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第3話:最初の嵐

Penulis: 秦江湖
last update Tanggal publikasi: 2026-08-25 13:55:40

『開けなさい、真白! 泥棒猫の分際で閉じこもる気!?』

防音扉越しに響く結衣の金切り声と、ドンドンと乱暴に扉を叩く音。

送り届けられてからまだ数時間も経っていないというのに、白河家の連中は早くも真白を追い詰めるために乗り込んできたのだ。

「……浅ましい連中だな」

蓮が冷たい声音で吐き捨てた。

だが、その表情に焦りは微塵もない。蓮は無駄のない身のこなしでベッドサイドへ戻ると、酸素マスクを手にとった。

「言っておくが、俺は世間に対して『植物状態』のままでいなければならない。表立って貴様を庇うつもりはないぞ」

「……ええ、望むところです」

真白は自分の両頬をペチリと叩き、気合を入れた。

「ここで私が逃げたら、一生あの人たちの言いなりです。私の戦いですから」

その言葉に、蓮の漆黒の瞳がわずかに揺れた。

蓮はベッドに身を横たえ、再び無機質な「生ける屍」の仮面を被る直前、真白に鋭い視線を投げかけた。

「部屋の防犯カメラは作動している。――無様に泣き叫ぶなよ、真白」

「泣きません!」

真白は背筋をピンと伸ばし、カチリと鍵を開けて重い防音扉を引いた。

瞬間、待ち構えていたように部屋へ雪崩れ込んできたのは、父の宗助、継母の雅代、妹の結衣、そして元婚約者の神崎涼の四人だった。

さらに廊下の奥には、結衣が呼んだのであろう二人の警察官の姿まで見える。

「まあ! なんて図々しい顔をして出てくるの!」

雅代がわざとらしく胸を押さえ、警察官たちに聞こえるように大声を張り上げた。

「お巡りさん、この子ですわ! 我が家の恥さらし! 黒羽総帥の身の回りの世話を名目にここへ入り込み、家中の高価な調度品や宝石を鞄に詰め込んでいるに違いありません!」

「そうよ!」と結衣が勝ち誇った顔で続く。「さっき車から降りる時、不審な大きなバッグを持っていたのを見たわ! お姉様、早くそのバッグを開けて見せなさいよ!」

神崎涼も蔑むような目を真白に向け、嘲笑を浮かべた。

「見苦しい真似はやめろ、真白。大人しく罪を認めて盗んだ物を差し出せば、身代わり婚の役目だけは続けさせてやる。俺たちの温情に感謝するんだな」

四人からの容赦のない罵声と侮蔑の嵐。

普通の女性なら、警察を前にした恐怖と屈辱でパニックになっていただろう。真白の指先も、怒りで小さく震えていた。

(……温情? 感謝? ふざけないで)

真白は震える指をぎゅっと固く握りしめ、一歩前に踏み出した。

「警察の方、どうぞこの部屋を隅々まで調べてください」

凛とした澄んだ声が、廊下に響き渡った。

予想外の堂々とした態度に、白河家の面々がギョッと目を見張る。

「私の持ち物は、着の身着のままで持ってきた小さな手提げ一つだけです。中に入っているのは着替えと洗面用具、それだけ。黒羽家の物は埃一つ盗んでいません」

「な、何を嘘を……!」

「嘘ではありません。それに――」

真白は警察官に向かって、淀みなく言葉を続けた。

「黒羽家の調度品や美術品にはすべて財閥の管理タグがついており、この廊下にも高精度の監視カメラが設置されています。私が何かを持ち出そうとすれば一発で分かります。……それとも、結衣。あなたはこの黒羽邸の厳重なセキュリティシステムすら知らないで、虚偽の通報をしたの?」

「な、なんですって……!?」

結衣の顔がみるみるうちに赤く染まる。

警察官たちも顔を見合わせ、「……確かに、部屋の入口に盗難の形跡は見られませんね」「虚偽の通報であれば、業務妨害になりますよ」と、白河家側に疑いの目を向け始めた。

「くっ……口先ばかり達者になりおって!」

思惑が外れた父・宗助が、怒りに任せて真白へ詰め寄った。

宗助は懐から一冊のノート――実母のスケッチブックを取り出すと、真白の目の前でこれ見よがしに掲げた。

「生意気な口を利く暇があるなら、黒羽家の実権を握る叔父の征四郎様に、白河家への追加融資五億円のサインをもらってこい! それができなければ……この母親の遺品を、今すぐここで引き裂いてゴミ箱に捨ててやる!」

「お父様、やめて……!」

真白の顔から血の気が引いた。

母の命そのものである大切なノートが、宗助の乱暴な指に掴まれ、ピシリと音を立てて破れかける。

「返して……返してください!」

「黙れ! 言う通りにするか、これが紙クズになるか、選べ!」

宗助の手が容赦なくノートを引き裂こうとした――その時。

キィ……と、静寂を切り裂くような金属音が、薄暗い寝室の奥から響いた。

全員の動きが凍りつく。

寝室の闇の中からゆっくりと現れたのは、一台の電動車椅子。

そこに座っていたのは――

酸素マスクを外し、冷徹無比な漆黒の瞳で一同を見据える、黒羽グループの総帥・黒羽蓮だった。

「――俺の屋敷で、誰が騒いでいる?」

氷点下の威圧感を放つその声に、宗助の手からノートが滑り落ちた。

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