Se connecter楓が先に、設定された攻略キャラについてを説明した。「このキャラの設定は大学時代から高嶺の存在で、学園の王子様です。性格はクールで落ち着いている。ヒロインのことがずっと好きなのに口に出さないタイプで、ボイスは低音ボイスが希望です。少年のような若々しさを保ちつつ、性格的な成熟も兼ね備えている必要があり、声優に求められる演技力は高いです」会議室の雰囲気はそれほど堅苦しくなかった。企画書には五人の攻略キャラがいる。恋愛ゲームであり、ターゲット層は女性プレイヤーだ。会議室にいるのも女性社員ばかりだ。このゲームの売り文句の一つが、女性スタッフのみで制作していることだ。市場のニーズに対し、このジャンルはまだブルーオーシャンだ。会議の場も和んでおり、楓も気軽に聞いた。「遥ちゃん、このキャラについて他に修正点はある?」「声優に関しては検討が必要ですが、このキャラの性格も私としてはあまり好きではありません」遥は椅子に深く座り直し、スクリーンに映し出された拡大版のキャラクター紹介を見つめた。「片思いは美しいですが、付き合ってからも自分の気持ちを言わないのは、キャラクターの魅力を大きく損ないます。このあたりのテキストとシナリオは、再調整が必要だと思います」楓は頷いた。「確かにそうね。付き合ってるのにカッコつけて、好きじゃないなんて言うのは興醒めだわ。シナリオ班に修正させるわ」遥はあるボイスデータを再生した。「これを聞いてみてください。私が選別した中で、一番イメージに近いものです」声優の低く心地よいボイスが会議室に響く。理想には少し届かない。だが数百の候補の中では、最も適していたものだ。女性社員たちが話し合い、ひとまずこれで進めることに決まった。最後に湊を見た。「社長、いかがでしょうか?」「餅は餅屋だ。専門的なことは君たちに任せる」この点において、湊は非常に物分かりが良かった。会議の後、湊はあるデータを指差した。「この部分の担当者は残れ、他は戻っていい」楓は遥の肩を叩き、ガッツポーズをして見せた。皆が去り、会議室には遥と湊の二人だけが残された。遥がデータを説明しようとすると、湊は人差し指を立てて、静かにするよう合図した。分厚いデータレポート。彼はそれをめくり
健太は遠回しに言った。「社長、立花さんには夫がいらっしゃるようですが」後部座席の湊は沈黙した。しばらくして、口元に微かな笑みが浮かんだ。それは愉悦のようでもあり、また複雑な感情を含んでいるようでもあった。彼の目つきは鋭く、まるで獲物を狙い定めたジャングルの狩人のようだ。「そのうち、いなくなるさ」健太は湊の意図を察し、安堵のため息をついた。そして事務的な口調に戻り、伺いを立てた。「社長、立花さんはいくつかのプロジェクトで成果を上げています。今後は彼女を社長の直属にされてはいかがでしょうか」「いいだろう」……遥のチームが最近担当することになったのは、ゲーム部門から回ってきた案件だった。恋愛ゲームのプロジェクトだ。大まかな仕様書はできていたが、修正が必要な箇所を遥が一つ一つチェックし、差し戻しては再提出させていた。現在は、最終プレゼン前の詰めに入っている。一人の攻略キャラの声優が、どうしても決まらないのだ。オーディション用のサンプルボイスは、ヒーローがヒロインにキスをした後の、微かな喘ぎを含んだ笑い声と、短い台詞数行だ。短いセリフだが、声優に求められる演技力は高い。隣の席で、楓がため息をついている。「ここ数日で何百人もの男の喘ぎ声を聞いたわよ。旦那に浮気してるんじゃないかって疑われたわ!」遥はヘッドホンをして、次のボイスに切り替えた。確かに、これだという声が見つからない。どの声も、何かが欠けている。キャラクターのイメージにぴったりの声がないのだ。遥が水を飲もうとすると、向かいの美咲が何気なく言った。「ぶっちゃけ、社長の声が一番合ってると思うんだけど!」遥は危うく水を吹き出しそうになった。美咲もよく言ったものだ。だが、楓まで真顔で同意し始めた。「それよそれ!社長の声、マジでドンピシャよ。もし一回でも喘いでくれたら……」「誰が社長に頼むのよ?」と美咲は言った。「明日クビになる覚悟があるなら、どうぞ」二人は顔を見合わせ、賢明にもその自殺行為を諦めた。「言うだけならタダよ。じゃあ、社長の声に似てる人を探そうか」「それなら現実的ね」美咲と楓は再びチェックに戻った。聞き進めても、なかなかしっくりこない。遥一人だけが、席に座ってヘッ
健太がハンドルを握る。湊の家から会社までは、渋滞を加味しても三十分ほどだ。その間、遥はずっと窓の外を見つめ、一言も発さなかった。湊も書類に目を落としたまま、無言を貫いている。二人の間には、見えない壁があるようだった。だが健太には分かっていた。社長は遥に気がある。遥にはその気がない。無理もない。湊が来る前、遥は家庭円満で幸せそうだったのだから。そこに割り込まれれば、誰だっていい顔はしないだろう。遥の顔色が悪いのは、実は車酔いのせいだった。湊はサイドポケットから小箱を取り出し、ミントタブレットを一粒取り出して差し出した。遥が視線を落とす。竹細工のように繊細で、節のある美しい指。まるで彫刻のようなその指が、目の前に差し出されている。掌には、小さな白い粒。「酔い止めだ」湊の冷淡で落ち着いた声が、耳元で響く。遥は彼の手からタブレットをつまみ上げた。指先が彼の手のひらに触れ、その熱に触れた瞬間、遥は反射的に指を引っ込めた。蚊の鳴くような声で「ありがとうございます」と言った。湊は「ああ」とだけ答え、手を引っ込めた。「車酔いするなら、自分で運転したほうがマシだ。昔、免許を取れと言ったのに、先延ばしにするからだ」遥は驚いた。湊が彼女の車酔いを知っていたなんて。口の中にミントの清涼感が広がる。めまいが少し治まった。湊は彼女を見ず、片手でスマホを操作して何かメッセージを打っている。遥はつい口を滑らせた。「以前は、慣れれば治ると思ってたんです。それに、一人で行くのも……」一人で教習所に通うのが嫌だったのだ。ネットで教官が怖くて怒鳴るという書き込みを見るたび、遥は尻込みしていた。何度か一緒に通ってくれる人を探した。最初は湊。彼は断った。高校卒業と同時に取得済みだったからだ。次は瞬。彼は一度承諾したものの、なぜか急にドタキャンした。三度目はあかりだ。その後、遥は免許のことを考えなくなった。車酔いの不快感もあってか、遥はつい愚痴をこぼした。「瞬くんったら酷いのよ、一緒に行くって約束してくれたのに」湊は最後のメッセージを送信し、スマホをしまった。視線を遥に向ける。文句を言っているようだが、その口調には微かな甘えが含まれていた。湊の喉仏が
「無理しないでよ。あんたが倒れたら、私は手術なんて受けないからね」久美子は自分の病気のせいで遥に負担をかけていることを気に病んでいた。夜中まで帰れず、残業している娘を不憫に思い、つい上司への愚痴もこぼれる。「その上司、昨日家に来た若いのでしょ?人使いが荒いにも程があるわね。見た目はいい男なのに、中身は鬼だわ」遥は気まずかった。勝手に人の家に来て、勝手に寝てしまったのは自分だ。手で受話器を覆い、適当に相槌を打って電話を切った。食べ終えたのを見て、湊が立ち上がった。「行くぞ。会社まで送る」「社長……」遥は躊躇い、視線を泳がせた。健太がまだ下にいるはずだ。湊と一緒に降りれば、間違いなく鉢合わせする。「あの、あと五分ほどしてから降りてもいいですか?」湊は彼女の考えを見透かしたが、あえて何も言わなかった。健太が気づかないとでも思っているのか?数年も一緒に働き、遥の愛用するニッチな香水の香りまで知っている健太なら、とっくに勘付いているはずだ。だが湊は言わなかった。「いいだろう。五分後に降りてこい」遥は胸を撫で下ろした。「ありがとうございます」彼女の安堵した様子を見て、湊はきびすを返し、先に部屋を出た。車に乗り込む。健太がバックミラー越しに後部座席を伺い、探るように聞いた。「社長、立花さんは出社されないんですか?」先ほど部屋を出てから、健太はずっと考えていた。湊に抱きしめられていた女性の後ろ姿、どこかで見覚えがある。長い巻き髪、体のラインが出るワンピース、玄関にあった白いハイヒール、ソファに置かれたバッグ。どう考えても、あれは遥だ。社長と遥がデキていたなんて!でも遥には夫も子供もいるはずだ。健太は混乱していた。秘書室長として、社長の意向を確認すべきか迷った。もし単なる火遊びで、遥も合意の上なら、それは大人の事情だ。部外者が口を出すことではない。だがもし本気なら……ありえない。遥の夫はどうなるんだ?まさか社長は、略奪愛でもするつもりなのか?それはあまりにも……刺激的すぎる。湊は手元の書類に目を落とし、何気なく答えた。「彼女は地下鉄で行くそうだ」健太は呆気にとられた。おかしい。遥は昨夜からずっと社長の家にいたはずだ
湊は遥を凝視した。どんな微細な表情の変化も見逃すまいとするかのように。だが残念ながら、彼女は冷静だった。遥は動じることなく答えた。「さあ。私も結衣のお婆ちゃんには会ったことがないので」「会ったことがない?」いくら結婚期間が短くても、相手の両親に会ったことがないというのは不自然だ。遥はデニッシュを手に取り、一層一層剥がしながら食べた。食事に集中しているふりをして、動揺を隠す。指先の震えを悟られないように。この数年、近所の人たちから同じような質問を何度も受けてきた。答えはとっくに用意してあり、何度も頭の中でリハーサルしてきた。こんな作り話には慣れていた。ただ相手が湊だと、どうしても緊張してしまう。「ええ。結衣のパパのことは、以前お話ししましたよね。彼は私のことなんて好きじゃないんです。なりゆきでできた子で、彼には子供が生まれたことさえ教えてませんし、責任を取ってもらおうとも思ってません」広いダイニングには二人きりだ。湊は手を止め、サンドイッチを皿に戻した。「妊娠も出産も、相手は知らないのか?」自分の声が、胸の奥で響くのが分かった。遥はゆっくりと顔を上げ、湊の宝石のように深い瞳を見つめ返した。そして、にっこりと微笑んだ。「ええ。言ったでしょう?私はあの人を愛してるんです。子供を産んで愛する人を繋ぎ止めたいと思う女心、社長には理解できないかもしれませんね」遥は恥ずかしそうに髪を耳にかけ、長い睫毛を瞬かせた。「こんな話、笑っちゃいますよね」さっき飲んだアイスラテが、空っぽの胃の中で暴れている気がした。かつて、彼は遥のことを誰よりも理解していると思っていた。だが今。わずか半メートル先に座る彼女は、満面の笑みで、瞳に星屑のような光を宿し、他の男への愛を語っている。湊は問わずにはいられなかった。「後悔していないのか?相手がそんな男でも?」自分を愛さず、DVまでするような男のために、喜んで子供を産んだのか?彼はその問いの答えに、期待にも似た感情を込めていた。彼女が後悔していると言えば、少しは救われる気がした。遥は首を横に振った。「後悔なんてしてません」彼女はまるで他人事のように、あるいは湊を通して別の誰かを見ているかのように、淡々と本
健太の視線が近づいてくるのを感じる。遥は慌てて湊の腰に強く抱きつき、顔を彼の胸に埋めた。どうか健太が来ませんようにと祈る。湊は口角を上げ、遥の後頭部に手を回し、髪を梳くように指を通した。気まぐれに、彼女の首筋を撫でる。その感触に、遥は鳥肌が立った。湊はゆっくりと言った。「いらない。これだけでいい。下で待ってろ」「承知しました」健太は秘書室長であり、湊の特別補佐でもある。湊の家には家政婦がいないため、普段は健太が彼の好みに合わせて朝食を買ってくるのだ。今日は健太が来ることを忘れていた。だが遥の反応を見て、湊も面白がっていた。健太が慌ただしく去っていく。遥はようやく湊の腕から抜け出した。開口一番、彼を責める。「なんで人が来るって言ってくれなかったんですか!」「随分と口うるさいな。俺も朝食くらい食べたいんだが」遥が帰ろうとすると、湊は悠然と言った。「今降りたら、木下と鉢合わせするぞ。それに、四時間はまだ経ってない」出社までの空き時間も、彼が要求した報酬の一部に含めるつもりらしい。遥は観念した。仕方なく座り、彼と一緒に朝食をとることにした。一人分とはいえ、健太は湊が急に気分を変えることを考慮して、数種類用意していた。サンドイッチとサラダを遥の前に置き、クロワッサンやペストリーを並べた。グラスに氷と牛乳を入れ、濃いめのコーヒーを注いで即席のアイスラテを作った。見ているだけで、遥の胃がひっくり返りそうだった。サンドイッチをかじりながら言った。「社長、そんな食べ方してると胃を壊しますよ」「平気だ。しばらくは死なない」彼がそう言うなら、遥も黙るしかない。資本家の命など、知ったことではない。彼女が数口食べるのを見て、湊は淡々と言った。「昨夜は帰らなかったが、旦那は探さないのか?」遥はうつむいた。必死に言い訳を探す。しばらくして、苦しい言い訳をひねり出した。「彼は最近家に帰らないので、私がいないことも知らないんです」実際、あの家には男が住んでいる痕跡がない。ましてや、もうすでに離婚している。湊はサンドイッチを一つ取り、二口で食べた。「この前、彼と結婚したのは顔が良かったからだと言っていたな?」翔太の顔は、確かに悪くな