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君が帰らない夜も、月はずっと綺麗だった
君が帰らない夜も、月はずっと綺麗だった
ผู้แต่ง: しょうの笛

第1話

ผู้เขียน: しょうの笛
晟峻は、紺色の警察官の制服をきちんと着こなしていた。ただでさえ端正な顔立ちがいっそう精悍に映る。だが、よく見れば顎には青い無精ひげが浮き、充血した目には隠しようのない疲労がにじんでいた。

心配そうな顔をしながらも、その口調には責めるような響きがあった。晟峻はごく自然に泉澄の前にしゃがみ込み、靴を履かせようとした。

「こんな大怪我をしていたのに、どうして俺に知らせなかったんだ?」

だが、泉澄はすっと足を後ろへ引き、差し出された手を避けた。

晟峻の手は宙に取り残された。彼が眉を寄せて見上げると、泉澄の凪いだ水面のような瞳とぶつかった。そこにはもう、何の感情も浮かんでいなかった。

「大した怪我じゃないわ。あなたは仕事を優先して」

淡々と告げると、泉澄は自分で靴を履いて立ち上がり、退院の書類を手に病室を出ていった。

ひと回り小さくなったように見える背中を見送りながら、晟峻の胸に正体不明の不安がよぎった。

泉澄が、どこか変わってしまった気がする。

晟峻はあとを追った。泉澄は一人で退院手続きを済ませ、窓口で薬を受け取ると、そのまま病院前のバス停へ向かった。

すぐ後ろに晟峻がいるというのに、彼女は振り返って甘えることも、来るのが遅かったと責めることもなかった。以前なら彼の胸元に寄りかかり、顎の無精ひげを撫でながら、仕事で無理をして体を壊さないでと何度も言ったはずなのに。

訳のわからない苛立ちと焦燥に駆られ、晟峻は泉澄の手首をつかんだ。唇を引き結び、低い声で尋ねる。「事故のことで怒ってるのか?それとも、満の……」

泉澄は言葉を遮り、つかまれた手をゆっくりと引き抜いた。その声は冷淡なほどに静かだった。

「どちらでもないわ。晟峻、もう済んだ話はしたくないの」

再び手を振り払われ、晟峻は焦ったように追いすがった。

「だったら、どうして――」

そのとき、バスが停留所に滑り込んできた。

泉澄はもう晟峻を見ようともせず、ためらいなく乗り込んだ。乗客の流れに押されながら、車内の中ほどまで進んで立つ。

晟峻も口を引き結んだままあとに続いた。泉澄の背後まで人をかき分けて進むと、大きな体で人波を遮り、彼女を守るように立った。

窓の外を流れていく街並みを見つめ、すぐ背後に晟峻の体温を感じているうち、泉澄の意識は5年前――初めて彼と出会った日へと遡っていった。

あの日は国立バレエ団の休演日だった。泉澄は少しずつ貯めたお金を握りしめ、繁華街の洋服屋へ新作のワンピースを買いに出かけた。

店の前まで来たとき、通りに「ひったくりだ!」という叫び声が響いた。騒然とする人波の中から、制服姿の警察官が飛び出し、逃げる男を鮮やかな蹴りで倒して瞬く間に取り押さえた。

顔を上げたその警察官の鋭い眼差しに射すくめられ、泉澄はその場で身動きができなくなった。

なんて恐ろしい人だろう。そう思ったのに、その顔はいつまでも記憶から消えなかった。

2度目に見かけたとき、晟峻は木に登り、遊んでいて降りられなくなった幼い女の子を助けようとしていた。足を滑らせて落ちた瞬間も、彼は女の子を胸に抱き込み、自分の身を挺して最後まで守り抜いた。

腕から血を流しながらも、晟峻は穏やかに笑い、その子の髪を撫でていた。その瞳に宿る温かな光を人垣の向こうから見た瞬間、泉澄の胸は大きく跳ねた。

3度目は、国立バレエ団が慰問公演のため警察署を訪れたときだった。

舞台で踊る泉澄を、客席にいる晟峻がじっと見つめていた。視線が重なった途端、胸が高鳴り、耳まで熱くなった。

その後、晟峻が見合いをしていると知った泉澄は、法曹界で働く叔母に頼み、縁を取り持ってもらった。

お見合いの席で、向かいに座った晟峻は誠実な口調で切り出した。「水瀬さん、俺は仕事柄、家を空けることが多いんです。家庭のことまで十分に手が回らないかもしれない。それでも構いませんか?」

泉澄は耳を赤くしながらも、迷いなく答えた。「構いません!」

晟峻はうなずき、約束してくれた。「必ず大切にします」

結婚してから、晟峻は確かに泉澄を大切にしてくれた。けれど、いつも仕事に追われていた。

家のことはすべて泉澄が担った。ガスが止まっても、電球が切れても、雨漏りがしても、晟峻はすぐには帰れない。泉澄は袖をまくり、見よう見まねで何でもこなせるようになった。

世話焼きな晟峻は、非番の日でも近所の困りごとを進んで引き受け、時には家計を削ってまで他人を助けることがあった。それでも泉澄は快く賛成し、一度も不満を口にしなかった。

泉澄が満を産んだころ、晟峻は隣市の重大事件の捜査に駆り出されていた。彼が帰宅したのは、産後1ヶ月が過ぎてからだった。

血走った目と隠しきれない罪悪感を前にしても、泉澄は胸の内の不満をすべて呑み込み、ひと言も責めなかった。

その日、晟峻は泉澄を強く抱きしめ、これからはもっと家族のために時間を作ると約束した。

だが、その約束は守られなかった。

晟峻は以前にも増して忙しくなった。署で、一人の後輩の指導を任されたからだ。

桐谷紗耶(きりたに さや)という女性警察官は、いつも「先輩」と甘えた声で彼を呼び、仕事でミスをしては問題を起こした。そのたびに晟峻が尻拭いをした。

初めの頃こそ、紗耶の話題になるたび苛立っていた晟峻だが、いつしか彼女のことを話す顔に笑みが浮かぶようになった。無自覚のまま、彼女を甘やかすようになっていたのだ。

泉澄はそのことで何度も涙を流し、不安な思いをぶつけた。だが返ってくるのは、泉澄の気持ちを少しも理解しようとしない非難ばかりだった。

「泉澄、紗耶は大事な後輩で、同じ署で働く仲間だ。やましい関係なんて絶対にない。俺が君を裏切るはずがないだろう。これ以上、筋の通らないことで責めるのはやめてくれ」

そして半月前、未曾有の洪水が街を襲った。住民の避難誘導に当たっていた晟峻は、泉澄と1歳になったばかりの満の救助を最後まで後回しにした。

泉澄は満を抱き、2階のベランダで必死に助けを待っていた。

ようやく晟峻がこちらへ向かおうとしたとき、救助されたばかりの男の子が水へ落ちた。紗耶が助けようと飛び込んだものの、水の中で足がつって動けなくなった。

その瞬間、晟峻は少しも迷わず向きを変え、紗耶を助けに向かった。

その直後、濁流が2階まで押し寄せた。泉澄と満は水に呑まれ、泉澄が意識を取り戻したとき、1歳になったばかりの娘はすでに息をしていなかった。

病室の外から、自責の念に駆られている紗耶を慰める晟峻の声が聞こえてきた。

「泣くな。君は悪くない。あの状況では仕方がなかったんだ。君が責任を感じることじゃない」

その言葉を聞いた瞬間、泉澄は笑った。全身を震わせて笑いながら、目からはとめどなく涙があふれ続けた。

泉澄は一晩中、暗闇の中でただ座り続けた。夜が明けると、満の火葬に必要な書類の束に離婚届を紛れ込ませ、晟峻に署名させた。

満の葬儀の日、晟峻はわずかな時間しか顔を見せなかった。紗耶に呼ばれると、また慌ただしく去っていった。

晟峻がいなくなったあと、泉澄は二つのことをした。

一つ目は、区役所へ離婚届を提出し、離婚の手続きを始めること。

二つ目は、国立バレエ団の海外研修に申し込み、海外の芸術都市で3年間学ぶこと。

すべてが済み次第、泉澄は晟峻のもとを去る。5年間暮らしたこの家にも、二度と戻らないつもりだった。

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