Home / 恋愛 / 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる / 随分大層な「大義名分」ですこと(2)

Share

随分大層な「大義名分」ですこと(2)

last update publish date: 2026-10-13 16:21:00

***

朝礼が終わって、今日は何人かで窓掃除を指示された。

掃除と言っても濡れ雑巾で窓を磨き、サッシの汚れを取るのがメイン。定期的に行っていることではあるので一つ一つの作業はそこまで大変じゃない。数が多い方が問題だ。

窓掃除は毎週金曜と天気が悪かった翌日に行われる。貴族の屋敷は見栄えが大事、芸術品も大切だけど輝くような窓も欠かせない。

いつも内側から拭く人と外側から拭く人に分かれて作業を行い、高いところは梯子を使ってよくよく拭いていく。私は今日は内側担当だ。

「アニー」

「どうしたの?」

不意に声をかけられてそちらを見ると、先輩のケナンが色めきたった様子で私を見ている。その瞬間、なんだが背筋に悪寒が走ったような感覚になった。

最近、私を見ては色めき立っているメイドが多い。やはりこの間の“話し合い”を見られていたのだろうか。ロマンス小説の様に私とフィン様が“デキて
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   随分大層な「大義名分」ですこと(2)

    *** 朝礼が終わって、今日は何人かで窓掃除を指示された。 掃除と言っても濡れ雑巾で窓を磨き、サッシの汚れを取るのがメイン。定期的に行っていることではあるので一つ一つの作業はそこまで大変じゃない。数が多い方が問題だ。 窓掃除は毎週金曜と天気が悪かった翌日に行われる。貴族の屋敷は見栄えが大事、芸術品も大切だけど輝くような窓も欠かせない。 いつも内側から拭く人と外側から拭く人に分かれて作業を行い、高いところは梯子を使ってよくよく拭いていく。私は今日は内側担当だ。 「アニー」 「どうしたの?」 不意に声をかけられてそちらを見ると、先輩のケナンが色めきたった様子で私を見ている。その瞬間、なんだが背筋に悪寒が走ったような感覚になった。 最近、私を見ては色めき立っているメイドが多い。やはりこの間の“話し合い”を見られていたのだろうか。ロマンス小説の様に私とフィン様が“デキてる”と思っているのかもしれない。 そんな疑い溢れる状況で目の前の彼女を見ていると、先ほどの悪寒は絶対に気のせいじゃないと脳が訴えかけてくる。 おかげで私は目の前のケナンを見ながら、心の中で苦虫を噛み潰したような顔になった。 「フィン様が貴女を呼んでるの」 「………そう」 ほらきた、逃げたい。 見事予想が的中した私が最初に思ったのはその一言に尽きる。たった一言を返すのでさえ絞り出すようだった私の表情はいつにも増して死んでいることだろう。 しかし呼ばれたからには行くしかない。私はマデリンさんに呼ばれた事を伝えて、ケナンから聞いた部屋に向かった。 マデリンさんは呆れたようにため息をついて「行ってきな」とだけ…すごく申し訳ない。私が何かしたわけじゃないのに。 指示された部屋は三階の空き部屋で、珍しくまだ物置になってないから、と定期的に掃除される部屋だ。客室にもなるよう貴族が使う前提に作られているけど、中

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   随分大層な「大義名分」ですこと(1)

    ******** 真っ暗だ。 何もわからない。 足が冷たい、ここは…台所の地下室だから当然だけど。でも冷えて足が痛い、指が無くなりそう。 遠くで何か叫んでる声が聞こえる。知らない声が、私を呼んでる。 「…」 怖い。 そうだ、床に血が広がってた。 知ってる人が倒れてた。 「無事かな、サリー…」 サリーは私をここに入れて、助けを呼んでくると、そう言って行ってしまった。 「寒い…」 石造りの地下室は寒い。ただでさえ寒い時期なのに、地下なんて凍えて死んでしまいそう。 寒さのあまり垂れてきた鼻水をすん、と啜った時、嗅ぎ慣れない臭いがした。 「?」 そのまますんすん、と鼻を効かせると、確かに煙の臭いを感じる。 「!」 誰かが屋敷に火を放ったんだ。あの声の人たち? まずい、早く出なくちゃ。 地下室の上部にある扉を内側から開けようとする。だけど、上に何か乗ってるのかびくともしない。ここは内側からも開くはずなのに。 「だして!ここから出して!」 扉を叩いて誰かに知らせようとするけど、返事はない。 それでも精一杯力を込めて扉を叩く。心のどこかで助けは来ないとわかっていても。 「けっほ、けほっ…」 煙がもう隙間から中に入ってきてる。地下室にはむせ返る煙の匂いが広がっていった。 それでも扉を叩く。叩いて、叩いて、誰か助けてほしい。 「げほ、けっほ、うぇ」 咳き込みすぎて吐き戻しそうだ。頭もくらくらする。 やがて力を使いすぎて座り込んでしまった。 体が重い。頭も重い。眠くなってき

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   「夢じゃない」なら、なんだって言うんだ(2)

    *** 「うぅ…申し訳ありません」 ハンカチで残った涙を拭きながら言う。 涙はしばらくしたら落ち着いたけど、目が腫れてるだろうなこれは…まだ鼻も詰まってる気がする。 「落ち着いたみたいでよかったよ…」 フィン様は安堵したようにそう言った。 「いやほんっとに、ほんっとうに申し訳ありませんでした!」 私は速攻で頭と腰を九十度曲げて謝った。 何をしてるんだ私は、こんなことでは不敬すぎて物理的に死んでしまう。 「いや、良いんだ。頭を上げて」 「…?」 お召し物に鼻水は付けないぞと言う固い決意が届いたのか? いや多分そうじゃないだろうな。 こんなみっともない姿晒して「大丈夫」は貴方が大丈夫なのか? そんなに目下の人間に心が広いと、むしろ何かと騙されそうけど大丈夫なのかな…。 「…夢じゃないなら、か」 不意にそう言いながら、彼は困ったように笑った。確かに私はそう言ったけど彼の表情の真意までは掴めない。 「僕は思ったより、独りよがりだったみたいだ」 大きなため息をつきながら彼は床に座り込んだ。私はそれを眺めながら自分も座った方がいいのかについて考える。 主人より頭の位置が高いことを取って座るべきか、それとも許可がないので立ったままでいるべきか、どっちなんだこれは。 「君も座っていいよ、立ってたら疲れたろう?」 戸惑う私を見てか、彼はそう言って自分の隣をぽんぽんと叩く。 あれ、この光景どこかで見たような。 「…では、失礼して…」 一瞬やっぱり良いのか悩んだけど、ここまで立ちっぱなしで疲れてしまった気持ちが勝った。 彼の右隣にそっと座る。膝を立てて小さく収まる様に。 「「…」」 しばしの

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   「夢じゃない」なら、なんだって言うんだ(1)

    ******** 「今日の夕方から、アニーはダンスホールの床掃除ね」 「はい、わかりました」 なぜか、どこか呆れた様に私にそう指示を出すマデリンさんにほのかな疑問を覚えながらも、言われた事だし、と私は素直に引き受ける。 これが昼過ぎに遅番の人も含めて行われる昼礼のことだ。 そして夕方。まだ日のあるうちに掃除自体は終わらせないとまた先週のように見えない中掃除をする羽目になるので必死に床を磨いている。 せっせと掃除を済ませても、夕方から始めたんじゃ結局日は落ち切ってしまうんだけど。最後にバケツでモップを洗う頃には、もう真っ暗だ。 でもまだ日は落ち切ったばかりだから、先週と違ってマデリンさんに今日中にダンスホールの鍵を返すことができる。 早速マデリンさんのところに向かってから晩御飯を食べに行こうと考えていた矢先、重い…引きずるような音を立ててダンスホールの扉が開いた。 「?」 ここで人と会うような約束はしていないので、そうなるとこう言う展開には覚えがない。 しかし、扉の向こうから現れたのは、 「…やぁ」 なんだか申し訳なさそうなフィン様だった。 「…いかがなさいましたか?」 何もない時にこんな所に主人がやってくるなんて、いつかの夜の様だ。 あの時は眠れなくてフラついてたのかと思ってたけど、今日は時間的にもそれは怪しい。 そんなことを考える私の不思議そうな表情を見てなのか、彼はなぜか緊張した面持ちで言った。 「あの、この間の続きをと、思って」 「続き…?」 もしかしなくてもダン

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   叶わぬ夢でも幻を見るくらいなら(4)

    *** 「まずは基本的なワルツから。ゆっくりやっていこう」 「は、はい」 ゆっくりと、彼が私の呼吸に合わせてくれる。 挨拶にはじまって挨拶に終わるのが社交ダンスだ。 始めの挨拶をお互いにしてから構えを取り踊り、終わったら今度は感謝の挨拶をして一曲を終える。 「1、2、3…2、2、3…」 腕は絡め合うように添え合うように。 足は揃えるように競うように。 ゆっくりなのに、記憶とは全然違う。確かに私のダンスにまつわる記憶は十四で止まっているし、ダンスの授業も何度かしか受けてないから当然といえばそうなんだけど。 四つの工程をさらに四つのステップに分けて同じことを繰り返す。 右回りからはじまって、途中で反対にステップを踏むことでくるくると回るようにダンスは続く。 「すみません…」 呟くように謝る私は、ここまででフィン様の足を何度か踏んでしまっている。なぜかと言えば、相手の足が自分の足にピッタリつく様にお互いステップを踏むものだからなんだけど。相手の足を踏むことは修練が足らないだけでなく純粋に無礼なこと。 正直、まさか自分がこんなに不器用だとは思わなかった。 「構わない。初心者なんだから」 「あ、ありがとうございます…」 そうは言っても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。 さらに気になると言えば本当に、びっくりするくらい密着すること。お、お腹なんてくっついてしまっているし。 これではフィン様のお召し物が汚れてしまうのでは無いだろうか。私のメイドの服なんて、掃除してる以上そんな綺麗なものでもないのに。 「あの…」 「なんだい?」 「お召し物が、汚れませんか。この密着度合いは…」 「構わないさ、どうせこれから着替えるんだ」 「そういうも

  • 公爵子息は荒んだ彼女を愛してる   叶わぬ夢でも幻を見るくらいなら(3)

    「そう、怒ってるわけじゃなくて…なんて言ったら良いのかな」 フィン様は困ったように首の後ろを右手で掻きながら、何か言葉を探している様に見えた。私は二回も聞こえた“怒ってない”と言う言葉に目を白黒させるばかり。 普通は権力者としての威厳の為にも叱り飛ばす所だと思うけど…この状況は一体。 「そう、あんな粗末なダンスは見たことがなくて」 「…」 は? と、言いかかってなんとか止めた。 丁寧に喧嘩を売ってらっしゃるのかしら、この主人は。 ダンスホールが暗くて表情が見えづらいのはありがたい。おかげで今のイラッとした表情を見られることもないから。 それに少なくとも下手くそなのは、わざわざ人に言われなくったって自分が一番解ってる。 「でも君は楽しそうに見えて、翻るスカートが綺麗で…その、見惚れていた」 「!?」 目の前の男が何を言っているのか、全くもってわからない。今なんて言ったこの人!? 今日ここまであれだけ険しい表情で避けておきながら、いやなんならさっきの失礼な発言も含めて、たくさん人を傷つけておいて。 こんな時だけ調子のいい事を言う。その真意が掴めない。 これはどう言う状況なんだろうか? 「あぁいや、変な意味じゃないんだ。普段はこう、君の顔をうまく見れないから」 「はぁ…」 自覚あったんですね。と言う言葉も飲み込んだ。うまく顔を見れないなんてもんでもない気がするけど。 「女性に対して失礼な態度も多かったと思う。すまなかった」 「…私はメイドでございますので、フィン様が私に対して謝ることはございません」 結局、主人が使用人をどう扱おうと自由で“弁える”と言うのはそういうこと。それを飲み込めないなら使用人は務まらないと、孤児院でもよく聞かされた。 というか、普通目下のものにほいほい謝っちゃダメだと思うんだけど。 「

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status