LOGIN「その能力を人に役立てられると信じています」 母から言われた最後の言葉、それがいつまでも心に残っていた。 普通の高校生である『藤堂真司』は、幼い頃から人には見えないモノ[幽霊]が見えていた。 しかしそれらの事を誰かに言った事はない。だからこそ真司は、出来る限り『普通』であり続けようと静かに暮らしていく。 しかし平穏な暮らしは突然崩れる。数少ない理解者だった最愛の母が突然亡くなってしまった。最期を迎える直前に真司へ最後のメッセージを胸に刻みつけ、成長していく真司だが、出会う[幽霊]との関りが少しずつ変化をもたらしていく。 霊感を持ってしまった少年のドタバタ青春ラブコメディ。
View More普通に生活するには、視えても得はないのに……いや得どころか良いことなど一つもないのに。
それに視えている人間は人前では本当のことを言わないと思う。それはなぜか。
それまで友好的に築いてきた繋がりが終わりを告げ、告白した後に変な関係になりたくないし、気まずい空気にはしたくないから。
それが、それまでの生活や友達関係を特に守りたいと思っている人なら、なおさらその想いは強くなるだろう。
俺には……そんな事たぶんできないと思う。
それが良い事なのかどうなのか結構な頻度《ひんど》で考えるけど、結局の所、その自問に対する答えは今まで出なかった。
これから先も、出ないかもしれないと俺は思っている。もしかしたら出なくてもいいのかもしれない。だから俺は人との繋がりをなるべくは絶ってきた。話しかけられたりすれば返す事はするし、何かを誰かと一緒にやらなくてはいけない事などは断ることは無いけど、それ以上は踏み込まない。踏み込ませないという体を取り続けている。
下手に仲良くなって詮索されたくないし、俺はあまり他人《ひと》に興味がわかない。その成果はもちろん学校生活に影響を及ぼし、友達と言えるようなクラスメイトはできたことが無い。いつも顔見知り以上知り合い未満。
そのまま大人になっていく。それでいいと思っている。
いつか、この考えの変わる日が来るのかは分からないけど、俺は俺のままでいられればいい。
たとえ、人でないモノが視《み》えるこの世界の中でも、俺は俺のままがいい。 このまま一人でも構わないと思っていたんだ。あの時、あの場所までは――。
『こんにちはシンジ君』
色白で卵型の可愛い顔をした女の子が話し掛けてくる。年齢的には高校二年生の俺と変わらないくらいだ。彼女は俺を目の前にして、腰を下ろした。
現在、学校の授業の真っ最中である。『今日は晴れて気持ちいいよね』
彼女は普通に話し掛けているが、状況は普通じゃない。俺は窓際の席にいて、その窓のほうに顔を向けている。つまり、彼女が俺の正面にいるということは、窓の外から話し掛けてきている状態なのだ。
ちなみに、ここは三階建て校舎の二階。梯子でも使わなければ俺の正面にいるなんてできない。 そして俺は|睡魔《すいま》に負けて眠ってしまい、夢を見ているというわけでもない。『ねえ、無視しないでよぉ。ねえってば!!』
「…………」
俺はというともちろんそんな声などガン無視である。
なにより授業中だし、周りに彼女は視えてないし、独り言をしゃべる変な奴と思われたくはない。
まあ、もうすでに、俺を暗くオタクくさいやつという周りの思い込みが|蔓延《まんえん》していることは知っている。他人と極力関わらないようにはしているが、俺は決してオタクではない……と思っている。
俺、藤堂真司はただ霊が視えているだけの学生である。もちろん周りにそんな事言ってはいない。言える訳もない。どうしてそんな事を説明するのかというとそう、先ほどから俺に声を掛けているのは、みんなには視えていないだろう幽霊の女の子なのだ。今はふわふわと目の前を漂っている。
「はぁ~」
隣や周りに聞こえないようにため息をひとつ。
それから一応周りを見回して確認し、念には念を入れて近くには聞こえないように気を遣いながら小声で応答する。まぁいい加減にウザいのだ。
「何か用か?」
『用ってことはないけど……』 ぶっきらぼうな口調に対して彼女は口を少し尖らせる。「なら邪魔するなよ、授業中なんだから」
『冷た! シンジ君冷たくない?』そう言いながら彼女は両手を自分の頬に当てながら綺麗な瞳を俺に向けた。
――しんじらんなぁ~い! みたいな顔するな! つか、やっぱりおまえ幽霊だけどかわいいんだよ、ちきしょぉう!!
『あら、私だってJKなんですけど』
確かに、この辺りでは知らない奴がいない、有名な進学校の制服を着ながらフワフワ浮いている。
この子の名前は日比野カレン。 出会いは唐突で衝撃的だったが、彼女からある頼まれ事をされ解決した。その後、お礼をしたいだとか言って、ずっとそばについてきているのだ。『ほらほら、じぇーけーですよぉ。じょしこうせいですよぉ』
目の前でひらひらふわふわする
制服のスカートが揺れる。そう見えそうで見えないギリギリのラインで。「やめろってば!!」
俺は叫ぶと、ガタッと机をならして勢いよく立ち上がった。
もちろん周りは静まりかえって俺に注目する。 そして――もちろん今は授業中である。「なんだ藤堂、寝てたのか? それとも俺の授業がつまらないとか。まさか……クラス崩壊でもさせようとしてんのか?」
先生の言葉を皮切りに、クラス内はざわつき始める。「あ、すいません。ほ、ほんとになんもないです。すいません」
勿論席に座る前には周りと先生にペコペコと頭を下げて謝るしかない。 周りの女子からヒソヒソと話をする声が聞こえる。まぁ、良いことを話してないのは分かる。男子からもバカなの? とか、やるな藤堂とか声が上がる。 先生がそれらをうまく鎮めて再び授業に戻り、黒板に書き出しを始める。 俺は冷や汗を背中に流しながら椅子に座る。『ごめぇ~んネ』
ペロッと舌を出し、胸元で手を合わせて謝るカレン。そしてふわふわ。 もちろん周りには視えていない。「はぁ~~」
大きなため息をひとつつく。まだ女子のヒソヒソ話が聞こえてくる。けっこうな地獄的状況だ。――あぁ~なんなんだよちくしょう可愛いなおまえ!! なんで幽霊なんだよ!!
俺は机に向かって思いっきり顔を押しつけ、周りには聞こえない心の叫びをあげるのだった。 俺は、生まれてから声を出して言葉を話し始める頃には[変なもの]が視《み》えていたらしい。 らしいというのはもちろんそんな事など覚えていないからである。家族が話す内容によれば、誰もいないところに話しかけていたり、そこにもう一人いるかのような遊び方をしていたりしていたと聞いた事が何度もある。 最初に思い出せる記憶の中では、人じゃないモノと一緒に暮らしていたことが俺には当たり前だったし、それが亡くなっているお祖母ちゃんだと分かるのに時間は掛からなかった。小学一年生になるくらいの頃に母親が重い病気にかかり、家族みんなと一生懸命の闘病の末に母さんは亡くなった。
亡くなる直前の言葉を今でもしっかりと覚えているし、何よりも嬉しかったのだ。「あなたのその眼には多分、私たちの知らない、見えないモノが映っているんでしょ? それは他の人には理解できない能力。でもね真司、あなたならその能力を人に役立てられると信じています。今まで真司の事分かってあげられなくてごめんね」
その言葉が母さんと話をした最後になる。 母さんはその一週間後に亡くなった。そして亡くなった後の母さんにも会った。言葉は交わせなかったけど母さんは優しく笑っていて、父さんをジッと見つめ、薄くなって消えていった。 それからは会っていない。母さんが亡くなって以降、俺は自分の能力について誰にも言わなくなった。いや、言えなかった。父さんは夜遅くまで仕事して帰るようになり、俺は父方の祖父母に預けられながら育ったが、そこでも幽霊が視えることについて黙っていることにした。
そうはいっても、視えているモノが急に視えなくなるわけでもなく、幽霊の絡んだ恐怖体験など色々な事が起きる。幼い俺はどうしていいか分からずに、泣きながら布団で寝ることが当たり前の毎日になった。口数が減っていったのもこの頃からだろうか……。それからまた数年が経ち、俺も小学生高学年になっていたある日、父が大人の女性と小さな女の子を家に連れて来た。
今日から真司の新しいお母さんと義妹になる。父さんの口からそう告げられる。
家族となって一緒に暮らす人が増え、祖父母のところで過ごすことがなくなる。それ自体は別に、俺にはどうでも良かった。家族となった小さな女の子は、自分の周りをついて回るようになった。 その子の名前は伊織《いおり》。小さい声ながらも答えてくれた。俺とは歳が二つ違いだ。中学一年生の頃からあまり外出はせずに、部屋の中で過ごすことが多くなっていった。俺が高校を受験する歳になっても、他人と極力関わらないようにしようとする考えは変わらなかった。
決して完全なる引きこもりという訳ではなく、家族とも外出はするし必要なら一人でも出かけていくことはある。できる限り出ないようにしていただけ、要するに外に出て余計なモノを見てしまうことが嫌だっただけなのだ。閉鎖的な俺を、義母は温かい目で接してくれた。外出などを決して無理強いしようとせず、かといってやらなければいけないこと、特に学校や行事なんかには必ず出席するように促された。
義妹は相変わらず、俺の周りをチョコチョコとついて回っていた。こんこん
「お義兄ちゃんいる?」 こんこんこん 「お義兄ちゃん?」夏の暑い日差しに外の空気が蒸され始める前のある日、気付けば部屋のドアが叩かれている。ドアの外から、伊織が俺を呼んでいるようだ。
ベッドで横になりマンガを読んでいた俺は、暑さで気だるくなっている体を起こし、ドアに向かいゆっくりと開く。
目の前にいたのか、ビクッと体を震わせて少し後ろに下がる伊織。「おう伊織、どうした?」
今年中学生になった伊織はなかなかに成績優秀らしく、なおかつ運動神経も良いみたいでクラブ活動からいろいろと誘いがあるらしい。それでもどこにも所属することはなくすべて断っているらしい。
らしいばかりの表現になっているのは、地味で目立たぬ義兄である俺とはあまり関わらないで済むように接触を避けているから、伊織のことは人から聞いた事しか知らないのだ。「えと……。お義兄ちゃん今日出かける用事あるかな?」
「……義妹よ、それを俺に聞くのは意味がないぞ。何しろ用事が出来たためしがないからな」 「それはそれで自慢にはならないと思うけど……」 顔を引きつらせながら、困り顔で顔を掻く伊織。 俺とは血が繋がらないおかげか、色白で卵型の|輪郭《りんかく》をしている顔は小さく、大きなクリっとした目が幼さを残している。「ちょっと買い物に付き合ってほしいんだけど……大丈夫かな?」
「そんなことくらいいつでも付き合うぞ、別に引きこもりなわけじゃないからな」 「良かった……」 「え? なんで?」 伊織がホッとしていることに疑問を持った俺は、頭をよぎった事が思わず言葉になって口からこぼれていた。「ふぁ? なんでって、その……別にお義兄ちゃんには関係ないというか……ごにょごにょ」
「……まぁ別に何でもないならいいんだけどな? 」その言葉を聞いた伊織が「じゃぁよろしくねっ」と言い残してパタパタと廊下を走り、玄関へ向かって行った。
俺はドアを閉めると、頭に「?」がついたまま出かける身支度を整える。とはいえ今の格好に上着を羽織るか羽織らないかくらいしか変わらないんだけど。ドアを開け、玄関まで歩いていく。伊織は既に、用意を終えていて肩に大きなショルダーバッグを下げ、こちらを向いて待っていた。
「待ったか?」
「え? いや大丈夫だよ」 「よし、じゃあ行くか」玄関のドアを開けると、太陽はもうすぐ真上に来ようとしていたようで、日差しがぎらぎらとしている。
休みの日はだいたいが家にいて、昼過ぎまでは布団に入って寝ているし、そういえばこんな風に出歩くなんていつぶりだろうかと思う。 出かけるにしても一人のことが多い俺は、誰かが隣またはすぐ後ろを付いてくることはあまりないので、なんか変な感じがしている。それが例え伊織なのだとしてもだ。「買い物って、何を買いにどこに行くんだ?」
「えっと、今日の夕飯のメニューだよ?」 「あれ? 義母さんは?」 「やっぱり! お義兄ちゃん忘れてるんだ! 今日はお義父さんとお母さんが遅くなるから二人で食べてねって、言ってたでしょ?」 う~んと考えるが、まったく覚えていない。 は~ぁっと、ためいきをつく伊織を見ながら少し苦笑いをしてしまう。ほんとにこの義妹はよくできたいい子だなぁって思う。 それに比べて俺は……。外に出て歩くということは、また見たくないモノたちの中に入っていくということ……なのだが伊織との買い物にも一緒についていってあげたい。兄としてそのくらいは一緒にいてあげたいと思っているのだ。
あまり感じのよくないモノには、極力避けるように伊織を誘導しながらてくてく歩く。
俺たち二人とすれ違う人々はもちろん、後ろを歩く伊織も、元気がなくフラフラと歩く俺のことを頼りない男の子だと思っているかもしれない。 それはそれで良かった。別に俺はどう思われても構わないといつも思っていた。 そう、俺は伊織にも[見えないモノが視える]とは言ったことがないのだ。 まぁ、言うつもりもないのだけど。 そんなことを考えていると――二人の歩く道の向こう側に、少し影が薄い、見た目は自分とそう変わらないであろう女の子がキョロキョロと辺りを見回している。
何かを探しているような、誰かを探しているようなそんな様子に見える。
なるべくそういうのには関わり合いたくはない。自分に何ができて何ができないかなんて、小さい頃から随分と経験しているからだ。 伊織と話してこの場を去ろうとした時、少しその女の子の方に視線だけを送ってしまった。 それは完全に無意識の一瞬で、自分でも見えたかどうかは分からないほどの時間。『あなた! ねぇあなた!! そこの男のコ!! 今、ずっとこっち見てたよね?』
「え?」
向かい側にいたはずの女の子が、目の前でむ~っというような感じで、頬を膨らませながら俺の顔を覗き込んでいた。線の細い茶髪の少女である。 そして、もちろん俺だけが視える[幽霊]なのだ。『私が視えたあなたに、頼みがあるのよ!』
それが日比野カレンとの出会いであり、この物語の始まり。
俺と伊織はというと――。 皆が一生懸命にしめ縄の作業をしている様子を見つつ、婆ちゃんと共に、柏木様の元へと足を運んでいた。 柏木様と言っても、已然の場所で雄大な姿を見せていたあの柏木様ではなく、初代様に託されたあの『若い柏木様』の事。 あれから少しばかり成長をした若い柏木様を、婆ちゃん達が大社へと運んできて、元の柏木様がそびえていた場所のまたその奥の場所へ、新たな門として植えたのだ。もちろんそこには依然と同じような小さな祠が祭られているし、新たな柏木様の周囲には既に新たなしめ縄が周囲を囲むようにして結び付けられている。「また少し大きくなられた様じゃの」「うん。背が伸びた気がするね」「うん」 柏木様を前にしてその様子を伺う。「婆ちゃん」「なんじゃの?」「あの柏木様はどうなるの? 伐採しちゃうの?」「いんや伐採などはせん。というよりもじゃ……」 少し言いよどむ婆ちゃん。「ここ最近は元気がなくなってきとる」「え? そうは見えないけど……」「いや。段々と蝕まれてきて来ておるのは間違いない、その証拠に根元が枯れ始めとるからの」「捜査のせい?」「うぅ~ん。まったく関係がないとは言い切れんの。周囲の土を掘り起こしたままで現場検証などに時間をくってしまったからの。じゃが本質は違うの。やはり今までの負担が大きく影響しとるんじゃろうの」「……そうか」「…………」 今まで頑張って来てくれた柏木様。しかしそう遠くない未来には、その雄大な姿は見られなくなってしまうだろう。 そう考えると段々と寂しさや悲しさが込み上げてくる。 それは伊織も同じだったようで、自然と両手を汲んで祈りを捧げていた。「さて、当分の間はここに来るのも終いじゃの」
もうすぐ雪が降り始めるかのように、どんよりとした灰色の雲が空を覆い、時折漏れる吐息が白い煙のように立ち上る朝。 俺と伊織、そして婆ちゃんと爺ちゃん達と共にまた大社へと赴いていた。前日まではその麓にあるキャンプ場にて一泊し、次の日の早朝から長い階段を登り始めたのだけど、朝が早いという事と思った以上に冷気が空から降りてきている影響で、俺は体を動かすのがやっとというような有様。「ねぇ!! あそこに何かいるわよ!!」「もう!! 静かに昇りなさいよ夢乃!!」「えぇ~いいじゃん!! ようやくこうして皆でちょーじょーにある大佐様? のところへいけるようになったんだもん!!」 俺達一行の後を追うように、研究会の皆が石段を登ってきている。その中でも相馬さんが一番元気がいい。 キャンプ場での手伝いなどがあり、早朝からの仕事などもあるため、割と朝早い時間に目覚めるという事は慣れていると胸を張って言い切っていただけの事は有る。「色々違ってますよ相馬さん」「そねぇ……。まずは大佐様ではなく大社ですしぃ、向かって行くのはその大社ではなく柏木様のところですよぉ?」 運動することは苦手なので階段を登るのに苦労するかもなんて、少し苦笑いしつつ昇り始めた市川姉妹だったけど、ここまでは特に疲れなどの変化は見られない。「柏木様って伊織ちゃん!?」「え!? は、はい!! なんでしょうか!?」――柏木様ってそうじゃないよ相馬さん。まぁ確かに伊織は元柏木さんだけどね。伊織も今は藤堂さんなわけだから返事をするんじゃない!! などと心の中でツッコミを入れるが、俺は既にここ何度目かの階段上りとなっているので、飽きているというのと朝早いのとが合わさって言葉にする元気もない。 そうなのだ。俺と伊織はここ最近土日になると婆ちゃんの所へと行っていたというのはもちろんだけど、大社周りをかたづけたり、更に元に戻す事や掃除などをする為に何度か大社へと足を運んでいる。 初めは体力があったの
さて、忙しかったのは俺というわけではなく、婆ちゃんであり伊織なのだが、あの後どうなったのかというと、婆ちゃんの宣言通りに伊織は『今代の柏木様』としてあの土地の、大社の、そして柏木様の守り手として責務に就くことになったのである。責務と入っても今までとあまり変わった事はない。 日常は俺達と一緒に暮らすのだけど、土日や空いた日などは婆ちゃんの所へといき、心構えなどを教わってくるもの。本格的に巫女様になるのは早くても伊織が高校生になってからくらいになると、婆ちゃんが言っていた。実は今代の巫女様には義母さんが――という話も出てきてはいた。何しろ義母だって柏木様の血を継いでいるという事が分ったからだ。「私が?」 「うん。そうなのよ。お母さんも柏木様の血を継いでいるんだけど、巫女様になる?」 「うぅ~ん……。ちょっとあの衣装には憧れちゃうけど、私は巫女ってタイプじゃないし、今のままでいたいかなぁ。それに私には視えないわけだし。それだけでも巫女様になる資格? はないと思うのよ」 「そうかなぁ? もしかしたらこれから「それは無理じゃの」」「お婆ちゃん」 「お義母様……」 ようやく取れた日曜日に、伊織と共に母さんの実家へと赴いた伊織と義母は、大社様と柏木様、そして巫女様の事についての話を婆ちゃんから聞いていた。 その話の中に出て来た、村から出た柏木様一族の話しが、以前義母さんが幼い頃に聞かされつつ育ってきた話と同じような内容だったことで、出身地が間違いないと判断し伊織が義母さんに今代の巫女について「なったら?」と持ち掛けたのだ。しかし話の通りに婆ちゃんに即『無理』とバッサリ切って捨てられた。「そうですよねぇ。私には伊織や真司の様なチカラは有りませんから、これかたなろうなんて甘いですよね」 「そういう事じゃないんじゃの」 婆ちゃんが義母の話を聞きつつ、お茶を一口すする。「確かに『視える』という事は一番大事なのじゃがの、それにもましてその者達とどう向き合えるかが大事なのじゃの。もしかし
事件というモノは何処からともなく漏れ聞こえてしまうようで――あの日、俺達の頭の上を何度も何度も行き来していたヘリからの映像と共に、テレビでもインターネット上でも色々と曰くや話題付きという、尾ひれがでっかくなった状態で拡散されていた。まぁ実際の所、事件はけっこう大きなもので、発見されたご遺体の数は類を見ない程多く、単に事件というだけではなく、古くからのお骨なども発見され、そして同じように埋葬されていた所からは年代物と思われる服飾品類などの埋葬品や、土器、催事の時に使用していたであろう動物の骨などが入った木箱や杖なども、考古学者や研究者などの関心を集め、警察の捜査が終了したと共に、今度のはそれらを更に研究するための現地調査が入っている。俺達が住んでいる場所はもうすぐ雪が降り始めるので、それまでには何かしら新たな発見をし来年以降の調査の足掛かりにしたいと意気込んでいるらしい。そんな話を、研究者の一人である大学教授に熱弁されたと、久しぶりに家に帰って来てリビングでビールを煽っている父さんが愚痴交じりに語っていた。「ところで真司」「なに?」「お前表彰される気あるか?」「はぁ? 表彰!? 表彰てなんだよ?」「今回の事でかなり捜査に内々で『ご協力』してくれた形になっているだろ? それをあの町のお偉いさんが気にしててな。真司に表彰の1つでもやらなきゃメンツにかかわるとか何とかいってやがるみたいなんだよ」「えぇ~……。いいよメンドクサイ」「まぁそうだよなぁ……」 父さんは手に持っている缶ビールを一気に煽る。「そういうのを貰うのなら一番うってつけの人がいるじゃないか」「ん? だれだ?」「婆ちゃんだよ」「あぁ、お義母さんかぁ。そうだなぁ……」「そうそう。あの町では婆ちゃんの名前って知れてるんでしょ? それなら婆ちゃんに渡した方がそれらしいと思うんだけど」「確かにそうだ