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第4話

Author: 匿名
私の希望通り、結婚式は海上の豪華クルーズ船で行われることになった。

ウエディングドレスを着てメイクルームで待機していると、心春が我慢できなくなったのか、再びメッセージを送ってきた。

【白石さん、もし私が結婚式の会場に現れたら、桐生さんはまだあなたを選ぶと思いますか?

教えてあげますね。私、今船の中にいるんです。昨夜、桐生さんは私の部屋で過ごしました。

桐生さんは全然あなたを愛してないんですよ。それなのに桐生夫人の座にしがみついて、一体何の意味があるんですか?私に譲ったらどうです?】

彼女の言葉は傲慢で、自分の野心と欲望を隠そうともしていなかった。

私は少し離れた場所で携帯をいじり、時折眉をひそめ、時折甘い笑みを浮かべる蒼を見た。

初めて彼女に返信した。

【望み通りにしてあげる】

メッセージを送った次の瞬間、蒼が入ってきた。

メイク中の私を見て、彼の目に驚嘆の色が浮かんだ。

「澪、本当に綺麗だ」

彼は私の横に座り、時折手をこすり合わせて、心を寄せる人を前にした不器用な少年のようだった。

私は準備していたギフトボックスをバッグから取り出し、彼の手に渡した。

彼が開けようとした時、私はそっと手で押さえた。

「結婚祝いよ。式が終わってから開けて」

彼は頷き、目にはこれから始まる式への緊張感で満ちていた。

メイクアーティストが眉を描こうとした時、蒼が声をかけて止めた。

蒼はメイクアーティストの手からアイブロウペンシルを受け取り、私の後ろに立った。

「澪、お前の眉は俺が描かせてくれ」

彼は笑いながら言い、私は頷いた。

ふと、付き合い始めた頃に一緒に見た昔のおとぎ話を思い出した。

そのおとぎ話では、仲睦まじい夫婦がいて、その夫がよく妻のために眉を筆で描いたという話だった。

それ以来、蒼は愛を証明するために、私がお化粧をする時に私の眉を描くことを好むようになった。

だが、彼がこれをするのも二年ぶりだった。

鏡越しに彼と目が合う。

「蒼、あなたが私と付き合った時、約束してくれた言葉を覚えてる?」

私の質問に、眉を描く動作が止まった。

「私は嘘が一番嫌い。もしいつかあなたが私を騙したと分かったら、二度とあなたに見つからないようにするって」

蒼の指が震え、制御を失って眉がはみ出してしまった。

乱れたメイクを見て、私は静かに口角を上げた。

「どうかした?」

「澪、俺はお前を騙さない。俺はこんなにもお前を愛してるんだ……」

私は答えず、ただメイクアーティストに交代してもらい、蒼の代わりにメイクを仕上げてもらった。

結婚式が始まり、蒼は緊張した様子で私の手を取りながらも、時折入口の方をちらりと見た。

私は彼の小さな動作に気づき、心が完全に沈んだ。

蒼は私が彼の傍にいる最後の日ですら、大切にしなかった。

彼はあの小娘を放任し、その小娘の思惑通り式のスライドを二人のベッドシーンの動画にすり替えさせた。

蒼は慌てふためいて、人に命じて動画を消させた。

「澪、説明させてくれ!」

彼が私の手を掴む力は強く、まるで私が逃げるのを恐れているようだった。

動画が消されると、私は静かに彼を見て、口角を上げた。

私が笑ったのを見て、蒼の表情が緊張し、唾を飲み込んだ。

何か大切なものが消えようとしているのを感じ取ったかのように。

全ての人々の視線の中、私は彼の手を振りほどき、躊躇なく会場から駆け出した。

蒼が私にあと一歩のところまで迫った時、私は海に身を投げた。

私が飛び込んだのを見て、蒼は目を見開き、叫びながら私に向かって手を伸ばしたが、裾すら掴めなかった。

体が落下する時、私は笑いながら最後の涙を流した。

蒼。

もう私がこの世であなたに会う事は二度とない。
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