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第3話

Author: デナーリス
私ははたと立ち上がり、椅子を倒してしまう。周りの視線もこちらに集まる。

謝る余裕もなく、図書館を飛び出す。走りながら瑠璃に電話をかける。

「瑠璃さん、今日の午後って時間ある?お茶でもどうかな」

カフェで、一緒に健康診断に行ってほしいと言うと、瑠璃は思わず笑い出す。

「美枝、急にどうしたの。体調悪いの?」

その場で、できるだけそれらしい理由をでっちあげる。

「学校の健診なの。瑠璃さん、一人だとちょっと怖くて。付き合ってもらえない?」

瑠璃は少し怪しむように私を見る。

「ほんと?」

「ほんと。それに、瑠璃さんも一緒に受けておいたほうがいいと思って。いわば……ブライダルチェックみたいなもの?もうすぐ兄さんと結婚するし」

私はなるべく誠実そうに見える。

瑠璃の顔が赤らめて、小さく「もう……」とこぼす。

ちょっとそのとき、瑠璃のスマホが鳴る。相手は颯だ。

「今どこ?」

「美枝とお茶してるよ」

通話の向こうで、少しだけ沈黙が流れる。

「早めに帰ってきて」

通話を切ったあと、瑠璃はくすっと笑う。

「ほんと、甘えん坊なんだから」

私は口元だけで笑い、授業があると言ってその場を離れ、週末に会う約束をする。

校門まで来たところで、颯の車が停まっているのが目に入る。

颯は車から降りると、いきなり私の手首を掴み、壁の隅まで引きずる。

そして、何が起きたのか理解する前に突き放される。

足元がふらつき、地面に倒れ込む。

膝と肘に焼けるような痛みが走る。見下ろすと、皮膚が擦りむけて、血がにじんでいる。

颯は上から見下ろし、氷みたいに冷たい目を向けてくる。

「黒沢美枝、忠告しておく。瑠璃さんに近づくな。

余計なことも言うな。余計なこともするな」

「何もしてないよ」

私が腕で体を支えながら立ち上がり、声が少し震える。

「ただ、一緒に健康診断に行ってほしかっただけ」

颯は一瞬だけ動きを止める。

「病気なのか?」

ほとんど反射的に出た言葉だった。

私は言葉に詰まり、首を振る。

「違う。学校の決まりだから」

颯はじっと私を見つめて、表情がゆっくり変わっていく。

何かを思い出したような、あるいは確かめているような目だった。

しばらくして、颯はしゃがみ込み、私の膝の傷を見る。

「乗れ」

私を連れて薬局へ行き、消毒液とガーゼを買うと、道端でしゃがんで手当てを始める。

あまり優しくはない。でも、とても丁寧だ。

「週末、俺も行く。一緒に検査受けるぞ」

颯は低い声でそう言う。

私は足先を見つめたまま、視界がぼやける。

検査結果が出た日、瑠璃は震えながら泣いている。

骨肉腫、初期だった。

「かなり早期に発見されていますので、治癒率は高いです」

医者はそう言う。

颯はわずかに震えている手で瑠璃を抱きしめる。

瑠璃は目を赤くして私を見る。

「美枝、ありがとう……ほんとに」

私は首を横に振り、瑠璃の背中を軽く叩く。

颯の視線が、瑠璃の肩越しにこちらへ向く。

その瞳は、とても深く、重苦しいほどの圧を湛えている。

前世の思いを出す。

瑠璃が亡くなったあの日、大雨が降っていた。

あの夜のことを知って瑠璃が去ったと知った颯は、墓の前に一日中立ち尽くし、全身びしょ濡れになっていた。

帰宅後、手当たり次第に物を壊し、机の奥に隠していた私の日記も見つけた。

それで、すべて私のせいだと思い込んだ。

どれだけ説明しても、信じてもらえなかった。

何も持たずに離婚させられ、追い詰められ続け、仕事すら見つからなくなった。

最後は、狭いアパートで一人きり、病気で死んだ。

今なら、まだ間に合う。

瑠璃は生きる。

颯も、もう私を恨まない。

そして私は、ここから離れる。

胸のつかえが、ようやく取れる。

病院を出る頃には、夕日が沈みかけている。

颯は入院手続きをしていて、私と瑠璃はロビーで待つ。

「美枝、怖いよ」

瑠璃は私の肩にもたれ、小さな声で言う。

私は瑠璃の手を軽く叩く。

「大丈夫。兄さんがいるでしょ。ずっとそばにいるよ」

……

瑠璃は入院する。

手術は成功し、これからは抗がん剤治療に入る。

颯はすべての仕事を後回し、毎日病院に泊まり込む。

私は学校と病院を行き来しながら、留学の準備も進めて、目が回るほど忙しい。

その日、病院から帰る途中、颯に呼び止められる。
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