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第10話

Author: アカリ
紬はタブレットの証拠に目を通した瞬間、今日会社に来てからずっと変わらなかった表情が一変した。

彼は眉をひそめ、険しい表情を浮かべた。

翔が弁明しようとするのを遮り、紬は冷たい声で問い詰めた。

「山口支店長、社内で上を欺いて不正を働いたのね。

副社長ご本人はこのことを知っているの?」

その言葉で、翔の精神的な支えは完全に崩れ去った。

翔は青ざめた顔で、渡されたタブレットを凝視した。そこには申請書が克明に写し出されていた。

内容は俺が受け取るはずだった、30坪のマンションの贈呈申請だ。

しかし署名欄にあったのは俺の名前ではなく、知らない誰かの名前だった。

だが、そこに添えられた証拠書類はすべて、俺のものだった。

翔は、本当にこの会社を私物化できるとでも思っていたのか?

叔父が本社の副社長だからと、自分が王様にでもなったと勘違いしていたのだろうか?

社員の手当を着服することに、何の恥じらいも感じていなかったようだ。

翔は口をパクパクと動かすだけで、何も言い返せない様子だった。

周りは静まり返り、一触即発の空気が流れた。紬の放つ上司としての威圧感に、部屋の空気が張り
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    しかし、口を開くより先に、翔は叔父からの電話に出た。「この馬鹿!お前という奴はどこまで愚かなんだ?慎重に動けとあれほど言っただろう?年度売り上げの査定しに来たのが会長の娘さんだと知っているのか?よくもまあ俺の名前を出せたな。そんなに早く俺を潰したいのか!言っておくが、今回は助けてやれない。会社に残れるかはお前自身の運次第だ。今後はもう二度と俺に連絡するな。お前のせいで、あやうく解雇されるところだったんだぞ!」相手は怒鳴り散らすと、一方的に電話を切った。翔は反論する隙すらなかった。ここでようやく、俺は紬の正体を知った。どうりで彼女は、翔の処分を決定する権限を持っているわけだ。紬は表情を変えず、静かで深淵のような冷たい視線で俺を見た。「後藤さん?」紬は戸惑った様子で、ぎこちなく俺を呼んだ。俺が頷くと、紬は言葉を継いだ。「事態は解決済みよ。あなたが申請した手当については、秘書の鈴木さんに任せてあるわ。会社の発展に貢献してくれて感謝している。我が社は、あなたのような人材を必要としているわ」紬はさらりと俺を高く評価してくれた。荷が重いと感じた俺は、冷静に答えた。「井上さん、もったいないお言葉です。自分はただ、正当な手当を求めただけですから。それに、今回の件が片付いたのは井上さんが冷静に判断してくださったからです。自分は事実をまとめて報告しただけです」この功績を俺が受けるわけにはいかない。紬は無言で頷き、翔の方に視線を移した。「山口支店長にサインさせたら、すぐ警備員に会社から追い出させて。我が社は会社を食い物にする害虫を許容しないわ。見つけ次第、即解雇よ!」続いて美優に声明を作成させ、全社掲示板に投稿させた。翔が行った数々の不正は、あますところなく社内全体に知れ渡った。俺自身も今回の件で一躍有名になった。無事マンション贈呈の申請が通り、なぜか特例で30坪の部屋が36坪になった。紬から届いた祝辞によると、プラス6坪分は今回の慰謝料のようなものだそうだ。会社として、社員の手当を不当に奪うようなことは二度としない。どうかもう一度、会社に機会を与えてほしい。そして、全社員で監督してほしい、という旨が何度も強調されていた。支店長室から出た時、信じられないほど心が軽くなっていた。社内掲示板の通知

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    俺は記載されているキャンセル理由を指し、冷静に言い返した。「キャンセルの理由は既に明確に説明しました。在庫不足であり、期限内の納品が不可能だからです」自ら受注を拒否すれば、せいぜいインセンティブの減額か、始末書程度で済む話だ。マンションを失った損害に比べれば、そんなの屁でもない。むしろどうでもいいことだ。翔は不意を突かれて言葉に詰まり、堪えるように言った。「しかし後藤、君なら納期までにこのロットを納品できる手立てがあるだろう?なぜ受注を断るんだ?手に入るはずの売上をドブに捨てる気か!」大局と小事、どちらを取るべきかなんて、そんな単純なことも分からないほど馬鹿ではないつもりだ。

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