LOGIN14の時、家族は野盗に襲われた 生き残ったのは私だけ、その私も親戚筋の孤児院に預けられた 孤児院を経営しているスペンサー公爵家は、成人して孤児院を出て行かなくてはいけなくなった人間を自分の屋敷の使用人として雇ってくれる 春に孤児院を出ることになった私も、そのお屋敷でお世話になることになった ある日、屋敷の壺を割ってしまった罰としてダンスホールの掃除をしていた時に全ては動き出した 私はただ、うろ覚えの夢を見続けていられればよかったのに。彼が「一緒に踊ろう」なんて言い出して 私はその手を、とってしまった———
View More******** 真っ暗だ。 何もわからない。 足が冷たい、ここは…台所の地下室だから当然だけど。でも冷えて足が痛い、指が無くなりそう。 遠くで何か叫んでる声が聞こえる。知らない声が、私を呼んでる。 「…」 怖い。 そうだ、床に血が広がってた。 知ってる人が倒れてた。 「無事かな、サリー…」 サリーは私をここに入れて、助けを呼んでくると、そう言って行ってしまった。 「寒い…」 石造りの地下室は寒い。ただでさえ寒い時期なのに、地下なんて凍えて死んでしまいそう。 寒さのあまり垂れてきた鼻水をすん、と啜った時、嗅ぎ慣れない臭いがした。 「?」 そのまますんすん、と鼻を効かせると、確かに煙の臭いを感じる。 「!」 誰かが屋敷に火を放ったんだ。あの声の人たち? まずい、早く出なくちゃ。 地下室の上部にある扉を内側から開けようとする。だけど、上に何か乗ってるのかびくともしない。ここは内側からも開くはずなのに。 「だして!ここから出して!」 扉を叩いて誰かに知らせようとするけど、返事はない。 それでも精一杯力を込めて扉を叩く。心のどこかで助けは来ないとわかっていても。 「けっほ、けほっ…」 煙がもう隙間から中に入ってきてる。地下室にはむせ返る煙の匂いが広がっていった。 それでも扉を叩く。叩いて、叩いて、誰か助けてほしい。 「げほ、けっほ、うぇ」 咳き込みすぎて吐き戻しそうだ。頭もくらくらする。 やがて力を使いすぎて座り込んでしまった。 体が重い。頭も重い。眠くなってき
*** 「うぅ…申し訳ありません」 ハンカチで残った涙を拭きながら言う。 涙はしばらくしたら落ち着いたけど、目が腫れてるだろうなこれは…まだ鼻も詰まってる気がする。 「落ち着いたみたいでよかったよ…」 フィン様は安堵したようにそう言った。 「いやほんっとに、ほんっとうに申し訳ありませんでした!」 私は速攻で頭と腰を九十度曲げて謝った。 何をしてるんだ私は、こんなことでは不敬すぎて物理的に死んでしまう。 「いや、良いんだ。頭を上げて」 「…?」 お召し物に鼻水は付けないぞと言う固い決意が届いたのか? いや多分そうじゃないだろうな。 こんなみっともない姿晒して「大丈夫」は貴方が大丈夫なのか? そんなに目下の人間に心が広いと、むしろ何かと騙されそうけど大丈夫なのかな…。 「…夢じゃないなら、か」 不意にそう言いながら、彼は困ったように笑った。確かに私はそう言ったけど彼の表情の真意までは掴めない。 「僕は思ったより、独りよがりだったみたいだ」 大きなため息をつきながら彼は床に座り込んだ。私はそれを眺めながら自分も座った方がいいのかについて考える。 主人より頭の位置が高いことを取って座るべきか、それとも許可がないので立ったままでいるべきか、どっちなんだこれは。 「君も座っていいよ、立ってたら疲れたろう?」 戸惑う私を見てか、彼はそう言って自分の隣をぽんぽんと叩く。 あれ、この光景どこかで見たような。 「…では、失礼して…」 一瞬やっぱり良いのか悩んだけど、ここまで立ちっぱなしで疲れてしまった気持ちが勝った。 彼の右隣にそっと座る。膝を立てて小さく収まる様に。 「「…」」 しばしの
******** 「今日の夕方から、アニーはダンスホールの床掃除ね」 「はい、わかりました」 なぜか、どこか呆れた様に私にそう指示を出すマデリンさんにほのかな疑問を覚えながらも、言われた事だし、と私は素直に引き受ける。 これが昼過ぎに遅番の人も含めて行われる昼礼のことだ。 そして夕方。まだ日のあるうちに掃除自体は終わらせないとまた先週のように見えない中掃除をする羽目になるので必死に床を磨いている。 せっせと掃除を済ませても、夕方から始めたんじゃ結局日は落ち切ってしまうんだけど。最後にバケツでモップを洗う頃には、もう真っ暗だ。 でもまだ日は落ち切ったばかりだから、先週と違ってマデリンさんに今日中にダンスホールの鍵を返すことができる。 早速マデリンさんのところに向かってから晩御飯を食べに行こうと考えていた矢先、重い…引きずるような音を立ててダンスホールの扉が開いた。 「?」 ここで人と会うような約束はしていないので、そうなるとこう言う展開には覚えがない。 しかし、扉の向こうから現れたのは、 「…やぁ」 なんだか申し訳なさそうなフィン様だった。 「…いかがなさいましたか?」 何もない時にこんな所に主人がやってくるなんて、いつかの夜の様だ。 あの時は眠れなくてフラついてたのかと思ってたけど、今日は時間的にもそれは怪しい。 そんなことを考える私の不思議そうな表情を見てなのか、彼はなぜか緊張した面持ちで言った。 「あの、この間の続きをと、思って」 「続き…?」 もしかしなくてもダン
*** 「まずは基本的なワルツから。ゆっくりやっていこう」 「は、はい」 ゆっくりと、彼が私の呼吸に合わせてくれる。 挨拶にはじまって挨拶に終わるのが社交ダンスだ。 始めの挨拶をお互いにしてから構えを取り踊り、終わったら今度は感謝の挨拶をして一曲を終える。 「1、2、3…2、2、3…」 腕は絡め合うように添え合うように。 足は揃えるように競うように。 ゆっくりなのに、記憶とは全然違う。確かに私のダンスにまつわる記憶は十四で止まっているし、ダンスの授業も何度かしか受けてないから当然といえばそうなんだけど。 四つの工程をさらに四つのステップに分けて同じことを繰り返す。 右回りからはじまって、途中で反対にステップを踏むことでくるくると回るようにダンスは続く。 「すみません…」 呟くように謝る私は、ここまででフィン様の足を何度か踏んでしまっている。なぜかと言えば、相手の足が自分の足にピッタリつく様にお互いステップを踏むものだからなんだけど。相手の足を踏むことは修練が足らないだけでなく純粋に無礼なこと。 正直、まさか自分がこんなに不器用だとは思わなかった。 「構わない。初心者なんだから」 「あ、ありがとうございます…」 そうは言っても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。 さらに気になると言えば本当に、びっくりするくらい密着すること。お、お腹なんてくっついてしまっているし。 これではフィン様のお召し物が汚れてしまうのでは無いだろうか。私のメイドの服なんて、掃除してる以上そんな綺麗なものでもないのに。 「あの…」 「なんだい?」 「お召し物が、汚れませんか。この密着度合いは…」 「構わないさ、どうせこれから着替えるんだ」 「そういうも