Mag-log in会場には、澪を迎えに来た男が二人いた。最後に、澪は一度だけ俺を見た。それからドレスの裾を持ち上げ、振り返ることなく去っていった。その背中を見送った瞬間、ふと思った。澪がこれまで付き合ってきた男たちの中で、俺はきっと一番目立たない存在だった。それでも澪は、俺と婚約までしてくれた。俺を選んでくれていた。もしあの夜、馬鹿な真似をしなければ。婚約したその日に、自分の醜い感情に負けていなければ。澪は本当に、俺の妻になってくれていたのかもしれない。失って初めて、自分が何を手にしていたのかを思い知った。それからしばらく、俺は半分おかしくなっていた。後悔してもしきれなかった。どうにかして、澪にこ
私はもう、誰かの裏切りに、自分の人生を預けたりしない。……怜司視点澪は、俺の初恋だった。本当に愛していた。それなのに、ふとした瞬間、どうしようもなく暗い感情が胸の奥で膨らむことがあった。澪が俺と一緒に笑った場所。俺の手を取った時の表情。俺にだけ向けてくれると思っていた甘えた声。そのすべてを、彼女は過去の男にも見せていたのだろうか。一度そんなことを考え始めると、止まらなくなった。友人たちは面白がって言った。「お前が一人の女で満足するタイプかよ」「桐谷が結婚したくらいで落ち着くとか、冗談だろ」笑って聞き流しているふりをした。けれど本当は、その言葉が少しずつ胸の奥に溜まってい
「それくらいの意地は見せて。これ以上、私に軽蔑させないで」怜司は追ってこなかった。ただその場に立ち尽くし、床をじっと見つめていた。本社で一年、各部署を回った。ようやく父が、私に会社を任せてもいいと言い出した。その夜、ささやかな祝賀会が開かれた。ささやかとはいえ、篠原家の本社で行われる会だ。会場には次々と客が訪れ、私のもとへ挨拶に来ては、グラスを掲げた。私はグラスを手に、落ち着いて笑い、ひとりずつ言葉を返していった。父は少し離れた場所から、その様子を見ていた。隠しきれない誇らしさと安堵が、その顔に浮かんでいる。その時だった。賑やかだった会場が、不意に静まり返った。入口のほうへ
私は唇の端を少しだけ上げた。「ほら。浩介だって、そんなに寛大じゃない」悔しそうに眉が寄る。何か言葉を探しているようだった。けれど私と目が合うと、やがて浩介は小さく息を吐いた。「……分かった」その声には、ようやく諦めに近いものが混じっていた。怜司のことは、確かにしばらく私を沈ませた。両親に半ば強引に海外旅行へ送り出され、見知らぬ街の景色を眺め、その土地の料理を食べた。何日もかけて、少しずつ呼吸を取り戻していった。そうしてようやく、私は帰国した。家に戻ると、リビングのテレビでは、桐谷家が経営する会社が破産手続きに入ったというニュースが流れていた。画面の中の怜司は、ひどく憔悴して見え
「澪。俺はまだ、澪のことが好きだ。俺と一緒に来てくれ」今度こそ、会場は完全に騒然となった。「つまり、桐谷さんが浮気してたってこと?」「しかも相手、妊娠してるって言ってなかった?」「それで花嫁には、別の男が二人も迎えに来たの?」「待って。あれ、佐伯慶吾じゃない?佐伯家の御曹司でしょ。もう一人は……相沢浩介だよ。相沢家の跡取りだったはず」ざわめきは、もはや止めようがなかった。完全に場が崩れた中で、怜司だけが私の前に立ちふさがった。目尻は赤く、声はほとんど懇願に近かった。「澪、違う。説明できる。頼むから、まず式だけは最後まで……」伸びてきた手を、一歩引いて避けた。それから、ウェデ
【私が「誓いません」と言ったら、すぐ入ってきて。早く、派手に、できるだけ格好よく】慶吾から返ってきたのは、【OK】のスタンプだけだった。スポットライトが私に当たる。会場中の視線が、一斉にこちらへ集まった。ゆっくりと、怜司のもとへ歩いていく。彼は祭壇の前で、こちらを見つめていた。唇がわずかに震えている。次の瞬間、涙が一筋こぼれ落ちた。なんて感動的な場面だろう。ウェディングドレス姿の私を見て、怜司が思わず涙を流す。もしこの男が私を裏切っていなければ、私もきっと、この瞬間に心を動かされていた。手を伸ばして彼の涙をそっと拭い、なだめるように肩を軽く叩いた。まだ泣くには早いよ。式は、司