよ」店長はその気迫に数秒間圧倒されたものの、すぐに絵里と梨乃が弱い者いじめをしているとわめき散らし、警察を呼ぶと息巻いた。「ええ、呼びなさいよ」絵里の瞳は冷たいまま、掴んでいた手を乱暴に振り払った。花音はわずかに眉をひそめた。「水原さん、小林さん。バッグが欲しいのでしたら、私がお譲りすると申し上げているじゃないですか。どうして店長さんをここまで困らせるんですか?」花音が庇ってくれたことで後ろ盾を得た気になったのか、店長は再び喚き始めた。「いくらお金持ちだからといって、こん
梨乃は絵里と久しぶりに会い、せっかくの買い物ということもあって、すっかりテンションが上がっている。目につくものすべてを絵里に買ってあげようとする。金払いがよく、まるで本当の姉のように絵里を甘やかしている。「……家にバッグなんて山ほどあるよ」絵里は全身で拒否感を示す。これ以上、梨乃に無駄遣いさせたくないという思いが強い。だが、梨乃はそんなはした金など全く気にせず、ただ彼女に物を押し付けたくてたまらない様子だ。「じゃあ、いらなくなったらブランド品の買取店でも開いて、全部売っちゃえばいいじゃない」「本当にいらないって。使い切れないよ。どうしても買うなら、梨乃が使って」「お揃いで買うの。私がオレンジで、絵里が黒ね」梨乃は絵里に拒否する隙を一切与えず、強引に店員へ会計を頼む。店員は狂喜した。この売上で入る歩合は決して少なくない。だが、彼女は奥へ行ってすぐに、しょんぼりとした顔で戻ってきた。そして申し訳なさそうに、二つのバッグはどちらも一分前に別の客に買われてしまったと告げた。梨乃は不満げに眉をひそめる。「私が先に見つけたのに。誰が買ったの?」しかも、たった一分前だなんて!絵里自身はバッグなどいらない。だが、この状況は明らかに不自然だった。若い女性店員はうつむき、それ以上は何も言えない様子で口ごもる。「申し訳ございません、お客様。すでに予約が入っていたとは存じ上げず……よろしければ、他の商品をご覧になりますか?」彼女が誰よりも辛いのだ。入るはずだった歩合がふいになってしまったのだから。だが、バッグを買ったのは店長の得意客であり、一介の平店員である彼女に口出しする権利などない。おまけに、その得意客はどこぞの令嬢で、今まさにレジの前にいるのだ。梨乃は腹の虫が治まらない。そんな理屈が通るわけがない。「本当に予約済みなら、店頭に飾らずにしまっておくべきでしょ」「小林さん?」花音が店の奥からショールームへと歩み出てきて、意外そうな顔で梨乃と絵里を見る。彼女の傍らには店長が付き従っており、手には大きな紙袋を二つ提げている。その中には、まさに二人が目を付けていたバッグが入っていた。「まあ、偶然ですね。お二人もいらしていたんですか?どうされたんですか?なんだか少し、ご機嫌が悪そうですけど