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第2話

作者: 浮世の夢
そう言い終わると、彼は胸を押さえて軽く咳き込んだ。

紗月は慌てて彼に寄り添い、痛ましそうに彼を見つめた。

しかし、司の言葉は彼女に思い出させた。

違う時代からやってきた私が、彼女の元を離れて生きていけるはずなどないのだと。

そう思うと、彼女の目に嫌悪の色が浮かんだ。

「清信!やっぱりあなた、昔と変わってないのね。

司の夢を叶えてあげるためだって言ってるのに、いちいち当てつけがましく引きずる必要があるの?」

彼女は冷たく鼻で笑った。

「出て行くって言うなら、今すぐ出て行けば?行き先なんてどこにもないくせに!」

私はその場に立ち尽くしていた。

窓から吹き込む冷たい風に、思わず身震いした。

彼女と司の去っていく後ろ姿を見つめながら、私はふっと自嘲気味に笑った。

夢を叶えるため、か……

なら、その首筋に残されたキスマークも、ただ彼の夢を叶えるためだとでも言うつもりか?

まあいい。どうせあと二日もすれば、私はここから消えるのだ。

……

翌朝、私はリビングから聞こえてくる物音で目を覚ました。

体内時計のおかげで早起きは習慣になっていたが、今朝目覚めた時、胸の鈍い痛みはいくらか和らいでいるように感じた。

リビングへ向かうと、引越し業者が「司の私物」と書かれたダンボールを次々と主寝室へ運び込んでいるところだった。

それを指示する紗月の横顔は朝日に照らされ、なぜか、それが当然のことのように思えてならなかった。

「起きたの?」

彼女は私に目も向けず、まるで今日はいい天気だねとでも言うような平坦な口調だった。

「司は体が弱いから。お医者さんが、楽しい気分を長く保てればガンが治る確率があるって言ってたの。

だから彼をここに住まわせて、まずは安心できる居場所を作ってあげようと思って」

「なら、私は?」と私は尋ねた。

自分の声が驚くほど凪いでいて、少し拍子抜けした。

紗月はようやく手を止め、私を振り返って眉をひそめた。

分かりきったことを聞くなと言わんばかりの表情だ。

「ゲストルームよ。どうせあなたは普段も書斎にこもってばかりじゃない。

それに、司には……世話をする人が必要なの。近くに住んでいた方がいいでしょ」

私は反論せず、ただ頷き、黙って書斎へ向かった。

本棚には、私がこの数年間集めてきた古代の農業と治水、算術に関する本が半分以上を占めていた。

本当は、紗月と結婚して落ち着いたら、これらを本にまとめて、いつか本当に役立てられるかもしれないと考えていた。

だが今となっては、これらの本だけが私の唯一の慰めであり、心の拠り所だった。

午後になると、司がやってきた。

相変わらず病弱そうな顔をしてソファに寄りかかっている彼に、紗月は良き妻のように、至れり尽くせりで世話を焼いていた。

「清信さん、本当に済まなかった。お二人の新居にお邪魔しちゃって」

司は力なく微笑んだが、その目には勝者の得意げな色が浮かんでいた。

私は彼を相手にせず、静かに自分の荷物をまとめた。

実際のところ、まとめるほどの荷物などなかった。

ほとんどがこの世界のもので、すべて紗月に関わるものであり、わざわざ持っていく必要などない。

だが、もうこれ以上、彼に私の領域を荒らされたくなかったのだ。

紗月は私が荷物をまとめるのを見て、眉をひそめた。

「清信、また何の癇癪を起こしているの?司も越してきたんだから、もう少し大人になれないの?」

私は手を止め、顔を上げて彼女を見た。

まるで赤の他人を見るような視線を彼女に向けたのは、これが初めてだった。

そこに愛はなく、悲しみも、未練すらない。

ただ、どうでもいい通行人を見ているかのようだった。

「癇癪なんて起こしていない」

私は淡々と口を開いた。

「ただ荷物を整理しているだけだ」

「荷物を整理してどうするの?」

彼女の気配が途端に張り詰めた。

「まさかまだ出て行くつもり?言っておくけど、私がいなくなったらあなたは生きていけないのよ?

身寄りもないのに、どこに行くっていうの?」

傍らにいた司は、さらに嘲笑するように笑い出した。

「まさか清信さん、『元の世界に戻る』なんて言い出すんじゃないでしょうね。

そんな子供だましの嘘、通用しないぞ。

俺が気に入らないなら、はっきりそう言えばいい。

俺は出ていくから、もう嘘をつくのはやめてくれ」

紗月の顔はすっかり険しくなった。

「清信!いつまでそんなでたらめを言うつもり?

司はこんなに病気で苦しんでいるのに、少しは安心させてあげられないの?」

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