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第280話

Author: 青山米子
一葉が纏うイメージは、より恐ろしく、絶大な権力で全てを捻じ曲げる悪女として確固たるものになってしまったのである。

そして、その炎に決定的な油を注いだのが、マスコミの取材に応じた一葉の両親の発言だった。

彼ら曰く、一葉は子供の頃から要領のいい子だったという。普段はろくに勉強もしないのに、試験になると決まって高得点を取る。

昔から人付き合いが悪く、友達一人いなかったが、不思議と教師からの受けだけは良かった。

これまでずっと、先生たちに可愛がられてきた、と。

言葉こそ濁していたが、その口ぶりは、彼女が子供の頃から教師に媚びへつらうことで成績を得てきたのだと、雄弁に物語っていた。

ある記者が食い下がった。「では、彼女の大学入学試験の成績についてはどう説明しますか?」

いかに教師に気に入られようとも、全国統一試験の結果ばかりは、一個人の裁量でどうにかなるものではない。

すると二人は、それを鼻で笑って言い放った。「運が良かっただけよ。ヤマが当たったんでしょ、どうせ!」

一葉の両親による、あのようなインタビューが公にされると、事態はさらに悪化した。

元々一葉の実力を信じていなかった人々は、これで完全に確信を深めることになった。彼女の学業成績は幼い頃から教師に取り入って得たものであり、彼女が主張する「真相」や「潔白」もまた、資産家である彼女が金で買ったものに違いない、と。

一葉の会社に対する風当たりは、ますます強くなる一方だった。

言吾が彼女に残した会社の株価は、下落の一途を辿った。

「このままでは……年末まで持ち堪えられず、倒産することになるかもしれません」

言吾が探してきた経営責任者からの電話は、そんな絶望的な報告だった。

彼は人格者であり、心から会社の将来を案じている人物だった。だからこそ、彼は訊かずにはいられなかったのだろう。「青山社長、あなたは……ご両親の実のお子さんなんですか」

彼の声には、実の娘が危機に陥っているというのに、助けるどころか、まるでとどめを刺すかのように追い詰める親がこの世にいることへの、純粋な戸惑いが滲んでいた。

一葉は、とうの昔に両親には絶望しきっていた。だから、今さら彼らがどんな行動を取ろうと、心が痛むということはなかった。

ただ、ある種の感慨を禁じ得ない。

優花が死んだと思っている今でさえ、あれほど自分を憎む
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