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第1089話

Penulis: 木真知子
さっき、彼が自分を見る目は冷たかった。

だが――桜子を見つけた瞬間、隼人の眉目はほどけた。

氷が解け、春の光が射したみたいに。

彼のことは、子どもの頃から知っている。

あの頃の彼は、たしかに優しかった。けど、淡々としていた。

今のこの表情は、違う。

桜子が、どれほど特別か。どれほど大切か。はっきり分かる。

昭子は奥歯を噛みしめた。

目のふちが赤くなる。

隼人が女神へ向かって歩いていく。生涯ただひとりの愛へ。

桜子だって、彼が来るのを見ていないわけがない。

背が高い隼人は、群衆の中でひとりだけ際立つ。

彼が歩くたび、視線が雪崩れ込む。

「桜子。あの小僧、こっち来るぞ」

樹が耳元でからかうように囁く。いつもは厳しい兄の声が、少し柔らかい。

「相手しない。見えないフリしてやる」

桜子はむくれた。けれど鼓動は乱れる。

「今日は別々に動くって約束したのに。余計なことはしないって。

どうして言うこと聞かないわけ?

前は甘い言葉ばっかで何でも従うくせに。犬の嘘つき」

お嬢様は怒っていた。

犬。嘘つき。

樹の鋭い顔に、こらえきれない笑みが浮かぶ。

――なる
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