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第37話
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出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第100話
竜也は心の中で舌を鳴らした。まさに掘り出し物を見つけた気分だ。彼は喜びに浸り、隣にいる男の表情がどんどん険しくなっていくことに気づいていなかった。ただその感情は暗い影の中に隠され、誰にも気づかれることはなかった――少し浮かれていた竜也は、凪の肩に顔をうずめ、尋ねた。「いくつだい？」凪は正直に答えた。「25歳」「25歳か？」男は眉をひそめた。かなり若い年齢だ。自分はもう40歳近くになっている。しかし、この美しい顔は本当に他のどんな女にも匹敵するのだ。「こんなに美人なのに、今まで見かけたことがないな。鷹司社長が隠してたのか？人前に出さないようにしてたのか？」彼は美人を腕の中に収めたことで、少し大胆になったのか、礼治をからかうような冗談を言った。凪は何も言わず、礼治を一瞥した。礼治は口元に笑みを浮かべたが、目は笑っていなかった。彼はタバコに火をつけ、指先で赤い火をチラつかせながら、冷淡に言った。「鬼塚社長が気に入ったなら、あげますよ」竜也の目は輝いた。「本当ですか？鷹司社長、太っ腹ですね。こんなに綺麗な美人を譲るとは！」彼は、礼治が本当に潔白だとは信じていなかった。業界では、彼が女性を囲っているという話は聞いたことがなかったが、誰もが知っていた。彼は元妻を女子刑務所に送ったのだ――こんな冷酷な男は、女にうつつを抜かすようなことはないだろう。多くの成功した男は、酒を飲んで女に溺れ、運が悪いとそのまま抜け出せなくなる。礼治だけはずっと用心深くしていた。彼はそれに感心し、冗談めかして言った。「きっと奥さんがお許しにならないのでしょう？わかりますよ。鷹司社長は愛妻家ですね！」口ではお世辞を言いながらも、心の中では感心していた。きっと礼治のような男は、女遊びをするにしても上手く隠していて、誰にも尻尾を掴ませないのだろう。家族にも気づかれないかもしれない。それを聞いて、礼治は煙を吐き出し、冷やかしの視線を凪に向けた。凪も唇を歪めて笑った。皮肉な気持ちでいっぱいだった。自分と礼治はまだ夫婦なのに、竜也は彼を愛妻家だと言う――しかも、彼の妻はここで他の男に抱かれているのだ。礼治は全く反応を示さなかった。浮気をされても平気なほど心が広いのか、それとも彼の心の中では、小夜子だけが妻なのか？二人
出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第99話
周囲からも、まるで獲物を狙うかのような視線が彼女に注がれていた。凪は眉をひそめ、思わず礼治の方を見た。彼はまるで気づいていない様子だった。凪は視線を戻し、淡い笑みを浮かべて言った。「お酒はあまり強くないの。皆さんの気分を壊したくないので……」「お酒はあまり強くないなんて、そんなこと言うなよ！」竜也は膝を叩き、礼治に不快な様子がないのを見て、この女は彼のおもちゃだと確信した。「さあさあ！こっちへ来いよ。酒の飲み方を教えてやるから！」それなら遠慮なく。凪は顔が青ざめ、礼治を見た。礼治は依然として動じず、むしろ少し後ろにもたれかかり、落ち着き払ってこの状況を見ていた。まるで彼女の困窮ぶりを楽しんでいるかのようだった。凪は歯を食いしばった。そして、彼女はふっと笑みを浮かべ、優雅に立ち上がり、竜也の前に歩み寄った。「どうやって教えてくれるの？」「さあ、もっと近くに来い！こんなに離れていたら、教えようがないだろ？」竜也は大喜びで笑った。近くで見ると、凪の顔は本当に――最高だ。遠くから見ると絶世の美女、近くで見ると守ってあげたくなる。ここ数年、インターネットの波に乗って、竜也はH市の四大御曹司の一人となり、多くの女優と遊んできた。女優は確かに綺麗だが、それはメイクや様々な演出のおかげだ。すっぴんを見ると、修正された写真とはやはり差がある。顔の造りは良いが、肌は必ずしも良いとは限らない。みんな、画像修正やフィルター機能に頼っている。しかし、凪は近くで見ても、肌がとてもきめ細やかで、本当に綺麗だった。ただ、少し痩せすぎている。鎖骨が浮き出ているほどだ。彼は少しふくよかな女性が好きだった。しかし、痩せていても、それはそれで綺麗に見えるんだから、少し太らせれば、もっと魅力的になるだろう。彼は頭の中ではすでに凪にどこの別荘をかってあげるか、どんな車をプレゼントするかという考えを巡らせいた。すこし時間はかかるが、この美貌なら、大金を注ぎ込む価値がある。凪は深く息を吸い込んで、彼の前に進み、ゆっくりと座った。竜也は、彼女を自分の膝の上に引き寄せ、周りの女たちに言った。「あっちへ行け！邪魔だ！」女たちはちょうど彼から金を巻き上げようとしていたところだったから、凪を恨めしそうに見て、他の男たちの相手
出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第98話
先ほど出迎えて乾杯してきた男は、礼治を見ながらニヤニヤと笑った。「鷹司社長はもう来てくださらないかと思っていたのですが、私の顔を立ててくれて本当に光栄です。乾杯させてください！」玄関先で既に一杯付き合わされたというのに、まただ。だから、礼治少し黙って眉間を押さえてから、淡々と言った。「気持ちは受け取りました。お酒は遠慮させてもらうよ」一方で、鬼塚竜也（おにづか たつや）は断られても全く怒る様子もなく、ヘラヘラと酒を飲んだ。しかし、彼の視線は依然として凪に注がれていて、何度も彼女を見ていた。彼は数多の女性を見てきたので、凪が他の女性たちとは違うことは一目でわかった。露出の多い服を着ているものの、入ってきた時の雰囲気からして、奔放な女性ではないようだ。今は礼治の隣で冷静に座っているが、無理に平静を装っているのが見て取れた。竜也はこういうタイプの女性が好きだった。奔放な女性も悪くない。だが、そういう女は金目当てなのが見え見えだ。サービスは最高で体感もいいが、面白みがない。こういうタイプは、たとえ金目当てで近づいてきたとしても、内心では不満たらたらだろう。それでも金のために頭を下げざるを得ない――彼は、自分を軽蔑しながらも、金だけは欲しがる、そんな女が身を委ねる姿を好んだ。彼が酒を二口ほど飲むと、すぐさま隣の女がすり寄ってきて、口移しで酒を飲ませようとしてきた。上機嫌になった彼は、女の胸元に札束をねじ込んだ。周りの人間もそれぞれに派手な遊び方をしていたが、凪はそこに座り、淡々とした表情で、喜怒哀楽を表に出さなかった。礼治は彼女の方を見た。薄暗い照明の下、彼の漆黒の瞳には、何とも言えない深みがあった。凪はとても冷静に見え、この状況にも慣れているかのようだった。しかし、膝の上に置かれた手は、徐々に拳を握りしめていた。どうやら、見た目ほど落ち着いてはいないらしい。礼治は何も言わず、口元に嘲りの笑みを浮かべていた。彼の存在感は、この場にはそぐわない。それでも、彼を不機嫌にさせようとする人はいなかった。そこに座っているだけで、彼は紛れもなく場を支配しているようだった。だから、周囲の人間もどんなに騒ごうと、どんなに羽目を外そうと、彼の気に障るような真似をする者は誰もいなかった。凪がようやく一息を
出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第97話
礼治は拳を握り締め、彼女をちらりと一瞥すると、そのまま通り過ぎて行った。凪が動かないのを見て、彼は冷たく言った。「来ないのか？」凪は何も言わず、髪を整えると、彼の後について中に入った。夜の帳が下り、街の喧騒が幕を開けた。廊下を進むと、中から賑やかな音楽が聞こえてきた。こんな騒がしい場所はあまり来ない凪は、少し落ち着かなかった。耳をつんざくような笑い声、男と女が入り混じる喧騒。広いステージを通り過ぎると、DJが最先端の音楽をかけていた。その人混みの中を通り過ぎるだけで、多くの人々が凪に大胆な視線を向けてきた。こんな場所では、人間の本来の姿が隠すことなく、むき出しになるのだ。酔っ払った男が彼らのそばに寄ってきた。礼治がいるのを見て、あからさまな行動はできなかったが、酔った勢いでよろめき、凪にぶつかった。「ごめん、お姉さん。ぶつかってしまった……」彼が持っていた酒が彼女のドレスにこぼれ、黒い染みが広がった。「お姉さん、スタイルいいね……」凪は眉をひそめて、素早く身をかわしたが、それでも少し濡れてしまった。礼治は足を止め、その酔っ払いに視線を向け、冷たく言った。「目が見えないのか？」男は彼の服装を見て、金持ちか地位の高い人間だとすぐに察した。酔いも少し覚め、礼治に言った。「ごめん！」彼は両手を上げて、凪に触れないようにして言った。「俺が悪かった。酔ってたんだ。わざとじゃない！」そう言うと、彼は踵を返して去っていった。礼治は凪の前に歩み寄り、彼女の手首を掴んで冷たく言った。「どこに行っても、男を惹きつける才能は衰えないな」凪は怒って彼を見た。「あなたこそ、目が見えないの？今の、明らかに彼が私にぶつかってきたのよ！」周りの騒音はあまりにも大きく、二人の声をかき消してしまった。礼治はただじっと彼女を見つめただけで、何も言わず、再び歩き出した。しかし、今度はひとりで先に行くことはなく、凪の手首を掴んで、自分のそばを歩かせた。彼は厳しい表情で彼女を腕の中に抱き寄せ、誰にも触れさせなかった。二人はすぐに個室に到着した。ドアを開けると、中から強い酒の匂いが漂ってきた――凪は顔をしかめた。こんな場所に来たのは初めてで、中に入ると、たくさんの視線が自分に注がれているのを感じた。彼女は黒
出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第96話
「おじいさん、これは俺の事だ」礼治は彼の言葉を遮り、「何をすればいいか分かっている。心配しないで」と告げた。「待て！」礼治が出て行こうとするのを見て、宗一郎はすぐさま問い詰めた。「こんな夜遅くに、どこへ行くつもりだ？家で伊之助くんと一緒にいろ！」「さっきも見ただろう、伊之助は俺に懐いていない」礼治は振り返らず、背を向けたまま、冷たく低い声が廊下に響き渡った。「俺より、おじいさんと一緒にいる方が伊之助は嬉しいだろう。俺は邪魔にならない方がいい」そう言うと、彼は階段を降りていった。「待て……待て！」宗一郎は彼の後ろで叫んだが、彼は足を止めることなく、そのまま立ち去ってしまった。彼が怒りで顔が青ざめているのを見て、小夜子は物陰から出てきて、「おじいさん、怒らないで。礼治さんはそういう性格なんだ……」と言った。彼女は急いで宗一郎のそばに行き、彼の腕を取りながら、「部屋まで送る」と言った。小夜子の控えめな表情を見て、宗一郎は心の中でため息をついた。彼は自分の孫のことを誰よりも理解しており、いつか……二人の女性を傷つけてしまうのではないかと心配していた。そう考えると、彼は眠れなくなった。……月影の外。時計の針が10時半を指した時、礼治の黒いロールスロイスが、少し離れた街角の楠の木の下に停まった。凪は、寒さで両足がしびれ、膝に何度も激しい痛みが走っていた。彼女は元々古傷があり、冷たい風に吹かれながらずっと立っていたので、もう限界だった。礼治が来ると、彼女は気を取り直して、彼の方へ向かおうとした。しかし、足を上げた途端、膝がガクッと崩れ、もう少しで地面に膝をつきそうになった――「ああ！」彼女は思わず声を上げた。礼治は大股で歩み寄って来て、それを見るとすぐに手を差し伸べ、彼女を支えた。こうして彼女は彼の腕の中に倒れ込んだ。力強い腕が彼女のしなやかで今にも折れそうなほどの細い腰を抱きしめた。その瞬間礼治は我を忘れた。彼女が腕の中にいると、不思議な安心感があった。しかし、すぐに我に返り、冷ややかに彼女を見ながら、「どうやらお前は、俺に抱きつくのが好きらしいな」と皮肉った。凪は顔を赤らめ、慌てて体を起こして、「ごめん、今のはただの不注意で……」と言った。「ただの不注意、か？」
出所したら、大富豪の夫に「三人目を産め」と迫られた 第95話
宗一郎もそれを見て後を追うようにして、部屋に入ると、ついでにドアを閉めた。小夜子は廊下に立ち、固く閉ざされたドアを見つめ、怒りで顔が歪んだものの、どうしようもなかった。礼治は布団をめくり、そっと小さな子供をベッドに寝かせた。宗一郎は彼の後ろに歩み寄り、笑顔で伊之助の寝顔を見ながら、「この子は……よく育ったな」と感慨深げに言った。凪には確かに沢山苦労をかけた。彼女は3年前に犯した過ちの代償を払い、彼女の父親も植物状態になって病院のベッドに横たわっている。過去の恨みは、彼らの世代で終わらせるべきだ。宗一郎は少し間を置き、諭すような口調で彼に言った。「小夜子もこんなに長くお前と一緒にいるのに、籍もまだ入ってないなんて……3年前は凪が小夜子を傷つけたとはいえ、それも彼女たちがお前を巡って争った結果だ。それを言うなら、お前も間接的に小夜子が不妊になった原因を作ったんだから、時間を見つけて、早く離婚届を出して、けじめをつけろ」礼治は何も言わず、ただ伊之助の眠っている顔を見ていた。突然、彼の携帯が鳴った。音は鳴っていなかったが、急に光ったので、薄暗い部屋の中でひときわ眩しかった。宗一郎は老眼鏡を押し上げ、画面に目を向けると、そこに一瞬表示された文字を見て、すぐに厳しい表情になった――「……凪からか？」彼は礼治の携帯画面に表示された文字を見た。【妻】その表示された文字は、まるで炎のように、祖父と孫の間に火をつけた。「礼治、正直に言え。お前はまだ凪のことが忘れられないのか？」宗一郎は厳しい表情で、礼治の考えを見抜くように彼を見つめていた。礼治の表情は変わらず、携帯の着信を一瞥すると、そのまま通話を切った。今はもう夜10時だ。凪はあの場所で2時間も待っていたのだから、きっと待ちくたびれているだろう。しかし、彼は焦る様子もなく、落ち着いて伊之助に布団をかけると、振り返って部屋を出て行った。宗一郎はずっと彼の後をつけていた。廊下にいた小夜子は物音を聞きつけ、慌てて脇に隠れた。彼女は自分が盗み聞きしていたところを見られたくなかったのだ。「さあ、話してくれるか？」宗一郎は冷ややかな目で彼を見た。「礼治、正直に言え。お前は凪に未練があるのか？」礼治は黙っていた。しばらくして、淡々とこう言った。
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