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第3話

Author: 白うぐいす
保一の顔がさっと青ざめた。寿奈の腹に置いていた手も引っ込めた。

私は玄関に立ったまま、しばらく足を踏み出せなかった。ここはもう、私が知っている家ではない。

ソファには妊婦用クッション、ローテーブルにはマタニティミルクなど、リビングには寿奈の物があふれていた。ウェディングフォトまで、マタニティフォトに変わっていた。

ベビールームは潰され、犬の部屋に変えられていた。ふわふわのサモエドが二匹、中でじゃれ合い、部屋中を散らかしていた。

私が小さい頃から犬が苦手だったことを、保一は誰よりも知っていた。以前は家の中に犬を入れなかった。外で犬の姿を見かけただけで、わざわざ遠回りしてくれていた。

それなのに今や、寿奈が好きだというだけで犬を飼い、私たちの子供の部屋まで犬の部屋にしていた。

その光景を目の当たりにして、息が苦しくなった。

そのとき、サモエドたちが知らない人間を見つけ、興奮して飛びかかってきた。私はとっさに目を閉じ、足を振り上げる。

「大輔!円香!」

寿奈の悲鳴で、はっと我に返った。

大輔、円香――それは、まだ生まれていない私たちの赤ちゃんのために考えていた名前だ。「男の子なら大輔、女の子なら円香にしよう」と、保一が自ら決めた。

あんなに大事そうに言っていた名前が、今では寿奈の犬の名前になっている。

寿奈が駆け寄り、自分の体で犬をかばった。その拍子に、私の足が寿奈の腹に当たってしまう。保一が血相を変え、すぐに寿奈を抱き寄せた。

直後、母が私の頬を張った。

「万里香、あんたは本当に性格が悪いわ。寿奈に何かあったら許さないよ。自分が産めないからって、わざとお腹を蹴るなんて、最低だ!」

部屋の中は大混乱で、誰かがグラスを投げてきた。それが額に当たり、温かい血が頬を伝った。

「万里香!」

保一が寿奈を離して駆け寄ってきた。寿奈は顔色を失い、唇を噛んでいた。

次の瞬間、寿奈は立ち上がり、部屋中の人に向かって土下座した。

「万里香さんは悪くないです。みなさん、許してください。悪いのは私です。保一さんを好きになったこと、この子を孕んだこと、全部私の責任です。万里香さんがそれで許せるなら、私はこの子を諦めます!」

そう言いながら床に頭を打ちつけ、額から血がにじむ。気づけば、足の間にも赤い染みが広がっていた。

保一は慌てて駆け寄り、寿奈を抱き上げた。痛ましげに胸に抱きしめた。

「もう喋るな。病院へ連れて行く」

怒りの収まらない人々は、悪態をつきながら帰っていった。母は最後に残り、私の髪を乱暴につかんで犬部屋へ突き飛ばし、ガチャンと鍵をかけた。

「寿奈に何かあったら、ただじゃおかないよ。今夜はそこで反省していなさい!」

私が犬を怖がっていることも、犬アレルギーが重いことも、母はずっと知っていた。子供の頃の私を野良犬から守ろうとして、自分の足にひどい傷を負ったこともある。その痕は今も残っている。

それなのに今、母は寿奈のために私を犬の部屋に閉じ込めた。

呼吸はすぐに苦しくなった。どれだけドアを叩き、泣いて頼んでも無駄だった。体中がかゆくなり、赤く腫れ、蕁麻疹が出た。意識が少しずつ遠のき、スマホを取る力も残っていなかった。

視界が明滅する中、スマホの画面が光った。最後の力を振り絞って通話ボタンを押した。

相手は淡々と口を開いた。

「企画書は見たよ。でもこれだと、相徳は完全に終わる。それでいいのか?」

消えかける意識を必死につないで、言葉を絞り出した。

「助けて……私が死んだら、この計画も終わりだ」

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