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君とすれ違った時気づいたこと

君とすれ違った時気づいたこと

By:  イケイチCompleted
Language: Japanese
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友人たちにはよく、私・篠原澪(しのはら みお)のことを「男を見る目がない」と言われていた。 佐伯慶吾(さえき けいご)、相沢浩介(あいざわ こうすけ)――続けて付き合ったふたりは、どちらもどうしようもないろくでなしだった。 だからこそ、桐谷怜司(きりたに れいじ)だけは違うと信じたかった。 穏やかで優しく、いつも気にかけてくれる彼は、これまでの不運を埋め合わせるために現れた人なのだと、本気で信じていた。 だが、その思い込みは呆気なく崩れた。 ある晩、彼は友人たちと酒を飲みながら、笑ってこう言った。 「澪の元カレ二人って、あの界隈じゃかなり遊んでたって有名だろ。そう考えたら俺だけ真面目に付き合ってるの、馬鹿みたいじゃない?」 その場にいた友人たちは面白がって、すぐに七瀬香楠(ななせ かなん)という女を呼んだ。 そのまま怜司は、朝まで戻ってこなかった。 胸が張り裂けそうな痛みの末に、私は彼への感情をすべて失った。 愛もない。憎しみもない。ただ、何も感じなくなった。

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Chapter 1

第 1 話

裏切り

婚約披露の食事会を終えると、婚約者の桐谷怜司(きりたに れいじ)は友人たちに誘われるまま、バーへ行ってしまった。

深夜二時。タクシーがつかまらないかもしれないと思い、私は車を出した。

店の奥の薄暗いボックス席には、どこか艶めいた空気が漂っている。怜司は紫煙をゆっくり吐き出し、淡々と言った。

「篠原澪(しのはら みお)の元カレ二人って、あの界隈じゃかなり遊んでたって有名だろ。そう考えたら、俺だけ真面目に付き合ってるの、馬鹿みたいじゃない?」

私の足が止まった。

いつの間にか、怜司のすぐ後ろまで来ていた。照明が落ちていたせいか、誰もこちらに気づかなかった。

友人のひとりが、すぐにその話に乗った。

「桐谷なら、その気になれば寄ってくる女なんていくらでもいるだろ。お前だって遊べばいいじゃん」

あちこちから、悪意を含んだ笑い声が上がった。

怜司なら断ってくれると思っていた。そんな冗談はやめろと、たしなめてくれると信じていた。

けれど彼は、むしろ楽しそうに目を細めた。

「でも、今すぐ相手してくれる子なんて、近くにいないだろ」

すると友人がスマホを取り出した。

「なら、今すぐ呼んでやるよ、七瀬香楠(ななせ かなん)という子はめっちゃいいぞ」

ほどなくして、白い肌に整った顔立ちの、誰の目にも男を引き寄せる女がひとり、怜司の隣に腰を下ろした。

シャツのままソファにだらしなく身を預けている怜司の膝に、女はためらうことなく跨り、両腕を首に絡める。酔いを含んだ怜司の目には、もう隠しようのない欲が滲んでいる。

誰かが笑い混じりに言った。

「お前、もうすぐ澪ちゃんと結婚するんだろ。そんな派手に遊んで、バレたらマズいんじゃないの?」

その言葉に、怜司の目つきが変わった。

女の後頭部を引き寄せ、乱暴に唇を押し付ける。そして、吐息混じりに言った。

「澪だって、ほかの男と付き合ってたんだ。だったら俺がほかの女を試して何が悪い。あいつはもう俺に夢中だよ。俺なしじゃいられない」

どっと笑い声が起こった。その笑い声の中で、怜司はさらに続けた。

薄暗いボックス席で、目に映るものすべてが歪んで見えた。あの声からは、後ろめたさなど少しも感じられない。ただ、仕返しでもしているような、歪んだ高揚だけがあった。

胸の奥が、息もできないほど痛んだ。心臓を踏みにじられたようだった。

その痛みの中で、付き合い始めた頃のことがよみがえる。

元恋人の相沢浩介(あいざわ こうすけ)に心変わりされ、別れてから一年が経っていた。過去には自分なりに区切りをつけていたつもりだった。

怜司に前の恋人のことを聞かれた時、浩介と別れた理由を正直に話した。

「私は、そういう裏切りだけは無理なの」

すると怜司は、まっすぐに見つめて言った。

「澪、俺は浩介みたいなことはしない。ちゃんと大事にする」

付き合い始めたばかりの頃、周りからも、怜司に大切にされているねと言われた。誕生日には大げさなくらいの告白をしてくれたし、オークションでは、何気なく気に入ったと言っただけのダイヤのネックレスを迷いなく落札してくれた。

私も、精一杯彼を愛した。

それなのに、怜司も結局は浩介と同じだった。私の気持ちを踏みにじり、あの日の約束さえ忘れていた。

友人たちのはやし立てる声が、背中にまとわりついて離れない。胸を押さえたままバーを出て、気づけば、怜司と新生活を始めるはずだった部屋へ向かっていた。

昼間の婚約祝いの席で友人たちから贈られた寄せ書きボードが、まだリビングのテーブルに置かれていた。白と金で飾られたボードに並ぶ【おめでとう】の文字が、今はただ残酷だ。

その場に立ち尽くしたまま、涙が次から次へとこぼれ落ちた。涙の向こうで、初めて怜司と結ばれた夜のことまでよみがえった……

何気ない口ぶりで、彼は私に聞いた。

「浩介とは……そういうこと、あった?」

「ないよ」

そう正直に答えた。

私にとって、怜司が初めての相手だった。

その時は、ただの嫉妬だと思っていた。少し拗ねて、過去の相手を気にしているだけなのだと。

今にして思えば、あれは最初から予兆だった。怜司はずっと、私の過去を気にしていた。だから婚約したその日に、あんな形でほかの女を試そうとしたのだ。

けれど、浩介のことを怜司は昨日初めて知ったわけではない。

それなのに、結婚式を心待ちにしていた私の胸を、彼はあの日、深くえぐった。

新居のベッドの上で丸くなった。全身が冷えているのに、額にはじっとりと汗が滲んでいた。痛い。苦しい。

婚約祝いの食事会があったその夜、怜司は結局、戻ってこなかった。

窓辺に座り込んだまま、夜通し冷たい風にさらされた。それでも、戻ってくる気配はなかった。

朝の光が差し始めた頃、ようやくぼんやりとベッドに戻った。胸の痛みはひどく、身体は熱を持ち、意識までぼやけていった。

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