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割れたグラス 02

Penulis: 市瀬雪
last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-20 06:00:07

   ***

「あれ? 暮科……」

 勝手に宣言された通り、早番の終業1時間後にはインターホンが鳴った。

 普段より若干高めのテンションで「これ付き合ってよ」と木崎が持参したワインは、けれども、結局木崎しか飲んでいなかった。俺はと言うと、いつも通り缶ビールしか飲んでいない。

「暮科って、ワイン嫌いだったっけ?」

 そうして、既に何杯目か分からないグラスを一気に煽ってから、今更のように木崎は俺を見詰めてきょとんと首を傾げた。

「飲めねぇわけじゃねぇけど……」

「けど……?」

 部屋に上がった木崎は、俺の許可も待たずに勝手にキッチンからグラスを二つ持ってきて、持参した道具で勝手に栓を抜き、当たり前のように双方にワインを注いだ。

 そうして一方を俺の方へと差し出してくれたものの、それにいつまで経っても俺が手を付けなかったからだろう。木崎は改めて俺の持つ缶ビールとテーブルの上のグラスを交互に見遣ると、自分のグラスをゆるゆると揺らしながら、小さく瞬いた。

「けどなに?」

「……いいんだよ、俺はビールで。そっちもお前飲んでいいから」

 どう言うべきか迷った末、俺は大した返答もせずにもう一方のグラスを目線で示した。

 ……さすがに今ワインを飲む気にはなれない。

 ワインはもともと見城あいつが好んで飲んでいたもので、俺にその良さを教えたのも見城だった。それに俺はワインだと少々酔いやすい。

 それもあって、今でもどちらかと言えば苦手意識が強かった。……味が好きか嫌いかというのは別として。

「……ビールで十分」

 俺はソファに座っており、木崎はラグの上に直接腰を下ろしていた。ローテーブルに頬杖を突いていた木崎は、「ふーん?」とわずかに口を尖らせながらも、それ以上は追及してこなかった。

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