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第8話

Author: クルミ
バーに着いた紗奈の胸は少し緊張で締めつけられていた。

さっき直人が言った言葉で心の準備は多少できた。もしかしたら、彼はまたもや先に気付いていて、隼翔が仮病してまで自分に会いに来ようとしていると察していたのかもしれない。

だが、個室に入った瞬間――

耳に飛び込んできたのは、形容しがたい声。

艶っぽい女の声と荒い吐息、それだけで中で何が起きているのか外に伝わってしまう。

紗奈の顔は瞬く間に蒼白になり、ドアを押し開けると、目に映ったのは隼翔に押し倒され、深く口づけされている真奈だった。

「紗奈……」

隼翔は明らかに意識が朦朧としていた。それでも口の中で紗奈の名前をはっきりしない舌で繰り返している。

一方、真奈は紗奈を目にした途端、むき出しの挑発的な笑みを浮かべた。

「お姉ちゃん、どうして来たの?隼翔が酔っぱらったから、迎えに来てって呼ばれたのよ。誤解しないでね」

直人は眉を上げた。そのメッセージを真奈に送ったのは他ならぬ自分だ。

すべては隼翔の正体を暴くため。

ただ、今の隼翔の様子からすると、何か薬を盛られた可能性が高い。

紗奈の表情を伺いながら、直人は胸の奥に不安を覚えた。

だが紗奈は何の反応も見せない。

ただ一度だけ隼翔に目をやると、それ以上視線を向けることはなかった。

「いいわ、続けてちょうだい」

深く息を吸い込むと、紗奈は直人の腕を引いて踵を返す。

背後からは、真奈の媚びる声がまたもや響いてきた。

「隼翔、もっと優しくして……」

紗奈は吐き気を抑えきれず、足を早め、外に出るなり直人に身を預けて前かがみに嘔吐いてしまった。

顔を上げたときには、すでに涙が頬を濡らし、ぐしゃぐしゃになっていた。

直人はそれを見て胸が締めつけられる。

だがこうするしかない。

紗奈が完全に諦め、隼翔の本性をはっきり見抜くために。

その頃、紗奈の携帯に真奈からの新しいメッセージが届く。

【お姉ちゃん、うちの母さんが隼翔のお父さんを説得して、縁談を進めるって。あんまり騒ぎ立てたくないでしょ?当分の間は隼翔の前に顔を出さないこと、わかった?】

それを見て、紗奈は真奈の番号を通知オフに設定した。

まるでそうすれば、全部の厄介ごとが自分から遠ざかっていくかのように。

十数年の付き合い。幼い日の想い。

すべてが、この瞬間、紗奈の人生から剥がれ落ちていく。

数歩ふらついた後、耐えられずにその場で意識を失った。

目の前に閃く白い光。制服姿の十七歳の隼翔が歩み寄ってくる。

「紗奈……」

「紗奈!」

しかしその声は直人のものへと変わる。

紗奈は必死に目を開けようとするが、力が入らない。

ただただ、終わりのない闇の中に沈んでいくしかなかった。

一方その頃。

目を覚ました隼翔が見たのは――真奈と自分が川村家のベッドで横たわっている光景だった。

目を見開き叫ぶ。

「な、なんで君が……紗奈はどこだ?!」

真奈は少し泣きそうな表情で言う。

「隼翔、そんなに彼女がいいの?昨夜、彼女は迎えなんて来なかったわ。逆に私に電話して、行かなければバーで放置するとまで言ったのよ。

それで、私が駆けつけたら……あなたが抱きついてきて……」

「もうやめろ!」隼翔は慌てて飛び起き、服を探して着替えようとする。

頭の中にはただ一つの考え。

自分は汚れてしまった。紗奈はきっと二度と許してくれない。

真奈は焦り、裸足のまま隼翔に取りすがって抱きついた。

「私もあなたのことが好きなのよ!どうして振り向いてくれないの?」

隼翔の体が凍り付く。

「いい加減にしろよ……君もわかってるはずだ、俺と君は絶対あり得ない!」

その瞬間、外からドアが開き、真奈の母が入ってきた。

鋭い目で隼翔を見下ろす。

「隼翔、この書類を見てから喋ったらどう?」

福井グループが絶対に手放せないプロジェクトの資料と、今朝こっそり撮られた、病院で直人が紗奈を看病している写真。

彼女はそれらを机に置くと、冷笑を浮かべた。

「真奈がいなければ、福井グループなんてとっくに潰れてるわ。

感謝するどころか、あなたを捨てた女のところに行くつもり?

真奈と病室の紗奈、選べるのは一人だけ。

紗奈を選ぶなら、福井グループを捨てることになる。どうするかは、あんた次第よ!」
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