昨日のダグラスさんの話では、オズワルド公爵は私のために式に出ていたらしい。
あの不機嫌そうな顔で式に来ていた彼が、私のために来たと言うの?
とてもそうは思えないけれど、他の女官と私が明らかに違うのは、よくわかった。
私は田舎の出身だから、王宮の女官は、出会いが目的の令嬢がなるとは知らずに、受けてしまった。
本来ならば、私は選ばれなかったはずだったのも、他の女官達を見るとわかる。
だって私は美人でもないし、スタイルも良くないもの。
選ぶ側がそれを求めている以上、私は不適合だ。でも、オズワルド公爵だけが私を仕事をする者として、迎えてくれたのね。
だったら私は、彼に満足してもらえるように頑張らなくちゃ。今日も私は書状の間違いを見つけて、訂正するように印をつける。
すると突然、低く通る声が耳元に響いた。
振り向くとそこには、いつの間にか現れたオズワルド公爵の姿があった。あまりの突然の登場に慌てて立ち上がると、彼はほんの一瞬、目を細めた。
「慌てなくていい。
今日は腫れはもうないな。」「えっ、あっ、はい。」
「君の働きぶりはダグラスから聞いている。」
「ありがとうございます、オズワルド公爵様。
私はレナータ・コートと申します。 精一杯勤めさせていただきますので、よろしくお願いします。」「ああ、よろしく。
僕のことは、オズワルドでいい。」「はい、オズワルド様。」
「昨日、早速トラブルがあったそうだな。」
「はい。
すみません。」「そういう時には、少し利口になって、僕のどうでもいい情報を流せばいいんだ。
そうしたら、叩かれるのを回避できた筈だ。」「お言葉ですが、私はオズワルド様のどんな些細な情報も流したくないです。
私はオズワルド様の元で働いている以上、あなたを裏切るような真似は些細なことであれ、したくありません。
そのような人間であると思われるのも嫌です。
そのくらいなら、叩かれた方が全然マシです。」「何だって?
そう言う問題じゃない。」オズワルド様は、私の返答が気に入らないのか、鋭い視線で私を射抜く。
でも、これは私の仕事なのだから、その矜持を貫くまでだ。「いいえ。
それで構いません。」「まあまあ、レナータが誠実な人間だということがわかったから、今回はこのくらいにしましょう、オズワルド様。」
出会ったばかりだというのに、早くもぶつかる二人に、ダグラスさんが、場を和ませようと割って入る。
「だが、そのことでレナータが傷つくのは間違っている。
それに、ここは王宮なんだ。
それが、王国の中枢にいる者の立ち振る舞いか?叩く者が圧倒的に悪いとはいえ、ただ叩かれるなんて、賢い者がすることだと本当に言えるのか?」
「すみません。」
オズワルド様は、固い表情で自分の部屋へと戻って行った。
「あっ、どうしよう。
私、オズワルド様に口答えをしちゃった。 それに、オズワルド様の言う通りですね。」ああ、やってしまった。
どうして私は、早速オズワルド様に反抗しているの?彼の言うことは最もなのに、彼に嫌われたら、もうここで働けない。
だって、私をこの王宮で受け入れてくれたのは、オズワルド様だけなんだから。
私が一人で頭を抱えていると、ダグラスさんがくすくすと笑い出した。
「君って、面白いね。
僕ですら、オズワルド様に言い返せるようになったのは、かなり経ってからだったよ。」「そうですよね。
私もう、クビですか? どうしよう。 オズワルド様に謝って来ればいいでしょうか? まだ間に合いますか?」「落ち着いて。
オズワルド様は冷静で理知的な人だよ。 それくらいでクビになんてしないさ。君の気持ちは、ちゃんとわかっていると思う。
ただ、君に処世術を学んでほしいと思ったんだよ。 それに、君を心配しているんだ。」「心配ですか?」
「そう。
どうしたの? そんな不思議そうな顔をして。」「…私、これまで誰かに心配されたことってないんです。」
「えっ、でも昨日僕、君の頬を叩かれたことを心配したよね?」
「えっ、見た目が悪いから、早く元通りにしてってことでは?」
「違うよ。
痛そうだから、心配したんだよ。 オズワルド様もだよ。」「そうだったんですか?
心配してくれたんですか…。 ありがとうございます。 初めての経験なもので、わかりませんでした。」「えっ、君どんな風に生きて来たの?」
「私は自分のことは自分で守って生きて来ました。
だから、心配なんてされたことはないです。 私、美人でもないですし。」「いや、美人とか関係ないよ。
僕達はもう同じ職場の仲間だよ。 だから、心配するよ。」「ありがとうございます。
なんか嬉しいです。」私はつい笑みが溢れた。
私はずっと一人で生きて来たから、心配されることに慣れていないし、誰かに大切にされたこともない。でも、ダグラスさんは、頬を叩かれた時、冷たい布を持って来てくれた。
あれは私を気遣ってくれたからだったのだと、今になってわかった。それに、オズワルド様は私のために式に来てくれて、さっきも叩かれるくらいなら、些細な情報を漏らしてもいいと言ってくれた。
それは、私のことを思ってのことだった。
ただ、不機嫌なだけに見える裏に、オズワルド様の優しさがある。
私の対応のまずさから怒られてしまったけれど、その気づきだけで、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
————————————————————「僕がレナータを雇ったのは、間違いだったかもしれない。」
「どうしたんですか?
オズワルド様。」執務が終わり、久しぶりにグラスを傾けながら、オズワルドとダグラスは寛いでいた。
「レナータはひたむきで真面目だけど、自分を守ろうとしない。
この先、僕のために彼女が傷つくのを見たくないんだ。 僕の周りにいては、恐れや嫉妬からたくさんの悪意を向けられ、トラブルを避けて通れない。」「確かにその一面はあります。
けれど、僕はレナータにオズワルド様を支える仲間になってほしい。 彼女なら信用できる。 あなたもそう思いませんか?」「確かに彼女の素質は貴重だ。」
「だったら、もう少し様子を見ませんか?
今日彼女と少し話しましたけれど、今まで誰にも心配されたことがないと言っていました。きっとこれまで、誰にも頼らず、誰にも守られずに生きてきたんでしょう。
でも、僕達が彼女を大切にする姿を見せれば、徐々に僕達を信頼することも、自分を大切にすることも理解していくはずです。
そうすれば、トラブルが起きても、上手く対応できるようになるでしょう。
それに、彼女の仕事ぶりはとても素晴らしい。
いつもこの時間は、僕達はまだ執務をしていましたよね? 今まで、こんな早くに酒を飲めることなんてなかった。」「確かにそうだな。」
以前は、届く書状の多くが不備だらけで、内容の検討に入る前に何度も修正をさせなければならず、業務は思うように進まなかった。
けれど今では、レナータが先に修正させてから、僕達のところに書状が届き、本来の内容の検討に割く時間が取れている。
「そう言えば彼女、自分には仕事しか価値がないって言っていました。
彼女の価値はそれだけではないのに。 これから少しずつでも、考えを改めてもらわないといけませんね。」「そんなことを言っていたのか?」
「はい、若い女性なのに、そんなふうに思い込んでいるなんて、…正直、胸が痛みました。
きっと今まで、仕事以外では誰にも認められずに生きてきたんでしょう。」「それならなおさらその思い込みは、僕達が変えていかないとな。
少なくとも、僕の元では。」夕暮れ時、ネバダ神父様が私たちを教会での会食へ招いてくださった。温かなスープと、素朴だけれど心のこもったお料理。私とビクトル様は思い出深い味に、心がじんわりと満たされていくのがわかった。「ネバダ神父様、あの頃、僕達が友人だったことをご存知でしたか?」「もちろんだとも。ビクトル様はオズワルド公爵夫人から託された大切な御子息だからね。」「そうでしたか。私達は王宮で共にいながらも、ちっとも気がつかなかったんですよ、お互いに。」「でも僕は、君を初めて王宮で見かけた時から、不思議と目が離せなかった。今思えば、お互いに惹かれ合うことは運命だったのかな。神父様、どうかこちらの教会で僕らの式を上げさせてください。二人が出会ったこの場所で、変わらぬ愛を誓い合いたいのです。僕はレナータと結ばれることができて、本当に幸せ者です。結婚披露パーティーは王都で開くつもりですが、式だけは二人きりで行いたいと思っておりまして。」「そうですか。私もとても光栄に思いますよ。」「良かった。」私たちはテーブルの下でそっと手を重ね合わせ、視線を交わし、胸いっぱいの喜びを伝え合った。それから、少ししてネバダ神父様に見守られながら私達は二人きりで心からの式をあげた。その日の空は雲ひとつなく、どこまでも澄み渡っていた。「緊張してるかい?とても綺麗だよ。」そっと肩に手を添えたビクトル様が、私の耳元で優しく囁く。「ちょっとだけ。」私はふわりと揺れる純白のドレスに、視線を落としながら、小さく笑った。こんなにも幸せで、こんなにも夢みたいで、彼を見つめると胸が高鳴る。彼はそんな私の手をそっと包み込み、柔らかく微笑む。「僕はずっとこの日を待っていたよ。」祭壇へと歩む私の足取りは、まるで夢の中を歩いているようだった。天窓から差し込む柔らかな光が、彼のタキシードをやわらかく照らしている。「二人は変わらぬ愛を誓いますか?」ネバダ神父の落ち着いた声が響く。ビクトル様は真っ直ぐに私を見つめ、まるでその視線で私を包み込むように、ゆっくりと頷いた。「はい。僕は彼女を愛し、守り、人生をともに歩むことを誓います。」その声は、力強く、誠実な思いが溢れていた。そして私も、彼の瞳をまっすぐに見つめ返し、優しく微笑む。「はい。私も、あなたを永遠に愛します。」彼は私の手を愛
「君が行きたいと言う養護院はここなんだね?」「はい、ビクトル様。私はここで育ちました。結婚前にぜひ、ネバダ牧師に挨拶がしたくて。」そこは王都からかなり離れた小さな村にある養護院の横に隣接された古い教会である。教会の扉を開くと、陽光が差し込むステンドグラスの前に、牧師姿の初老の男性が佇んでいた。「ネバダ牧師、ご無沙汰しております。」「レナータ、元気そうだね?」「はい、おかげ様で。それで、今日は紹介したい人をお連れしました。こちらはオズワルド公爵様です。」「やあ、オズワルド公爵様、お元気ですか?」「はい、ご無沙汰してます。ネバダ牧師様。こうしてまたお会いできて光栄です。それに、以前のようにビクトルとお呼びください。」ビクトル様の言葉は、どこまでも丁寧で温かい。「ビクトル様、お元気そうで何よりです。」「えっ、ビクトル様、ネバダ牧師とお知り合いなのですか?」「ああ、実はね、小さい頃こちらでお世話になったことがあるんだ。少年だった頃、オズワルド公爵家を継ぐ重圧に押し潰されそうに感じて、逃げ出したいと思っていた時にね。」「えっ、ビクトル様にもそんな時があったんですか?」「ああ、意外だろ?あの頃は勉学が苦手でね、朝から晩までの後継者教育の日々から、逃げ出したいと思っていたんだよ。」「そうだったんですね。」「そんな時、母の提案でしばらくこちらで身を隠して、お世話になっていたんだ。」彼の横顔は、どこか懐かしさを帯びたやわらかな微笑みで、私を優しく包む。「そんな過去があったなんて、全然知りませんでした。でも、少年の頃にここにいたのなら、私達は会っていそうなものですけどね。」「そうだね。でも、僕はそれほど長くいなかったから、会わなかったのかもしれない。」「そうですね。」「ビクトル様、レナータ、婚約おめでとう。私はあなた達がピッタリ合うのは、よくわかっていますよ。どうぞ、二人で見て回りながら、ゆっくりしていってください。」ネバダ牧師は並んだ二人を見て、微笑んだ。「ありがとうございます。」「では、ビクトル様、私のお気に入りの場所に案内しますね。ネバダ牧師、お祈りの邪魔をしてごめんなさい。ではまた後で。」「はい、行ってらっしゃい。」私はビクトル様の手を引いて、この養護院にいた頃、多くの時間を過ごしたお気に入りの
あの後、二人で邸に戻り、夕食を食べていた。その間もずっと彼の言葉が、胸の奥に熱く響いている。私達の形。オズワルド様の描く未来は、私達の願いそのものだけど、こんな私達を、誰もが祝福してくれるわけではない。だから、私達の関係が明るみ出た時、要らぬ敵を増やし、困難ばかりが生まれてしまうのだろうか?私のせいで彼まで茨の道を進もうとしているなら、彼を巻き込むことが本当に私がしたいことなの?恋をしても、愛されても、私はただの誰かの妻では終わりたくない。仕事をして、私という人間をちゃんと生きていたい。その思いが彼に負担を強いているのだとしたら、そこまでして私は自分の理想を追い求めるのだろうか?彼の優しさや我慢の上に、私の望む未来があるのだとしたら、やはり私は何かを手放さないといけないのかもしれない。彼の結婚相手となる人には、公爵夫人としての振る舞いや役割が求められる。静かに寄り添い、彼の名を傷つけず、ふさわしい言動を選び続ける人。果たして今の私が、その姿にふさわしいのだろうか。そんな思いが、ふと心を曇らせる。食事が終わると物思いに浸るまま、促されるように彼と並んで、ソファに座り、ワインに口をつける。「どうした?気になることがあるなら、僕に話して。」「…私、オズワルド様のことが好きです。でも、働きたいと思うことがあなたの重荷になるのなら…。」「それ以上言わなくていい。君の気持ちは、もちろんわかっている。君が優秀で、王宮での仕事に誇りを持っていることも。夫婦で勤める前例がないことも。」彼はそっと視線を重ねて、続けた。「でも、不安になる必要はない。それを含めて、僕達が新しく作るんだ。君が望む未来を僕も叶えたい。だから、僕が感じているのが、重荷とかそんな言葉ではないと、どうかわかってほしい。むしろ新しい挑戦に胸が躍るんだ。言ったはずだ、君といると不思議な力が湧いて来るって。それは僕の本心なんだ。」その宣言のあと、彼はそっと私を抱きしめた。彼に包まれる安心感に、心の奥からほっと涙がこぼれそうになる。私…このままでいいのね。「大丈夫、僕を信じて。」耳元で囁かれた声が優しくて、温かくて、私の不安ごと心を溶かしていく。私は思わず彼の胸に顔を埋める。「…本当に、好きなんです。でも、オズワルド様を不幸にすることだけは、絶対
しばらく二人はオズワルド邸でお世話になると思っていたが、翌日には、シシリーに迎えが来て、彼女は無事に帰って行った。シシリーの実家であるラスキン侯爵家は、潤沢な資金と警備体制が整っており、娘を守ることぐらい自分達でできるのだ。それに、自分の娘が原因のトラブルで、オズワルド公爵家にこれ以上お世話になるのも、気がひけたのだろう。でも、反対に私が帰る家はあのおんぼろな一軒家。だから、オズワルド様の帰宅の許可がおりない。「あのぅ、オズワルド様、今回のことはあくまでシシリーを狙った出来事で、私は標的でないというか、もう帰っても大丈夫かと思うのですが?」「本気で言ってるのか?」その低い声に、思わず息をのむ。けれど次の瞬間、彼は少しだけ表情をやわらげ、困ったように微笑んだ。「だったら、もう一度頭から話そう。」そう言って、オズワルド様は再びどうして家に帰ってはいけないのか、丁寧に話し始める。本当は私だってわかってる。シシリーと二人で逃げた時、悪い者達に追いかけられた。その時、顔を見られてしまったから、今では私も標的なのかもしれない。でも、それよりもオズワルド様に迷惑をかけ続ける方が私としては心苦しい。彼に好意を抱いている今、彼に煩わしい思いをさせたくない。「わかっています。わかっているけれど、オズワルド様の負担になりたくないんです。」「負担じゃない。どうしたら、僕にとって君が大切だと伝わる?」その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。「私、今までこんなに私を大切だと言ってもらったことがなくて。」「それもわかってる。初めてのことに戸惑っているんだよな。でも、ここに君がいた方が僕も安心する。君だってそう思えないかい?」オズワルド様の穏やかな声が、心の奥にそっと染み込んでいく。「私本当に迷惑じゃないですか?」「もちろん。だって僕は、君にとって一番信頼できる人なんだろう?」オズワルド様はふっと微笑んで、いたずらっぽく囁く。「それは…、忘れてください。」顔が熱くなるのを感じながら、私は思わず俯く。「無理だよ、あれは本当に嬉しかった。」 「えっ?」「だって真顔で、真正面から言いきったからね。あんな緊迫した話をしているときなのに、顔がにやけてくるのを我慢するのが、大変だったんだから。」冗談めかした口調とは裏腹に、彼の目はどこ
レナータとシシリーは、なんとかオズワルド様の邸にたどり着いた。けれど、この時間は彼が王宮に出向いているとわかっていた。それでも、彼が帰る頃までどこかに潜んでいるのは危険だし、王宮に近づくのはもっと危ないから、偶然通りかかった馬車を止めて、持っていた金銭を渡し、この邸まで送ってもらったのだ。さすがに、オズワルド公爵邸の前で、私達を攫うことはできないだろうと判断した。いざ来てみたものの、邸の方々も私達の扱いに困ったようで、王宮にいるオズワルド様に早馬で確認に行ってくれた。本当に部下だとわかれば、私はオズワルド様の同僚なのでもてなさないとならないし、彼を慕う変な女なら、追い出さないといけないと言ったところだろうか。とにかく、どちらにしても迷惑であることは変わりない。私達はオズワルド様が邸に戻り、応接室に入るなり、精一杯謝ることにした。「オズワルド様、すみません。」「さすがに今回は僕が怒っているとわかっているようだな。」そう言う彼の瞳は、言葉と裏腹に緩んでいた。まるで、私の無事を喜んでくれているような…。そんな気がして、胸の奥がほんの少し、熱くなった。それでも、こんな時に甘えは許されない。「はい、無断欠勤してしまったので。」「ならばすべて説明してもらおう。」「はい、まずはオズワルド様の邸にこんな形で押しかけてしまってすみません。でも、私にとって一番信じられる人は、オズワルド様ですので、こちらに来てしまいました。」「…そうか。まあ、いい。」オズワルド様は顔をふいと背ける。その横顔に、どこか照れくささのような表情が見えた気がした。そして再び落ち着いた声で話し出す。「実は我々もレナータを探し始めていたんだ。無断で休む君を不審に思ってね。」「そうだったんですか。連絡しようにも手段が見つからなくて。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。」「まあ、状況によっては、それも仕方がない。ただ、そのせいでもうレナータの部屋は中までテオドロが確認しているよ。」「えっ、私のお家に入ったんですか?」「まあ、そういうことだ。どうしても確認が必要だったから。腹を立てるなら、僕にぶつけていい。僕達の仕事は事件に巻き込まれることもあるから、初動が肝心なんだ。」「えー、恥ずかしいです。でも、しょうがないですよね、安全確認のためです
「オズワルド様ちょっといいですか?」オズワルドが王宮内の自室で執務をしていると、ダグラスがいつになく険しい表情を浮かべている。「どうした?」「実は、レナータがまだ出仕していないのです。彼女が何の連絡もなく休むなんて、どうもおかしいと思いませんか?」「そうだな。レナータなら事情があって休むとしても、何らかの手段で連絡が来そうなものだよな。」「はい、僕もそう思います。」「テオドロに向かわせるか?」「はい、一応ですが、それがいいかと思います。」すぐにテオドロを呼び出し、レナータの家へ向かわせると、数刻の後、彼が戻って来た。「どうだった?」「何度か呼びかけましたが、レナータの返答がないため、念のため大家に話し、大家と一緒に確認しましたが、部屋には誰もいませんでした。」「部屋の様子は?」「荒された形跡はなかったです。」「そうか。」「それで、家の周りに住んでいる人々に聞き込みをして回りましたが、昨夜、レナータの部屋に明かりが灯ったのを見た者はいませんでした。恐らく、彼女は昨日王宮から出た後、家に戻っていないと思われます。」「そうか。ご苦労だった。」「どうしますか?引き続き、レナータの昨日の帰りの足取りを追ってみますか?」「そうだな。彼女に限って、誰かの家に泊まって、仕事を放り出して姿を消すような人間じゃない。何らかの事件に巻き込まれたと考えるのが自然だ。」「では、早速、調べて参りますね。」 「頼む。」レナータはいったい何処に行ってしまったんだ?そのことが気にかかり、仕事など全く手につかない。意識して書状に目を通そうと思っても、数行読まないうちに思考はレナータの元へと戻って行く。手を止めている僕を見て、ダグラスが心配そうに声をかける。「オズワルド様、大丈夫ですか?落ち着かないようですが。」「ああ、はっきり認めてしまえば、心配でどうにかなりそうだよ。」自分自身に問いかける。どうして僕はこんなにも、レナータを思い、心配で胸が苦しくなるんだ?彼女はただの同僚のはずなのに。仕事など投げ出して、今すぐ自ら彼女を探しに行きたい衝動に駆られる。こんな思いは初めてだった。彼女は仕事に対して真摯だからこそ、無断で休んでいる今、心配はつのる一方だ。きっと彼女は仕事に来れない状況に陥っているに違いない。そして、それは休