FAZER LOGIN一時限目が終わり、教師が教室を出ると、生徒たちは途端にガヤガヤと会話を始めた。苦しい空気から解放された生徒たちは、溜まった鬱憤を晴らすかのように会話に花を咲かせるのだ。
「あの、霧山さん。さっきのお話ですが、どういう意味ですか?」 大きく伸びをしていたキセキは、その姿勢のまま固まった。 「お話……? もしかして、さっき俺が言ったやつ?」 「そうです。"石"がどうとか言ってましたね。よくわからなかったので、教えていただけないかと」 カンナは無表情ながら、目だけはキラキラと輝かせてキセキに顔を近づける。キセキは身を反らせてできるだけ密着しないように顔を遠ざけた。 「そ、その話はまた今度にしてくれよ。ほら、次の授業の準備とかあるし……」 「次の授業? まだあと十分くらいあるじゃないですか?」 カンナは時計を見て首を傾げる。キセキは次の授業の教科書を広げて、カンナの方を全く見ずに呟いた。 「……予習だよ。授業、ついてけなかったら困るからな」 「なるほど。霧山さんって、とても真面目な方なんですね。私も見習いましょう」 カンナは席に座り、同じように教科書を取り出して授業の準備を始めた。 キセキは教科書に目を顔を埋め、大きなため息をついた。 その後、カンナは授業が終わるごとに、キセキに件の質問をしつこくした。キセキは昼食の時間だからとか、寝たふりをするとかして誤魔化してやり過ごしたが、放課後になる頃にはとうとうネタも尽きてきていた。 「霧山さん、そろそろ教えていただいてもいいのではありませんか?」 「……しつこいなあんたも。とにかく、深い意味はないから気にしないでくれ」 「それでは私の気が済まないのです。お願いします。教えてください」 「嫌だ。もう帰りの時間だろ? 俺、部活やってないから帰る。あんたもやる事ないなら帰りなよ。俺なんかに構わずにさ」 キセキはバッグを肩にかけると、教室を出ていった。 その背中を、カンナはすぐさま追いかける。 「待ってください。石ってどういう意味なんです? 言えない理由が何かあるのですか? それだけでも教えてください!」 「なんてしつこいんだ……。勘弁してくれって!」 キセキはカンナの追跡をひたすら逃げ続けた。 逃げ続けるうちに、元々体育会系ではなかったキセキは疲労の色が見え始め、最終的に男子トイレの個室に駆け込んでいた。 (ここなら安心だろ……。流石のあいつも、男子トイレにまで入ってくることなんてあるわけない……よな?) キセキの思惑通り、カンナは男子トイレ付近でキセキを見失い、立ち止まってキョロキョロしていた。 このまま諦めてくれ。そう願ったキセキだが、カンナは一筋縄では行かなかったらしい。 「霧山さーん。近くにいらっしゃいますよね? どこですか? 霧山さん。霧山キセキさーん!」 自分の名前をトイレ前で大声で連呼されるや否や、キセキは個室を飛び出した。 「……病院かここは?」 「いえ、学校です。それより、お手洗いにいらっしゃったのですね。それならそうと言ってくだされば……」 「はぁ、……教えてやるから、ちょっと付き合えよ」 カンナの言葉を強引に遮り、キセキは先に歩き始めた。一時限目が終わり、教師が教室を出ると、生徒たちは途端にガヤガヤと会話を始めた。苦しい空気から解放された生徒たちは、溜まった鬱憤を晴らすかのように会話に花を咲かせるのだ。「あの、霧山さん。さっきのお話ですが、どういう意味ですか?」 大きく伸びをしていたキセキは、その姿勢のまま固まった。「お話……? もしかして、さっき俺が言ったやつ?」「そうです。"石"がどうとか言ってましたね。よくわからなかったので、教えていただけないかと」 カンナは無表情ながら、目だけはキラキラと輝かせてキセキに顔を近づける。キセキは身を反らせてできるだけ密着しないように顔を遠ざけた。「そ、その話はまた今度にしてくれよ。ほら、次の授業の準備とかあるし……」「次の授業? まだあと十分くらいあるじゃないですか?」 カンナは時計を見て首を傾げる。キセキは次の授業の教科書を広げて、カンナの方を全く見ずに呟いた。「……予習だよ。授業、ついてけなかったら困るからな」「なるほど。霧山さんって、とても真面目な方なんですね。私も見習いましょう」 カンナは席に座り、同じように教科書を取り出して授業の準備を始めた。 キセキは教科書に目を顔を埋め、大きなため息をついた。 その後、カンナは授業が終わるごとに、キセキに件の質問をしつこくした。キセキは昼食の時間だからとか、寝たふりをするとかして誤魔化してやり過ごしたが、放課後になる頃にはとうとうネタも尽きてきていた。「霧山さん、そろそろ教えていただいてもいいのではありませんか?」「……しつこいなあんたも。とにかく、深い意味はないから気にしないでくれ」「それでは私の気が済まないのです。お願いします。教えてください」「嫌だ。もう帰りの時間だろ? 俺、部活やってないから帰る。あんたもやる事ないなら帰りなよ。俺なんかに構わずにさ」 キセキはバッグを肩にかけると、教室を出ていった。 その背中を、カンナはすぐさま追いかける。「待ってください。石ってどういう意味なんです? 言えない理由が何かあるのですか? それだけでも教えてください!」「なんてしつこいんだ……。勘弁してくれって!」 キセキはカンナの追跡をひたすら逃げ続けた。 逃げ続けるうちに、元々体育会系ではなかったキセキは疲労の色が見え始め、最終的に男子トイレの個室に駆け込んでいた。(こ
無事に編入を済ませた神崎カンナ。彼女の周りには、自然に同クラスの生徒たちの群がりが出来ていた。「神崎さん、よろしく〜。仲良くしよ〜!」「彼氏いる? ゼッタイいるよね。こんなに美人なんだもん」「ハーフ? オレンジ色の髪なんて、初めて見た〜」 カンナを質問攻めにする生徒たち。編入生が必ず通る洗礼のようなものだ。 当の本人は、慣れない環境に戸惑っていた。(皆さん、なぜ私の周りに集まるのでしょう? これが編入生のしきたりのようなものなのでしょうか。それに、仰っていることが良く分かりません……) そんな中、一人の女子生徒の質問が飛ぶ。「ところで、どっから来たの? どこ中?」(ドコチュウ……とは? どういう意味なんでしょう。〇〇中というのは、何かの中毒のこと……?)「あ、あのっ」 カンナは賑わいを遮り、声を上げた。編入生の言葉を聞き逃すまいと、生徒たちは静まりかえる。「私たち、未成年ですよね。でしたら、そのようなお話は控えるべきだと思いますが」 カンナが話し終えても、すぐには賑わいは戻らなかった。誰もが、彼女の言葉の意味を理解するのに頭をフル回転させなければならなかったのだ。「……あ、ああそうだよね。あたしたち未成年、高校生だもんね。もしかして、マジメ系かな、神崎さん?」 周りの生徒たちも、笑いながらうんうんと頷いていたが、誰ひとりカンナの言葉を理解はしていなかったと思われる。「おーい、席につけ。授業始めるぞ」 その直後、国語の男教師が入室してきたため、質問タイムは終わりを告げた。「はぁ、やっと終わったか」 起立、礼、着席の号令の後、カンナの隣の霧山キセキはため息混じりに呟いた。「終わった? 授業はこれから始まるのでは?」 カンナは不思議な顔でキセキに尋ねた。キセキは面倒臭そうに質問に答える。「そうじゃなくて、あんたの周りでワイワイ騒いでたのが終わったって言ったの。正直、嫌だったんだ」「まあ、そうでしたか。でも、休み時間に会話をしてはいけないなんて校則はありませんし、悪いことではないですよね?」「そういう問題……? 俺が嫌だって言ったのは……」「おい、授業始まってんだぞ。新学期始まったばかりだからって甘く考えないように」 厳つい顔の教師に睨まれ、自身の声のボリュームを気にしていなかったキセキははっと気づき、口をつぐんだ。
「おかえりなさい。いかがでしたか?」 少年が去った後、カンナはYのいる部屋へと戻り、結果を報告した。 「それが、お声をかけましたが、逃げられてしまいました」 「逃げられた?」 「はい。言われた通りにしたと思うのですが」 カンナはYに、事の顛末を話した。 「……なるほど。それでは彼が困惑したのも納得です。私が言った接触とは、『この近くに引っ越してきました』というような挨拶程度の話をしろという意味です。体に直接触れろということではないのですよ」 「そうだったのですか」 Yは、少し呆れ気味に説明した。カンナはどこか他人事のような返事をする。 「それに、接触と接近を間違えるとは。あなたはどこか早とちりや聞き間違い、勘違いが多いようですね。……わかってはいましたが」 「そう……なんでしょうか」 「まぁいいです。それで、あなたが出会った人はどういう方でしたか?」 「背丈は私とそう変わりませんでした。なので同年代かと。髪は癖毛で、黒髪でした」 「それはこんな人ですか?」 画面には、まさしくあの少年が映し出されていた。癖毛の髪型もやや冴えない顔も、そっくりそのままだった。 「この方です。間違いありません。……でも、なぜあなたがこの画像を?」 「詮索は無用。首尾は上々です。感謝しますよ、カンナ」 Yはそれ以上の質問はさせまい、といった調子で言い切った。カンナは黙ってしまった。 「それでは次の段階へと移ります。もうすぐ届け物が来ますので、それからお伝えします」 ピンポーン。 その言葉通り、再びチャイムが鳴った。 数日後。花暁町の私立高校『花暁第一高等学校』、通称花暁一高にて、新学期の始業式が執り行われた。 同校二年三組。そこに、カンナが『接触』して逃亡した少年がいた。黒板を正面に、一番右側の最後尾の席で、誰とも話すことなくボーッとしている。彼の隣は空席だった。 その時、ガラリと戸が開き、担任の教師が入ってきた。黒髪ロングヘアーでサバサバした雰囲気の女教師だった。 「えー、ご機嫌よう皆さん。今日からこのクラスの担任を務めさせていただく大山です。よろしく」 大山は全員の前で挨拶した。パラパラと拍手が起こった。 「新学期早々だが、三組に新しい仲間が入ることになっている。仲良くしてやってくれ。今呼んで来るからな」
それから数分後、渡された私服に着替えたカンナは、部屋の外へと出た。 (あのYという声の指示に従ってしまいましたが、本当に大丈夫でしょうか? 私の助けになるという言葉は信用できるかもしれませんが) 歩く間も、彼女の疑念や想像は止まらなかった。 (しかし、次の指示は一体何なのでしょう。"この町に住む、私と同年代くらいの少年に接触しろ"と言っていましたっけ?) 当てもなく、町中を彷徨うカンナ。すれ違う人々の中には、まだ条件に合う男はいない。 (それにしても接触、とはどうすればいいのでしょうか? ただ声をかければいいのか、後をつけて、自宅を特定すればいいのか……いえ、それはいけませんね) あれこれ考え、ふと視線を上げたカンナの前には、一人の少年が歩いていた。 少年の背丈はカンナとほぼ同じ。カンナは意を決して、少年の目の前に躍り出た。 「あの、少しよろしいでしょうか?」 「……はい、何か?」 突然現れた少女から、間違いなく自分に向けて言われた少年は面食らった。 (どうしましょう、何と言えばいいか全く考えていませんでした。謎の声に導かれて、あなたに接触することになりました。などと言っても理解されるはずはありませんし……) 声をかけてから、カンナは考えこんでしまっていた。 ずっと黙ったままの彼女を不審に思ったのか、少年は逆に声をかけた。 「あのー、大丈夫?」 「はい、私は問題ありません」 「それならいいけど。俺、用事あるから。失礼」 少年は踵を返して、来た道を引き返そうとした。 「待ってください」 チャンスを逃すまいと、カンナは再び少年の前へと立ち塞がる。 「何? 変な宗教の勧誘なら、お断りなんだけど……」 カンナは咄嗟に考えた答えを口にした。 「あなたと、お近づきになりたいのです」 少年は一瞬固まり、我に返った時にはまごついていた。 「あの、それはどういう、意味……?」 「ですからあなたとお近づきに」 「へっ?」 カンナは一歩踏み出す。少年は思わず、半歩下がった。 「なりたいの」 「ちょっ」 カンナはまた一歩踏み出す。少年は動揺して、今度は動けなかった。 「です」 少年との距離、約10センチの所で、カンナは足を止めた。視線はお互いの瞳を見つめている。 涼しい顔をしたカンナと対象的に
「あくまで素性は明かさないということですか。それで、そのYさんが私に何のご用なのでしょうか?」 「はい。それでは本題に入らせていただきます。単刀直入に申しますと、あなたにはこれから、私の指示に従っていただくことになります」 Yははっきりと伝えた。カンナの意思の有無を言わせずに。 「ずいぶんと強制的なご要件ですね。もし、私が拒否した場合は?」 「それはできないはずです。なぜなら、私の協力がなければ、あなたは生活できないのですから」 カンナはそこで、周囲を見渡した。何も変わった所がない部屋ではあるが、人がいなかった。 「ひとつ、いえ二つお尋ねしてもいいですか?」 「どうぞ」 「ここはどこなのですか? それに、私以外に誰かいないのですか?」 「この場所についてお答えします。ここは『花暁町』。都市開発が進み、近年目覚ましい発展を遂げています。メディアにも取り上げられることの多い町なんですよ」 「はぁ……」 カンナは気の抜けた返事をした。自分が聞きたかったことはそこではない、と言いたかったのである。 「それから、この部屋に住む人間ですが、あなた一人です」 「そうでしたか。私にも家族がいると思いましたが、その様子では、少なくとも今はお会いできないのですね」 カンナは絶望したかのように、仰向けに寝転んだ。彼女の目には、真っ暗な天井が映る。 「あまり悲観的になりませんように。私はあなたの敵ではありません。むしろ助けになるために、今こうして話しているのですから」 「助けに? 姿も見せない人がですか?」 「ええ。これからその証拠をお見せしましょう。もうすぐ、来るはずですから」 「来るとは、一体何が……」 ピンポーン。 カンナは言葉を切った。玄関からチャイムが鳴り響いたのだ。 「来たようですね。出てください」 何がなんだか理解できぬまま、カンナは立ち上がって玄関へと向かう。久しぶりに立ったかのように、足はガタガタと震えており、ゆっくりとした足取りで歩いた。 扉を開けると、一人の配達員が外に立っていた。 「こんにちは。神崎カンナ様ですね?」 「はい。そうですが」 「こちら、あなた宛のお荷物です。判子かサインをお願いいたします」 「はい……」 カンナは言われるがままサインを書き、小さめのダンボール箱を受け取った。
時は2012年4月。日本某所にて、一人の少女が目を覚ます。 そこは何処かの室内であり、真っ暗な暗闇の中に、一台のノートPCが置かれた場所だった。 奇妙なことといえば、そこにいるのは少女独りであることと、PCからの声が絶えず聞こえているということだ。 「……聞こえていますか? 目覚めてください……」 声を聞き、少女はゆっくりと目を開けた。 少女の瞳は深いブルーで、髪はロングのオレンジ色をしており、服装はパジャマ姿だった。 「目覚めましたね。気分はいかがですか?」 「…………」 声の問いかけにも、少女は答えない。突然、知らない声に話しかけられれば、警戒したり戸惑ったりするのは当然のことではある。 「そう、その反応は予測していました。おそらくは、警戒していることでしょう。しかし私はあなたの敵ではありません。それだけは理解してください。"神崎《かんざき》カンナ"」 その名前に、少女は視線をPCへと移す。 神崎カンナ。それが少女の名前だった。 「それは、私の名前ですね?」 「そうです。良かった、その記憶は持っていましたね」 声の主は安堵した様子だった。 「なぜ私の名前を知っているのですか? それにその記憶、というのは……」 「そのままの意味ですよ。思い返してみてください」 カンナは自らの記憶を探った。しかし、自分の名前以外の記憶はどうしても浮かんでこない。 「……ダメです。思い出せません、何も」 「そうでしょう。しかし、私はあなたの情報を全て存じ上げているのです」 声の主は、どこか得意げな調子で言った。 「全て、ですか?」 「全て、です。神崎カンナ、16歳。血液型O型、等々……」 「人にはプライバシーというものがあり、すべからく保護されるものだと思うのですが。……まさか私は、実は人間ではないとでも……!?」 「そのような事実はありません。安心なさい」 カンナは一人で考え込み、声はぴしゃりと否定する。 「それならば安心です。しかし……。あなたは何者なんですか? 顔も姿も見せずに」 声は加工がかかっており、聞いただけでは男か女かもわからなかった。 「私のことに関しては詮索は無用です。仮に呼び名をつけるとすれば、そうですね…………」 声はしばらく途切れた。通信が切れた







