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第6話

Author: クルミ
紗奈は眉をひそめたが、口を開くより早く、直人が先にドアを開けた。

「お前は誰だ?」

開いたドアの向こうに見知らぬ男を見た瞬間、隼翔の表情は一気に険しくなった。

「俺は紗奈の彼氏だ。何か文句あるのか?」

隼翔は一瞬呆然とし、そのあと顔を真っ赤にして怒りを噴き出した。

「彼氏?何をでたらめ言ってんだ!紗奈、出てきてはっきり説明しろ!」

紗奈は直人の言葉を聞いて、彼が自分を庇っているとすぐに分かった。

「直人、やめて」

「やめない」

直人は後ろを振り返り、紗奈を見据える。その眼差しは揺るぎなかった。

隼翔の顔はさらに引きつる。

「紗奈、説明してくれ。これはどういうことだ?」

紗奈は口を開いたが、言葉は喉で止まってしまう。

隼翔に誤解されたくはなかったが、直人の立場を悪くするのも嫌だった。

「説明する必要なんてあるか?」直人は鼻で笑った。

「見りゃ分かるだろ。何年も追いかけてきた俺に、ようやく彼女が応えてくれたってことだ」

隼翔は拳を握り締め、額に血管が浮き出る。

「もう一度言ってみろ?」

「ん?聞こえなかったか?」

直人は顎を突き上げ、挑発するように言った。

「紗奈は今、俺の彼女だ。もう彼女に付きまとうのはやめてくれ」

「てめぇ!」

隼翔がとうとう堪え切れずに拳を振り上げた。

だが直人は軽く身をかわし、逆に反撃の拳を隼翔の顔面に叩き込んだ。

隼翔は大きくよろめき、数歩後退する。

顔を押さえながら、憤怒の目で直人を睨みつけた。

「よくも殴ったな!」

「殴って当然だろう」直人は一歩も引かない。

「紗奈をいじめた罰だ」

二人が殴り合いを始めたのを見て、紗奈は慌てて隼翔の前に立ちふさがった。

「やめて!もうやめて!」

紗奈が隼翔を庇うのを見て、直人の目が一瞬翳る。動きも止まった。

紗奈はそのことにすぐ気付き、慌てて直人を振り返った。

「直人、違うの、誤解しないで、私は……」

「もういい」直人は冷たく遮った。

「分かってる」

彼は部屋に戻って上着を掴むと、そのまま背を向けて出て行った。

残された紗奈は、自分の軽率さに胸を締め付けられた。

あれはただの反射的な行動だった。考える暇なんてなかった。

「直人!」紗奈は追いかける。

「ちゃんと説明させて!」

直人は立ち止まったが、振り返らなかった。

「もういい。君の心に誰がいるか、分かってるから」

その背中は遠ざかり、紗奈の良心を深く抉った。

隼翔は戸口に立ち、紗奈の表情を見て心がざわついた。

「紗奈、お前……」

「帰って」

冷たい声が彼の言葉を遮った。

「帰れ。もう二度と来ないで」

隼翔は呆然とした。

「何を言って……?」

「聞こえただろ。帰って。私の前から消えて」

紗奈の目は氷のように冷たい。

「紗奈……そんな言い方しなくても……」

「消えろって言ってるの!」紗奈の心がついに爆発し、叫びが響き渡った。

「まだ分からないの!?早く出てって!」

隼翔はその激しい拒絶に怯む。

彼はこんな紗奈を見たことがなかった。

「消えて!」紗奈の視界が涙で滲む。

「もう二度と顔も見たくない!」

その一言に突き刺され、隼翔は押しつぶされるように痛みを感じた。

彼は紗奈を一瞥すると、黙って背を向けていった。

残された紗奈の目から、ついに涙が溢れ出る。

部屋に戻ってソファに倒れ込むと、涙は止まらなかった。

直人が自分にどれだけ優しいか、彼女は知っている。

けれど、胸の奥にはまだ隼翔が残っている。

それが直人に対してどれほど不公平か、理解しているのに。

それでも自分の感情を抑えられなかった。

紗奈が悲嘆に沈んでいると、突然インターホンが鳴った。

隼翔が戻ってきたのではと考え、胸が一気に苛立ちで満たされる。

「誰?」紗奈は不機嫌に叫んだ。

「俺だ」扉の外から聞こえたのは直人の声だった。

紗奈は驚き、慌てて涙を拭き取り、ドアを開けた。

「直人、あなた……」

直人は穏やかな目で、紗奈の言葉を遮った。

「さっきは取り乱した。悪かった」

紗奈は胸が締め付けられるほどの罪悪感に襲われた。

「謝るべきなのは私の方よ……直人には本当に申し訳ないことをした」

「紗奈」直人は真っ直ぐ彼女を見つめる。その瞳には揺るぎがなかった。

「俺は君が好きだ。ずっと、ずっと前から」

「答えを急がなくていい。時間をあげるから」

その言葉に紗奈の胸は温かさで満たされる。

直人の想いが偽りないことを、誰よりも分かっていた。

「直人」紗奈は彼をしっかりと見た。

「ちゃんと考える」

直人は微笑んだ。

「分かった。俺は待つ」
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