「あくまで素性は明かさないということですか。それで、そのYさんが私に何のご用なのでしょうか?」 「はい。それでは本題に入らせていただきます。単刀直入に申しますと、あなたにはこれから、私の指示に従っていただくことになります」 Yははっきりと伝えた。カンナの意思の有無を言わせずに。 「ずいぶんと強制的なご要件ですね。もし、私が拒否した場合は?」 「それはできないはずです。なぜなら、私の協力がなければ、あなたは生活できないのですから」 カンナはそこで、周囲を見渡した。何も変わった所がない部屋ではあるが、人がいなかった。 「ひとつ、いえ二つお尋ねしてもいいですか?」 「どうぞ」 「ここはどこなのですか? それに、私以外に誰かいないのですか?」 「この場所についてお答えします。ここは『花暁町』。都市開発が進み、近年目覚ましい発展を遂げています。メディアにも取り上げられることの多い町なんですよ」 「はぁ……」 カンナは気の抜けた返事をした。自分が聞きたかったことはそこではない、と言いたかったのである。 「それから、この部屋に住む人間ですが、あなた一人です」 「そうでしたか。私にも家族がいると思いましたが、その様子では、少なくとも今はお会いできないのですね」 カンナは絶望したかのように、仰向けに寝転んだ。彼女の目には、真っ暗な天井が映る。 「あまり悲観的になりませんように。私はあなたの敵ではありません。むしろ助けになるために、今こうして話しているのですから」 「助けに? 姿も見せない人がですか?」 「ええ。これからその証拠をお見せしましょう。もうすぐ、来るはずですから」 「来るとは、一体何が……」 ピンポーン。 カンナは言葉を切った。玄関からチャイムが鳴り響いたのだ。 「来たようですね。出てください」 何がなんだか理解できぬまま、カンナは立ち上がって玄関へと向かう。久しぶりに立ったかのように、足はガタガタと震えており、ゆっくりとした足取りで歩いた。 扉を開けると、一人の配達員が外に立っていた。 「こんにちは。神崎カンナ様ですね?」 「はい。そうですが」 「こちら、あなた宛のお荷物です。判子かサインをお願いいたします」 「はい……」 カンナは言われるがままサインを書き、小さめのダンボール箱を受け取った。
Last Updated : 2026-04-19 Read more