Share

第259話

Author: キラキラ猫
遥は彼を睨みつけた。

「今一番危険なのは、あなたじゃないの?」

あの男性社員は、遥にとって危険度の高い見知らぬ男だ。

だが、湊の危険度はどうだ?

彼こそが、彼女のそばにいる最も危険な人物ではないのか。

湊は振り返り、適当な椅子を見つけて腰を下ろした。

「寝ろ、お前たちが眠りについたら、向こうへ戻る」

彼はそれ以上近づこうとはしなかった。

椅子はベッドの足元に置かれている。

海島での夜は特別に静かで、海風が窓を叩く音だけが響いていた。

室内のエアコンは、ちょうどいい温度に設定されている。

遥は、湊がいるせいで眠れないだろうと思っていた。

だが、驚くほど早く目を閉じ、深い眠りに落ちてしまったのだ。

部屋の中には、大人と子供の二つの寝息が、次第に規則正しく響き始めた。

湊が立ち上がった。

ベッドの傍らに歩み寄り、熟睡している遥と結衣を見つめた。

身をかがめ、遥の額と結衣の頬にそっとキスを落とした。

祈りにも似た、慈しむようなキスだった。

少しの間だけそこに留まり、彼は背を向けて部屋を出て行った。

自分の部屋に戻ると、湊のスマホに一枚の写真が送られてきた。
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第988話

    車はそのまま、近くのビルへ向かった。湊は縁なしの眼鏡をかけ、さっきから手元の紙に目を落としていた。蓮が何気なく横から覗いてみると、湊が見ていたのは結衣の通知表だった。あまりに真剣な顔で見ていたので、てっきり投資の資料でも読んでいるのかと思った。「結衣、まだ一年生だろ?成績なんて多少悪くても、そんなに気にすることないんじゃないか」「悪いんじゃない。よすぎるのが心配なんだ」蓮は思わず湊を見た。それでは心配というより、ただの自慢にしか聞こえなかった。すると、運転していた健太が説明した。「結衣様はもともと落ち着いたお子さんですし、とても頭がいいので、同い年の子とは少し馴染みにくいようです。学校でも、悠斗様と一緒にいる時以外は、一人でいることが多いそうです」湊が気にしていたのは、成績そのものではなかった。結衣は大きくなるにつれ、どんどん大人びていった。小さい頃から言葉を覚えるのが早かったが、今では何をやってもすぐに覚え、そのうえ驚くほど根気もあった。蓮には、それの何が問題なのかよく分からなかった。「別にいいんじゃないか?お前も子どもの頃、そんな感じだっただろ」「俺とは違う。俺は、そうするしかなかったんだ」子どもの頃の湊は、何をするにもきちんと結果を出して、ようやく行健から少し褒めてもらえた。そのわずかな言葉を支えに、本家での日々を過ごしていた。けれど、結衣は違った。結衣には、無理をして何でもできる子になる必要などなかった。何かで一番にならなくても、好きなことをして毎日楽しく過ごせれば、それでよかった。多少わがままに育ったって、湊も遥も気にしなかった。正男が遥を育てたように、結衣にももっと無邪気に、子どもらしく育ってほしかった。そんなに聞き分けのいい子でなくてもよかった。けれど結衣は昔から覚えが早く、そのうえ負けず嫌いだった。何か始めると、負けたくなくて最後まで頑張ってしまう子だった。この調子で何でも頑張りすぎて、結衣自身が疲れてしまわないか。それが湊には心配だった。そこまで聞いて、蓮は一瞬ぽかんとしたあと、片手で顔を覆って笑った。「湊、お前さ……心配しすぎじゃないか?結衣がもう少し勉強苦手だったら、それはそれで心配するんだろ」「お前も親になれば分かる」蓮はまた言葉に詰ま

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第987話

    あの写真は、前に美和が凛を食事に誘った時、慧も一緒にいて、その場で何気なく撮ったものだった。昨夜SNSに載せた時、凛はその投稿を見ていなかった。けれど、二人を知る人たちからは次々とコメントがつき、中にはいつ結婚するのかと聞いてくる人までいた。凛がまだ蓮を忘れられずにいたことは、慧も分かっていた。この二年、二人はずっと友人のままだった。近づきすぎることもなく、かといって離れることもなかった。凛がそれ以上踏み込んでくることはなかったし、慧もずっとその距離を守っていた。好きだと伝えたことさえなかった。美和からは何度も、もう少し自分からいけばいいのにと言われていた。けれど慧は、凛の性格なら、今気持ちを伝えても断られるだけだと思っていた。だから焦らず、今の距離のままそばにいればよかった。いつか凛が蓮を諦められる時が来たら、その時に気持ちを伝えるつもりだった。さっき削除した投稿には、慧と蓮の共通の知人も何人か「いいね」をつけていた。それだけで、慧には十分だった。……S2グループでは、夜遅くまで社員が残っていることも珍しくなかった。蓮が仕事を切り上げた頃も、向かいのビルにはまだ明かりがついていて、仕事を終えた社員がぽつぽつと出てきていた。腕時計を見ると、もう夜の十時だった。蓮は帰る前にじょうろを手に取り、社長室の外に並んだ胡蝶蘭に水をやった。しおれた花がないか一通り確かめてから、ようやく会社を出た。駐車場まで下りて車のドアを開けると、湊が中に座っていた。「湊?どうした。こんなところまで」「新しいチップを何種類か作ったから、S2の設備借りてデータ取ってた」蓮はその言葉をまともに信じなかった。「遥がこの近くにいるんだろ?」九条グループなら、チップをテストする設備くらい当然あるはずだった。湊はあっさりうなずいた。「近くで商談してる。来るなって言われた」遥の仕事はジュエリー関係が中心だった。ただ、湊が商談の場にいると、相手の注意がどうしてもそちらへ向いてしまう。実際、遥が呼んだ取引先が湊に別の話を持ちかけ、そのまま九条グループとの大きな契約に発展したことも何度かあった。そのため今では、遥の商談が終わるまでは顔を出さないよう言われていた。今日は遥を迎えに来たついでに、S2へ寄っただけ

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第986話

    電話の向こうから、慧の声がした。「相沢グループから提携の話が来てたそうですね。断ったって聞きましたけど?」蓮は鼻で笑った。「ずいぶん耳が早いな」同じ業界にいれば、この手の話がどこからか耳に入ってくるのは珍しくなかった。相沢グループは、この二年で家事ロボットの事業をかなり伸ばしていた。新製品の動向も、同業他社からそれなりに注目されていた。慧の会社でも家事ロボット用のチップを作っていたが、試してみるとS2のものほどの性能は出なかった。相沢グループが何度もS2に声をかけ、どうにか提携してもらおうとしていたことも、業界ではよく知られていた。「ちょっと確認しておきたくて。そっちがこの案件を受けないなら、うちで引き受けてもいいかなと思ってるんです」蓮は低く笑った。「ずいぶん自信あるんだな。けど、そっちのチップで相沢グループが納得するとは限らないだろ」慧は少し黙ってから、口を開いた。「それはちょっとひどくないですか。俺はただ、凛にこんなことで気を揉んでほしくないだけですよ。凛はアンサンブルの仕事が中心ですし、相沢グループのことまで抱え込まなくて済むなら、そのほうがいいと思ってます」凛のことを当然のように語る慧の口ぶりが、妙に親しげだった。蓮は薄く笑った。「それなら残念だったな。今回の話は受けることにした」電話の向こうで慧が一瞬黙り、それからほっとしたように息を吐いた。「そうですか。それなら凛も喜びます。ありがとうございます」「相沢グループとの話なのに、なんでお前に礼を言われなきゃならないんだ」慧は気にした様子もなく笑った。「最近、凛とはいい感じなんですよ。このままうまくいったら、その時は佐原さんも式に来てくださいよ」「そんなこと言って、凛は知ってるのか?」慧がくすりと笑った。「もちろん。母さんも凛のこと、すごく気に入ってますしね。佐原さんは知らないかもしれませんけど、凛って、家族に祝ってもらえるかどうかを結構大事にする人なんですよ」美和が凛を気に入っていることは、蓮もよく知っていた。パーティーで顔を合わせるたびに凛のことを褒めていたし、本人がいないところでもそれは変わらなかった。凛と慧はどうなのかと聞かれても、美和はいつも嬉しそうに笑って、若い二人のことは本人たちに任せていると

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第985話

    「もう帰っていい。条件が決まったら、こっちから連絡する。このあとまだ用がある。食事まで付き合ってる暇はないからな」凛は思わず呆れた。まさか、食事目当てでここに残っているとでも思っているのだろうか。そう考えると、余計に相手をする気も失せた。凛は二部の契約書をまとめた。「佐原社長、押印だけお願いします。終わったらすぐ帰りますから」署名はすでに済んでいた。あとは印を押すだけだった。蓮は二部の契約書にそれぞれ印を押し、凛に差し出した。凛が契約書に手をかけても、蓮はなかなか手を離さなかった。顔を上げると、蓮はじっと凛を見ていた。まるで何もかも見透かそうとするような目だった。凛は黙ったまま、少し力を入れて契約書を引き寄せた。その瞬間、ふっと視界が揺れた。朝からコーヒーを飲みすぎたせいか、急に胸がどきどきして、目の前までぼやけてきた。ヒールを履いていたこともあって、うまく足に力が入らなかった。よろめいたところを、すぐに蓮が腰を支えた。そのまま引き寄せられ、気づけば蓮の膝の上に座り込んでいた。「どうした?」凛は小さく首を振り、思わず蓮の襟元をつかんだ。「ちょっと……ふらふらする。たぶん、コーヒー飲みすぎた」以前にも同じことがあった。空腹のままコーヒーを飲みすぎると、動悸がして目眩を起こすことがあった。蓮はすぐにデスクに置いてあった水を手に取り、凛に飲ませようとした。「口開けろ」何か食べさせられればよかったが、今の凛には難しそうだった。蓮はひとまず、少しずつ水を飲ませた。凛はまだぼんやりしていて、体もかすかに震えていた。うまく飲み込めなかった水が口の端からこぼれるたびに、蓮がそっと拭ってやった。けれど、凛を抱えたままではそれもやりにくかった。蓮は少し顔を寄せ、凛の口元に残った水をそのまま唇で受けた。しばらくして、コップの水が半分ほど減った頃には、凛の目眩もだいぶ治まっていた。ぼんやりしていた頭も少しずつはっきりしてきて、そこでようやく今の体勢に気づいた。凛はまだ蓮の膝の上に座っていて、蓮の腕も腰に回ったままだった。その瞬間、一気に我に返った。凛は蓮を押しのけるようにして、慌てて立ち上がった。「すみません……」さっきまで凛の具合ばかり気にしてい

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第984話

    五つも条件があると言っておきながら、蓮は肝心の内容をはっきり言おうとしなかった。そんな曖昧な話を、簡単に受け入れられるはずもない。凛は思わず唇を噛んだ。「佐原社長、そこまでして私を困らせたいんですか?」「そう思うなら、もういい。ほかの会社と組めばいいだろ」蓮は両手を組んだまま、背もたれに深く身を預けた。くつろいだ姿勢なのに、そこにいるだけで妙な圧があった。相沢グループの製品に、S2のチップ以上に合うものなどなかった。蓮はそう確信していた。まして慧の会社が作るチップなど、最初から比べる気にもならなかった。凛は手元の資料に目を落とした。紙を押さえる指が、かすかに震えていた。こんな回りくどいやり方をするのも、数年前のことをまだ根に持っているからに違いなかった。けれど、今回の新製品には、相沢グループもすでにかなりの資金をつぎ込んでいた。ここまで関わってきた人たちの努力を、凛一人のせいですべて無駄にするわけにはいかなかった。ここへ来た時から、私情は持ち込まないつもりだった。蓮が何か条件を出してくることも、ある程度は覚悟していた。それでも、まさか内容まではっきりさせないとは思っていなかった。凛は資料を強く握りしめた。力の入った指先が、白くなっていた。少し黙ったあと、ようやく口を開いた。「分かりました。受けます」蓮は顎を軽く撫でた。「まだサインする気になれないな。コーヒーでも一杯淹れてくれないか?」言うだけ言うと、蓮は目を閉じた。それ以上話す気はなさそうだった。コーヒーを淹れるくらいなら、大したことではなかった。凛は席を立ち、社長室の奥にある給湯スペースへ向かった。蓮は昔からコーヒーが好きで、家には十種類以上の豆を揃えていた。中でも、しっかりコクがあって、少し酸味のある豆を好んでいた。凛はその中から適当に一袋取り、コーヒーマシンにセットした。抽出が終わると、濃い香りが立った。凛はそこへ氷を入れ、蓮の前に置いた。蓮がふと目を落とすと、凛の薬指に見慣れない指輪があった。澄んだ赤のルビーに、小粒のダイヤがいくつかあしらわれていた。凛は昔から、ほとんど指輪をしなかった。前に一度、もし指輪をつけるなら、たぶん結婚指輪くらいだと話していたことがあった。その言葉を思い出した瞬

  • 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした   第983話

    蓮はじっと凛を見ていた。仕事のことになると、凛は好き嫌いで判断を変えるような人ではなかった。それを蓮はよく知っていた。必要なら、相手が蓮でも会いに来るような人だった。今日こうして凛がここまで来たこと自体、相沢グループがS2より条件のいい相手を見つけられなかった証拠だった。そもそもS2の新型チップは、相沢グループの家事ロボットで使うことを前提に開発されたものだった。性能も規格も相沢グループの製品によく合っていた。ほかを探したところで、これ以上条件の揃ったチップは簡単には見つからなかった。そこまで分かっていたからこそ、蓮は余裕を崩さなかった。しばらく黙っていた凛が、やがて小さく息を吐いた。「それで、条件は?」蓮は淹れたお茶を凛の前に置いた。凛は茶葉の浮いた湯呑みを見たが、手をつける気にはならなかった。朝からすでにコーヒーを三杯も飲んでいたし、今はお茶を飲みたい気分でもなかった。「条件は五つある。全部受けるなら、契約してもいい」凛は顔を上げた。蓮はさっきから、何かを押し殺すような目で凛を見ていた。怒っているようにも見えたが、それだけではない気もした。けれど、凛にはその目が何を意味しているのか分からなかった。まだ昔のことを引きずっていて、今さら凛を困らせたいのだろうか。「どんな条件ですか?」「そんなに身構えるなよ。俺たち、今さらだろ。もっと近いことだってしてきたんだから」凛は思わず目を見開いた。付き合っていた頃、二人がそういう関係だったのは事実だった。でも、別れた今になって、それを平然と口にされるとは思わなかった。「私たち、もう別れてるんですけど」「そうだったな。言われるまで忘れてた」蓮は口元をわずかに歪めた。「とりあえず聞いてから決めればいい。無理なら帰っても構わない。ただ、うちより条件のいい相手が見つかるとは思わないけどな」悔しいが、その言い分には反論できなかった。担当者が持ってきた資料には、ほかにもいくつか候補が載っていた。それでも、相沢グループの製品に一番合っていたのはS2のチップだった。前のモデルで出ていた問題のほとんどを解消でき、新製品に必要な性能も満たしていた。規格まできれいに合っていたため、まとまった数を確保できれば、大きな調整をせずにその

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status