تسجيل الدخول「おかえりなさい。いかがでしたか?」
少年が去った後、カンナはYのいる部屋へと戻り、結果を報告した。 「それが、お声をかけましたが、逃げられてしまいました」 「逃げられた?」 「はい。言われた通りにしたと思うのですが」 カンナはYに、事の顛末を話した。 「……なるほど。それでは彼が困惑したのも納得です。私が言った接触とは、『この近くに引っ越してきました』というような挨拶程度の話をしろという意味です。体に直接触れろということではないのですよ」 「そうだったのですか」 Yは、少し呆れ気味に説明した。カンナはどこか他人事のような返事をする。 「それに、接触と接近を間違えるとは。あなたはどこか早とちりや聞き間違い、勘違いが多いようですね。……わかってはいましたが」 「そう……なんでしょうか」 「まぁいいです。それで、あなたが出会った人はどういう方でしたか?」 「背丈は私とそう変わりませんでした。なので同年代かと。髪は癖毛で、黒髪でした」 「それはこんな人ですか?」 画面には、まさしくあの少年が映し出されていた。癖毛の髪型もやや冴えない顔も、そっくりそのままだった。 「この方です。間違いありません。……でも、なぜあなたがこの画像を?」 「詮索は無用。首尾は上々です。感謝しますよ、カンナ」 Yはそれ以上の質問はさせまい、といった調子で言い切った。カンナは黙ってしまった。 「それでは次の段階へと移ります。もうすぐ届け物が来ますので、それからお伝えします」 ピンポーン。 その言葉通り、再びチャイムが鳴った。 数日後。花暁町の私立高校『花暁第一高等学校』、通称花暁一高にて、新学期の始業式が執り行われた。 同校二年三組。そこに、カンナが『接触』して逃亡した少年がいた。黒板を正面に、一番右側の最後尾の席で、誰とも話すことなくボーッとしている。彼の隣は空席だった。 その時、ガラリと戸が開き、担任の教師が入ってきた。黒髪ロングヘアーでサバサバした雰囲気の女教師だった。 「えー、ご機嫌よう皆さん。今日からこのクラスの担任を務めさせていただく大山です。よろしく」 大山は全員の前で挨拶した。パラパラと拍手が起こった。 「新学期早々だが、三組に新しい仲間が入ることになっている。仲良くしてやってくれ。今呼んで来るからな」 大山は廊下に出た。途端に、教室内がざわつき始める。 「ねぇねぇ、編入生ってことだよね!? どんな人だろう……」 「イケメンがいいな〜。可愛い女子でも良し」 「期待しすぎない方がいいな。ぶっさいの来るかもしんねーぞ」 「それな。そんな漫画みてーな展開、あるわけねぇっての」 ガヤガヤとする中でも、かの少年は静かに頬杖をついている。 そして、もう一度戸が開く。 大山に連れられた編入生は、オレンジ色の髪に深いブルーの瞳をしていた。 紛れもなく、神崎カンナである。 (あ、あいつ……!) 少年は声を出すのをなんとか堪え、心の中で呟いた。 「編入生の神崎カンナさんだ。詳しくは本人から。できるかな?」 「はい。神崎カンナと言います。よろしくお願いします」 教室内が、またざわつき始める。カンナの容姿が整っていたことや、清楚な雰囲気に男子のみならず女子までもが魅了されつつあった。 室内を見渡すカンナと、少年の視線が再び合った。その瞬間、互いに昨日の記憶が蘇った。 「よし、それじゃあ席は……」 「あの、あの方の隣がいいです」 カンナは少年の隣の空席を指さす。 「ん? ああ、そうだな。そのつもりでいたからな。じゃ、席についてくれるか」 「はい、わかりました」 カンナはつかつかと少年の隣まで歩き、静かに座った。その間も、クラス内の視線はカンナに注がれ、ざわつきは収まらなかった。 「……わざわざご指名とはどういうつもり?」 少年はカンナに小声で尋ねる。 「しめい? 私の氏名は神崎カンナです。昨日も、お話しましたよね?」 カンナはきょとんとした表情で尋ね返した。 「いやその氏名じゃなく……」 「おーい。ホームルーム始めるんだから、静かにしろー」 大山の一声で、教室内は静まり返った。 「とにかく、お近づきになれましたね。これからよろしくお願いします、お隣さん」 「……キセキ」 「え?」 「俺の名前。霧山《きりやま》キセキ。よろしく」 霧山キセキはぶっきらぼうに言うと、カンナから目を逸した。 「ええ。よろしくお願いしますね、霧山キセキさん」 キセキは目を逸したままだった。 黒板に何かを書く大山を見ながら、カンナは脳内で思考を駆け巡らせていた。 (高校に編入学しろと言われた時には不安でしたが、良い人ばかりで安心しました。霧山さんは目を合わせてくれませんが、おそらく照れ屋さんなのでしょう。きっといいお友達になれる気がします。これから楽しみですね) 勘違い少女の、学校生活が始まろうとしていた。学校を出て、高校生の放課後を体験したいと意気込むカンナと、遊びを提案したコン、そして二人を心配してついてきたキセキの三人は、町の中心へと向けて歩いていた。 三人の暮らす花暁町は比較的自然が豊かではあったが、近年になってファストフード店やレストラン、カラオケボックスやゲームセンターなどが建ち並び、その一方で昔ながらの電器屋や八百屋、喫茶店なども点在し、老若男女が楽しめる町となりつつあった。「で、まずはどこ行こっか?」 コンは人々が賑わってきた頃に振り返り、二人に尋ねた。大した計画がなかったのは明白だ。「何も考えてなかったのかよ」「しょうがないでしょ〜。だって、神崎さんココ来るの初めてだろうし。どこ行きたいかわかんないもん」 呆れぎみに突っ込むキセキに、腰に手を当てたポーズで反論するコン。またしても二人の会話に置いていかれそうになったカンナは、今度は口を挟もうとした。「私は、どちらでも構いません。小早川さんとキセキさんにお任せします」「う~ん、それだと逆に困るかなぁ」「ま、こういう時はファミレスが無難じゃね? ゆっくり話もできるしな」「そだね。キセキ、たまにはいいことゆうじゃん」「たまには、は余計だ。んじゃ、行くぞ」 三人は足並みを揃えてファミレスへと向かう。 時間は夕方のためか、店内は空いていた。サラリーマン風の男性や別の高校と思しき学生がちらほらいるくらいである。 三人はテーブル席にしてカンナの隣にコンが座り、向かい側にキセキが座った。そしてそれぞれ注文し、ドリンクバーも三人分頼んだ。「ん〜、授業終わりの一杯サイコー。神崎さんも遠慮しないで飲みなよ。元取んなきゃ」 注がれたオレンジジュースをイッキ飲みし、至福のひと時を楽しむコン。そんな彼女を、キセキは冷めた目で見ていた。「オヤジかお前は。つーかちゃんと授業聴いてたのかよ。またノート見せてって泣きついてくるのは御免だからな」「だーいじょうぶだよぉ。まだ始まったばっかだし。今年は厄介にならないから。ね?」 コンは小首を傾げてストローをくわえた。もうほとんどグラスにはジュースは入っていない。「中学の時にもそんなこと言ってたよな。いい加減俺はうんざりだっての。だいたい、昔からコンは……」「あっ、もう飲み物なくなっちゃった。ちょっと取ってくる! ついでにトイレも!」 コンはキセ
「嵐のような奴だったろ? ああいう奴なんだ。昔から」 ため息をつきながらキセキは着席し、疲れた様子でそう漏らした。「仲がよろしいんですね。楽しそうにお話してらっしゃいましたし」「そう思うか? あいつとは付き合い長いからよくわかんね」 始業開始のチャイムが鳴り、生徒たちは続々と着席していく。「そういえば、小早川さんとは初めてお会いした気がします。一昨日と昨日と学校はありましたが、いらっしゃいましたか?」 カンナはふと思い出して、キセキに尋ねた。「ああ、それはな……」 キセキは答えようとしたが、ちょうど担任が入ってきたため、口を閉じた。 それから午前の授業、昼休み、午後の授業をこなし、あっという間に下校の時間が訪れる。帰宅部であるキセキとカンナは帰り支度をし、教室を出ようとした。「ちょっと待って、二人とも」 二人を呼び止める声がした。小早川コンである。彼女も帰り支度をしていた。「どうした? お前も一緒に帰んのか?」「半分正解。だけど、帰る前にちょっと遊んでこーよ、ね?」 コンはカンナに向き直ると、彼女にも尋ねた。「神崎さんもどう? 予定あるなら無理させないけど」「行きたいです。高校生の放課後というものを体験してみたいですし」 これまでは、学校が終わったらほとんど直帰だったカンナは、寄り道などしたことが(記憶の中では)なかった。高校生の遊びというものには興味があったのである。「あは、何それ変わってるね。いいよ、一緒に行こ。キセキは?」「仕方ない。俺も行くよ。なんか、二人だけにすると心配だからな」「何よ心配って。まぁいいや。それじゃ、しゅっぱーつ」 カンナ、キセキ、コンの三人は、揃って学校を後にした。
神崎カンナはこの日も朝早く起床し、身支度を整え、家を出る前にPCの前に座るとYに声をかけた。「おはようございます。学校、行ってきますね」 カンナの明るい声に、Yは反応する。「おはようございます。今日も元気ですね。何か、学校で嫌なことはありませんでしたか?」「いえ、何も。楽しくて面白いことばかりで飽きません」 カンナはピュアな返事をする。学校での出来事を知らないはずのYは、彼女の言葉を信じているようだった。「それなら問題ありません。では気を付けて行ってください」「はい、行って参ります」 カンナは鞄を掴み、Yを残して外へと出た。 教室へ到着したカンナは、その日はそこで初めてキセキと遭遇した。前日は登校中に出会い、一緒に校舎に入っていた。「よっ、神崎」「おはようございます、キセキさん。今日は通学路でお見かけしませんでしたね」「ああ、今日は当番の仕事があったからな。お先に行かせてもらった」「そうだったのですか。ご自身のお仕事を全うされて、偉いですね」 カンナは席に着きながら、母親か何かのようにキセキを労った。「そこまで言われることか……? そんなもん、誰だってやってるし……」 と、その時。キセキの背後から棒状の物が振り下ろされた。キセキの脳天に命中し、パコンという乾いた音を響かせたそれは、丸めたノートだった。「あだっ」「え、何ですか?」 困惑する二人をよそに、ノートの持ち主は無邪気な笑い声をあげていた。「なははは、隙ありぃキセキ!」 声の主は明るい茶髪をツインテールにした女子学生だった。丸めたノートはさながら侍のように両手で持って構えている。「しまった、油断してたか」「本当だよ。隙だらけだったもん。まさか、編入生さんに夢中だったとか?」「そんなわけねぇだろ。ただ、ちょっと話してただけで……」「怪しいぞ〜。これはもしかすると、もしかするかも?」「何想像してんだ。俺はな……」 カンナをそっちのけに、会話を続ける二人。彼女だけはますます困惑するのだった。「あの、お二人とも……」 おずおずと声をかけたカンナ。女子学生は思い出したようにカンナの方を向いた。「あ、ゴメンね。置いてけぼりにしちゃって。自己紹介まだだったよね。あたし、小早川コン。同じクラスだよね。よろしくねんっ」 小早川コンは手で狐の顔を作り、自分の顔の横に
「……ぶっ、あははっ! もしかして、校長が本当に生徒を倒してるって、そう思ってたの?」「だって、クラスのお二人がそう言ってましたし、あなたも否定しませんでしたし」「それはものの例えだよ。朝礼では立ちっぱなしで校長の長い話ずっと聞いてるから、倒れる人出てくるってこと。校長が間接的にそうしてるって話だよ」 カンナはただ黙って聞いていた。頭の中で、キセキの説明を反芻しているようだ。「つまりは、校長先生は本当に生徒たちを倒しているわけではないと?」「そういうこと。仮にそうだったとして実際、どういう風に生徒を倒すんだ?」「それは何か、超能力のようなものを使ってかと」 既に二人きりになった教室で、キセキの笑い声が響いた。 カンナはふてくされた表情でキセキを睨んでいた。「そんなに笑わないでください。知らなかったんですから」「悪い悪い。……ああ、久しぶりにすげぇ笑った」 笑いすぎての涙を拭うキセキ。カンナは先刻までの怒りが収まったのか、急に態度を変えて言った。「キセキさん、先ほどはすみません。嘘つきなどと言ってしまい」「いいよ別に。ただの勘違いだったんだろ?」「怒ってませんか?」「ないよ」 それを聞いたカンナは、やっと表情が柔らかくなった。「良かった。やっぱり校長先生の仰ったことは本当だったのですね。皆さん良い人です」「何だよそれ。それを言うなら、神崎もじゃないか?」「どういうことですか?」「人に謝れるのって、当たり前だけど良いやつのできることなんだぞ」 その後は二人揃って学校を出て、帰路についた。 足取り軽いカンナの手には、みかんジュースがしっかりと握られていた。
しかしカンナは、どうしても確かめたいことがあったため、その背中に向かって声をあげた。「あ、あのっ」「はい、何か?」 ゆっくりと校長は振り向いた。カンナは息を整え、口を開く。「校長先生は、とても良い人なんですね」 一瞬、きょとんとした表情を浮かべた校長だったが、すぐににこやかな笑顔を浮かべて答えた。「ははは、ありがとうございます。それほどでもありませんよ。おや……」 校長はカンナの姿を改めて見ると、何か思い出したかのように続けた。「あなたはもしかして、編入生の方ではありませんか?」「はい。神崎カンナと申します」「そうです、神崎さんでしたね。橙色をした髪の毛の方が我が校にいらっしゃると聞いていたものですから、ふと思い出したのです。まだ始まったばかりですが、学校生活はいかがですか?」 校長はにこやかな笑みを絶やさずに尋ねる。「とても楽しいです」「それは良かった。生徒も先生も皆さん良い人ですから。困ったことがありましたら、なんでも仰ってくださいね。それでは……」 校長は踵を返し、再び去ろうとする。 だがカンナはもう一度、その背中に呼びかけた。「あの、もう一つよろしいですか?」「はい、どうぞ」「先生は、なぜ私のことをご存じなのですか?」「こう見えて、記憶力は良い方でしてね。生徒のことはある程度把握しておきませんと。それが生徒たちを預かる者としての責務だと思っていますよ」 そう言い残し、校長は今度こそカンナの元から去っていった。 校長との会話を終えたカンナは教室へと戻った。隣にはキセキがいたが、彼には目もくれず、カンナは残り少ない時間で昼食を食べ始めた。「神崎、次の教室は移動になったから」 昼休みに通知された情報を共有したキセキ。だが、カンナは返事をしない。「あの、神崎……さん?」 やはり返事をしないカンナ。黙々と昼食を食べている。キセキはわけがわからなかったが、伝えたいことは伝わったと思い、それ以降は口をつぐんでいた。 その後、放課後までカンナはキセキと口をきかなかった。休み時間にも、彼女は窓の方を向いて目を合わせようともしない。 キセキはしびれを切らし、思い切って話しかけた。「あのさ……。俺が何か気に障るようなことしたなら謝る。とりあえず話してくれない?」 続々と生徒がいなくなる教室で、カンナは未だに返事をしない。
「さて、先日は言い忘れていたが、今日はこの後朝礼があり、校長先生からの新学期の挨拶がある。全員、速やかに体育館へ向かうように」 大山は話題を変えるように切り出し、生徒たちは言葉に従って席を立ち始めた。「なぁ、今日は何人倒れると思う?」 体育館へ向かう途中の廊下で、クラスの男子生徒一人が別の男子生徒にそう尋ねた。「そうなぁ。多くて三人くらいじゃね?」 聞かれた男子はそう答える。「そんぐらいいくかね。マジで校長って学生キラーだよな」「それな。毎回何人倒れさせるんだってな」 男子生徒二人は会話に花咲かせ、笑い合った。 そのやり取りを近くで聞いていたカンナ。彼女の脳内では疑問が次々に沸いてくる。「キセキさん。お尋ねしてよろしいですか?」 足と口を同時に動かしながら、カンナはキセキに声をかけた。「何?」「校長先生は、朝礼で人を倒すのですか?」「あー、そうとも言えるかもな。けっこうな確率で倒れるからな、朝礼で」 キセキは一瞬ポカンとしたが、すぐにそう答えた。 そしてカンナは再び、考えにふけるのだった。(校長先生の挨拶で、よく人が倒れるのですか。これも恒例行事ということなのでしょうか?) あまり考える余裕なく、カンナたちは体育館へ到着した。 朝礼は予定時間は十数分ほどだったが、生徒たちはほとんど立ちっぱなしだった。体力に自信がない生徒にとっては、苦痛の時間だったと思われる。「……では、校長先生のご挨拶です。よろしくお願いします」 進行の言葉で校長は登壇し、ゆっくりと挨拶を始めた。初老の男性の校長であった。「えー、皆さんおはようございます。朝早くお集まりいただき、ありがとうございます。本日お話したいことは……」 その時、カンナの背後の方でドサっという鈍い音が響いた。小さな悲鳴のような声や、ざわめく声が辺りに広がっていく。「すみませーん、九頭竜《くずりゅう》さんが倒れました」倒れた生徒の周りから声が響いた。カンナのクラスの生徒だったためか、大山ともう一人の先生が小走りで駆け寄り、倒れた生徒を二人がかりで担いで体育館から運んでいってしまった。「えー、それでは皆さん改めて……」 騒動が収まった頃、校長は再び挨拶が始めるが、生徒の一件があったこともあってか、話は手短に終わった。「やっぱ倒れたな。うちのクラスの奴か?」「みてーだな。
数刻後、二人は学校の屋上へと来ていた。転落防止のフェンスが張り巡らされ、下からの放課後の賑やかな声が隙間から入り込んでいた。「屋上って、生徒でも勝手に入れるものなのですね。私、知りませんでした」 カンナは段差に腰掛け、辺りを見渡しながらさらりと言った。キセキは咳払いをひとつしてから、彼女の元へと歩み寄る。「……そゆこと言うなって。ほら、これおごるから」「なんです?」 キセキが手渡したのは、自動販売機で買ったみかんジュース(果肉入り)だった。 カンナは物珍しそうにそれを受け取ると、開栓して唇を缶へと運ぶ。「……! 美味しいですね、これ」「ただのジュースだけど。飲んだの初めて?
一時限目が終わり、教師が教室を出ると、生徒たちは途端にガヤガヤと会話を始めた。苦しい空気から解放された生徒たちは、溜まった鬱憤を晴らすかのように会話に花を咲かせるのだ。「あの、霧山さん。さっきのお話ですが、どういう意味ですか?」 大きく伸びをしていたキセキは、その姿勢のまま固まった。「お話……? もしかして、さっき俺が言ったやつ?」「そうです。"石"がどうとか言ってましたね。よくわからなかったので、教えていただけないかと」 カンナは無表情ながら、目だけはキラキラと輝かせてキセキに顔を近づける。キセキは身を反らせてできるだけ密着しないように顔を遠ざけた。「そ、その話はまた今度にし
無事に編入を済ませた神崎カンナ。彼女の周りには、自然に同クラスの生徒たちの群がりが出来ていた。「神崎さん、よろしく〜。仲良くしよ〜!」「彼氏いる? ゼッタイいるよね。こんなに美人なんだもん」「ハーフ? オレンジ色の髪なんて、初めて見た〜」 カンナを質問攻めにする生徒たち。編入生が必ず通る洗礼のようなものだ。 当の本人は、慣れない環境に戸惑っていた。(皆さん、なぜ私の周りに集まるのでしょう? これが編入生のしきたりのようなものなのでしょうか。それに、仰っていることが良く分かりません……) そんな中、一人の女子生徒の質問が飛ぶ。「ところで、どっから来たの? どこ中?」(ドコ
それから数分後、渡された私服に着替えたカンナは、部屋の外へと出た。 (あのYという声の指示に従ってしまいましたが、本当に大丈夫でしょうか? 私の助けになるという言葉は信用できるかもしれませんが) 歩く間も、彼女の疑念や想像は止まらなかった。 (しかし、次の指示は一体何なのでしょう。"この町に住む、私と同年代くらいの少年に接触しろ"と言っていましたっけ?) 当てもなく、町中を彷徨うカンナ。すれ違う人々の中には、まだ条件に合う男はいない。 (それにしても接触、とはどうすればいいのでしょうか? ただ声をかければいいのか、後をつけて、自宅を特定すればいいのか……いえ、それはいけませんね







