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第615話

Auteur: 青山米子
「耐えられないのよ、あんたは!一心に初恋の人の娘を育て、全てを注いできた。それが、あんたとあの人との愛の証だとでも思ってたんでしょ。でも蓋を開けてみれば、その娘は赤の他人だったどころか、あんたの『初恋の人』の実の娘を死に追いやった張本人だった!

あんたはその事実を受け入れられなくて、信じたくなくて、必死に『これは真実じゃない、この子はあの人の娘なんだ』って自分に言い聞かせたいだけ。だから、私のために必死になってるフリをしてるのよ。

あんたがやってること、全部自分のためじゃない!心から私のためを想ってくれたことなんて、一度もなかったくせに!……だから、そんな被害者みたいな顔して、自分がどれだけ不憫で、私のために尽くしてきたかなんて、二度と言わないでくれる!」

未来に絶望した優花は、もはや「良い娘」を演じ続ける気などなかった。自分が絶望するなら、この女にも徹底的に絶望を味わわせてやる。その一心だった。

悪人は悪人をよく知る、とはよく言ったものだ。今日子が口にしたことは一度もなかったが、優花は、自分を見る今日子の眼差しに宿る僅かな変化から、その全てを察していた。

そして、今日子の心の脆い部分を、正確に把握していたのだ。

優花は、今日子が最も耐えがたい真実を、容赦なく突きつけた。信じたくない、認めたくないと必死に目を背けてきた現実を、疑いようのない事実として目の前に突きつける。

たまらず、今日子は椅子から立ち上がった。「やめなさい!もうそれ以上言わないで!」

取り乱す今日子の姿を見て、優花は嘲るように鼻を鳴らした。「……フン、あんたほどの馬鹿は見たことないわ。自分の『初恋の人』の娘を殺した犯人のために、実の娘さえも捨てて顧みないなんて」

「真実を知ってもなお、知らないフリを続けて、仇である私に甲斐甲斐しく尽くすなんてね。

あんた、実の娘に愛情がないだけじゃなくて、その大層な『初恋の人』にも愛なんてなかったんじゃないの!だって、そうじゃなきゃおかしいでしょ。あの人の実の娘が殺されたって知ってて、その仇を討つどころか、その犯人である私を庇うなんて!

あんたの『初恋の人』があの世でこのことを知ったら、さぞかしあんたの愛を気味悪がることでしょうね。あんたみたいな気色悪い女、未来永劫顔も見たくないって思うんじゃない!」

優花は、どうすれば今日子を最も深く傷つけ
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