Masuk結婚式当日、新郎である周防謹一(すおう きんいち)は、幼馴染の佐藤静香(さとう しずか)と二人きりで、離島旅行へと旅立った。 それと同時に、私――池田音葉(いけだ おとは)に届いたのは、最高級ホテルのカップル限定プランの決済通知だった。 集まった親族や友人たちからは、困惑と嘲笑の言葉が浴びせられる。 そんな私に、謹一は冷淡に言い放った。 「結婚式なんてただの儀式だ。お前一人でも進められるだろう」 それだけ言うと、彼は一方的に電話を切った。 父は怒りのあまり心臓発作で倒れて入院し、急ぎの手術費用が必要になった。 それなのに、謹一は私たちの共通口座から金を引き出し、静香のためにロマンチックな花火を打ち上げていた。 父が意識を取り戻したその瞬間、私は親の勧める見合い相手と入籍することを決意した。
Lihat lebih banyak謹一は、ここでようやく事態の深刻さを飲み込んだようだった。何か言い訳をしようと口を濁らせてはいるが、言葉が出てこない。それもそのはず、今回の騒動はすべて、彼が静香と結託して仕組んだことなのだから。静香は彼にこう吹き込んだ。「音葉を徹底的に追い詰めれば、今の男との結婚を諦めて、あなたの元に泣きついてくるはずだ」と。謹一はその浅はかな提案を鵜呑みにした。たとえ私の元に戻ったとしても、世間に晒し者にされた私の人生が、修復不可能なほど台無しになることなど、これっぽっちも考えなかったのだ。その時、私は確信した。謹一という男は、結局のところ、自分という中心点から一歩も外に出られない、極めて独善的な人間に過ぎない。自分の手中にあったはずのものが思い通りにならなくなれば、彼は途端に平静を失う。そして、なりふり構わず、再びそれを支配下に置こうと足掻くのだ。だが、今の私は、彼がどう足掻こうとも二度と制御できない存在へと変わっていた。ライブ配信が続くなか、警察が会場に踏み込み、二人を連行していった。私はスマホの向こう側にいる、これまで無責任な噂で私を傷つけてきた者たちに向けて言い放った。「彼の末路は、そのままあなたたちの未来よ。これまで心ないデマを広め、私を叩いてきたひとりひとりに、必ず相応の報いを受けてもらうから」私は有言実行した。腕利きの法律事務所と契約し、誹謗中傷に加担した者たちを片っ端から提訴した。謹一と静香が収監された後、謹一から何度も面会の申し入れがあったが、私は一度もそれに応じることはなかった。私の誕生日当日、陽斗はずっと落ち着かない様子でそわそわしていた。私は用意していた必要書類をすべて揃えて彼の前に立ち、微笑みながら切り出した。「そういえば、まだ籍を入れてなかったわね……今から、役所に行かない?」その瞬間、彼の顔が一気に輝いた。急いで支度を整えると、彼は自らハンドルを握り、私を連れて入籍の手続きへと向かった。無事に受理された後、私は用意していた内祝いの品を友人たちに配って回った。陽斗は終始、穏やかな眼差しで私を見守っていた。ふと、その視線に覚えがあることに気づく。記憶を辿り、ようやく思い出した。あの日、たった一人で結婚式場に取り残された時、参列者席のどこかに、これと同じ眼差しがあった。
「もう過ぎたことだよ。ただ、あの時のショックがあまりに大きすぎたんだ。まさか旅行から帰ってきたら、自分の婚約者が別の男と結婚しているなんて……思いもしなかったから」彼が被害者面を強調すると、すかさず静香が追い打ちをかけた。「彼はあなたにそんなにたくさんのものを買ってくれたのに……旅行から戻った彼が目にしたのは、別の男と愛を誓うあなたの姿だった。そんな残酷な仕打ちを受けて、まともでいられるはずがないじゃない!」乾いた音が響き、私は静香の頬を思い切りひっぱたいた。「何をするんだ!」「逆ギレかよ!」周囲の野次馬たちが一斉に色めき立ち、私を非難する声が上がる。「静香が寄り添っていなかったら、謹一は今頃死んでいたんだぞ」「人殺しも同然だ!」私は、その中でも一番大きな声を上げていた男を冷ややかに見据えた。「私が彼女を叩いたのには、それ相応の理由があるの。外野がとやかく言わないでくれる?」静香は頬を押さえながら、憎しみに満ちた視線で私を睨みつけてくる。私は構わず、謹一に告げた。「周防謹一、これが最後のチャンスよ。今すぐ私に謝罪して、ネット上に正式な謝罪文を出しなさい。そうすれば、せめてもの情けでこれ以上は追い詰めない。もし拒否するなら、もう容赦はしないわよ」私の言葉を聞いても、謹一は余裕の表情を崩さなかった。世論は完全に味方につけたし、今さら決定的な証拠など出てくるはずがないと、完全に高を括っているのだ。事件からこれほど月日が流れていることも、彼の慢心に拍車をかけていた。彼は「これ以上、恥をさらすのはやめろ」と、さも私を諭すような口ぶりで、静香もそれに同調した。その揺るぎない自信が、あまりに滑稽で笑いが込み上げてきた。私は無言でプロジェクターを起動した。それと同時に、謹一がライブ配信に使っていたスマホのも、そのスクリーンを真正面から捉えた。大画面に最初に映し出されたのは、静香が猫を激しく折檻する場面だった。一幕ごとに映し出されるその光景は、目を覆いたくなるほど凄惨で、会場の空気は一瞬で凍りついた。ここで私は、あらかじめ連れてきていた愛猫を抱き上げた。彼らに勘づかれて対策を練られないよう、今まで隠しておいた。今はちょうどいいタイミングだ。普段はとても人懐っこいこの子が、静香の姿を認めるなり、狂ったように鳴き声を
「興味ないわ」電話を切ったのとほぼ同時に、ネット上には例の告発動画がアップされていた。それを見た陽斗は、すぐに弁護士を手配すると言ってくれたけれど、私はそれを制した。「いいの。もっと騒がせておけばいいわ。自分たちで収拾がつかなくなるまでね」「でも、君が……」心配そうに私を見つめる陽斗に、私は微笑んで言った。「ねえ、旅行に行きましょう。新婚旅行の代わりよ」「……分かった、そうしよう」それからは早かった。すぐさまホテルと航空券を予約し、深夜のうちにスマホの番号も変えて、私たちはそのまま空港へと向かった。この旅行を通して、私と陽斗の距離は一気に縮まり、二人で夢のような時間を過ごした。SNSは一度も見なかった。連絡が取れるのは、私の両親だけだ。帰国を目前に控えたある日、久しぶりにSNSを開くと、友人たちからおびただしい数のメッセージが届いていた。そこで初めて、謹一が今回の炎上騒動を逆手に取り、なんと数百万人のフォロワーを獲得していることを知った。退院した彼は、あろうことか静香と一緒にライブ配信まで行い、アカウントには二人の「友情物語」が次々と投稿されていた。私を踏み台にしてフォロワーを荒稼ぎし、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで活動を軌道に乗せているというわけだ。一通り目を通し、静香が投稿した記事の数々も確認した。私が沈黙を守っていたせいで、世間は彼女の作り話を真実だと思い込み、どの投稿も凄まじい反響を呼んでいた。欲深い彼女のことだ、これほどバズっている投稿を自分から消すはずがない。だが、その油断こそが私への追い風となった。私は後の反撃のために、すべての投稿を保存し、完璧な証拠としてスクリーンショットに収めた。国内の空港に降り立ったのは、すっかり日が暮れた夜のことだった。投稿する内容の最終チェックを終え、陽斗と共に実家へと向かった。幸いなことに両親にこれといった実害はなかったけれど、顔を合わせるなり、私のことを案じていたことが痛いほど伝わってきた。「周防謹一のことは、昔はただの世間知らずだと思っていたが、まさかここまで性根が腐っていたとはな……このまま放っておいたら、お前たちのこれからの生活に障るんじゃないか?一度、裏で話し合って和解したほうがいいんじゃないか?」父は怒りと不安を隠せない様子でそう言っ
私の激しい動揺を察したのか、陽斗は手際よくカットしたフルーツと、私の大好物であるショートケーキを運んできてくれた。「ひとまず、何か食べて落ち着いて。そんなに腹を立てたら体に障るから」私が監視カメラの映像を消そうとしたその時、画面の中の静香が、リビングに置いてあった私のパソコンを手に取るのが見えた。何かがおかしい。彼女は三十分もの間、食い入るように画面を眺め、しまいには自分のスマホで何度も画面を撮影して、満足げに去っていったのだ。「周防謹一のこと、信じていたのに……猫を愛せないまでも、まさか虐待までするなんて思いもしなかった」話している最中も、スマホの通知音がひっきりなしに鳴り響いていた。「こんな時間に誰だろう」と不思議に思いながら画面を覗き込むと、SNSの通知欄がとんでもないことになっていた。普段から動画を投稿してはいたけれど、これほどの反響はかつて一度もなかった。「もしかして、ついにバズった……」そんな淡い期待に胸を躍らせながら、何が起きているのか確かめようと、通知欄のコメントやDMをそっと開いてみた。だが、そこには溢れんばかりの罵詈雑言が並んでいた。それだけじゃない。コメント欄には私の本名や住所といった個人情報が特定され、無惨に晒し上げられていた。さらに、陽斗の情報までもが引きずり出され、彼のアカウントにも誹謗中傷のコメントが殺到している。せっかくの新婚初夜だというのに、二人の電話は一刻も休まることがなかった。最初は状況が飲み込めず、つい無防備に電話に出てしまったけれど――それが間違いだった。電話の向こうから聞こえてきたのは、怒りに狂った見ず知らずのネット民の怒号だった。「クズ女!人を死に追いやっておいて、自分だけ幸せいっぱいに結婚するなんて……本当に恥を知りなさい!」「死ねばいいのに。真心を弄ぶような奴には、絶対に天罰が下るわ」次々と浴びせられる罵詈雑言。私には何が起きているのか、さっぱり分からなかった。状況がようやく掴めたのは、友人から別のSNSプラットフォームのURLが送られてきた時だった。リンクを開いた瞬間、目に飛び込んできたのは手術室での緊迫した蘇生処置を捉えた一枚の写真。そして、その傍らで今にも消えてしまいそうなほど痛々しく泣き崩れる静香の横顔だった。添えられた文章はこうだ。【一