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第2話

مؤلف: しょうの笛
バスは大きく揺れながら、自宅近くの停留所に着いた。

帰る道すがら、晟峻は何度も泉澄に話しかけようとした。だが、そのたびに冷たく遮られた。

家に着くと、泉澄はまっすぐ寝室へ入った。

伸ばしかけた手は、またしても行き場を失った。苛立ちが込み上げ、晟峻は室内を見回す。その視線が、ふいに止まった。

部屋の隅には、1週間前に家を出る際、慌ただしく脱ぎ捨てられた自分の服がそのまま残っていた。使ったコップも、置きっぱなしのカミソリも洗われていない。それなのに泉澄の持ち物だけは、どれもきれいに整えられていた。

散らかった晟峻の物と彼女の物との間に、まるで越えられない境界線が引かれているようだった。

言い知れぬ怒りに突き動かされ、晟峻は寝室のドアを押し開けた。だが、壁を見た瞬間、息を呑む。

泉澄がいつも埃ひとつ残さず磨いていた結婚記念の写真は消え、空の額縁だけが壁に掛かっていた。

心臓が大きく跳ねた。

「結婚写真はどうした?」

それでも泉澄の表情は変わらない。その無関心な目に耐えきれず、晟峻はついに声を荒らげた。

「俺への当てつけのつもりか?泉澄、君はもう子供じゃないんだ。不満があるならきちんと言ってくれ。落ち着いて話し合おう」

泉澄の態度は変わらず、静かに答えた。「当てつけじゃないわ。晟峻、もう疲れたの。私たちの結婚は……」

――これで終わりよ。

言いかけたその言葉は、突然鳴り響いた電話の着信音に呑み込まれた。

晟峻が電話に出ると、紗耶の切羽詰まった声が聞こえてきた。

「先輩、すぐ来てください!どうしても手伝ってほしい事件があるんです。急いで――」

泉澄は静かに視線を外した。間もなく電話を切った晟峻が、慌ただしく制服の帽子を被る。

玄関を出る直前、晟峻はふと足を止め、泉澄を振り返った。

「疲れているなら、ゆっくり休んでくれ。仕事が落ち着いたら休みを取る。今度こそ、君との時間を作るから」

泉澄は振り返らなかった。

晟峻が出ていくと、泉澄は家の片づけを再開した。

かつて晟峻にねだって撮ってもらった写真。出張先から無事を知らせるために送られてきた手紙。何気なく手渡されたイチョウの葉。大切にしまっていた思い出を、ひとつ残らず取り出しては整理していく。

2時間後、泉澄は晟峻が家に置き忘れていった重要な捜査ファイルを見つけた。

泉澄はそれを警察署へ届けることにした。晟峻たちの休憩室のドアを開けると、ソファに身を寄せたまま眠る晟峻と紗耶が目に入った。

紗耶は晟峻の胸にすっぽりと収まり、腕や脚まで彼の体に絡ませていた。

ドアの音で二人は飛び起きた。泉澄を見た晟峻の目に、気まずそうな色がよぎる。

「泉澄、誤解しないでくれ。事件の打ち合わせをしているうちに、つい眠ってしまって……」

泉澄はファイルを机に置き、そのまま背を向けながら告げた。「分かっているわ」

去っていく背中を見つめ、晟峻は呆然とした。以前なら、紗耶と少し距離が近いだけでも、泉澄は目を赤くして傷ついた顔を見せた。たとえその場で責めなくても、平気なふりなどできなかった。

けれど、今日の泉澄はあまりにも冷静だった。その静けさに、晟峻の胸は締めつけられた。

晟峻はとっさに泉澄の手首をつかみ、引き留めた。不安を押し殺した低い声で問いかける。「どうして怒らないんだ?」

泉澄は笑った。

「二人は同じ署で働く仲間で、強い絆で結ばれているんでしょう。分かっているわ」

投げやりで、何もかもどうでもよさそうなその笑みが、晟峻の目にはひどく刺さった。

苛立った晟峻がなおも説明しようとしたとき、先に部屋を出ていた紗耶の悲鳴が聞こえた。

晟峻の顔色が変わった。泉澄の手首を放し、すぐさま声のした方へ駆けていく。

泉澄が、掴まれて赤くなった手首をさすっていると、隣の部屋から紗耶の甘えるような、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「ごめんなさい、先輩。電球を替えようとしただけなのに、椅子から落ちちゃって……」

晟峻は優しい声で答えた。「気にするな。君にこんな力仕事はさせられない。俺が替えるよ」

泉澄の手が止まった。

重い荷物を運び、腕に赤い擦り傷ができたこと。電球を替えようとして感電しかけたこと。屋根の雨漏りを直していて、あやうく落ちそうになったこと。

あのとき、助けてくれる人はいなかった。

泉澄は口元にかすかな嘲笑を浮かべ、立ち去ろうとした。

隣の部屋の前を通ると、椅子に乗って電球を替える晟峻と、その脚を両手で支える紗耶が見えた。

足音に気づいた紗耶は、わざと晟峻の太腿に顔を寄せ、泉澄へ挑発するような笑みを向けた。

椅子の上の晟峻は明らかに体をこわばらせたが、紗耶を押しのけようとはしなかった。

泉澄は無表情のまま背を向け、警察署をあとにした。

署を出てほどなくして、背後からかすかな足音がついてくることに気づいた。胸がざわつき、人通りの多い大通りへ走ろうとした瞬間、後ろから硬い物で激しく殴られた。

後頭部に鋭い痛みが走り、泉澄の意識は暗転した。

目を覚ますと、荒れ果てた廃屋の中だった。口を塞がれ、椅子に縛りつけられている。

暗い目をした男がナイフを弄びながら立ち、残忍な笑みを浮かべていた。

「ようやく目を覚ましたか」

その顔を見た瞬間、泉澄は以前、新聞で読んだ記事を思い出した。晟峻に逮捕され、服役していた男だ。

男はナイフの冷たい刃を泉澄の頬に這わせ、憎悪に満ちた目でにらみつけた。

「篠原のせいで、俺の家族はめちゃくちゃになった。今日はお前を殺す。あいつにも、家族を失う絶望を味わわせてやる!」

言い終えるなり、男はナイフを振り上げ、泉澄の胸へ突き立てようとした。

口を塞がれた泉澄は、悲鳴すら上げられない。ただ、迫ってくる切っ先を恐怖に凍りついた目で見つめるしかなかった。

そのとき、古びた木のドアが激しい音とともに蹴り破られた。晟峻と紗耶が飛び込んでくる。

「泉澄!」

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