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第21話

Author: ミツバチちゃん
頭部の大量出血に加え、薬の影響で血流が加速し、体内の興奮成分も作用したことで、

救命処置を受けた涼夏は現在VIP病室に移されていた。

遼河は、ベッドに横たわったまま意識の戻らない涼夏を見つめていた。

さっき氷魚から聞かされたことを思い出すと、遼河は胸が痛んだ。

涼夏を侮辱させようとしたのが、まさか彼女の実の妹だったなんて。

涼夏がこの事実を知ったら、きっと深く傷つくに違いない。

とても受け入れられないだろう。

遼河は少し考え、もしこの真実を涼夏に告げてしまえば、

彼女を自分のそばに縛りつけるための切り札を失ってしまうことに気づいた。

だから遼河は、真相をすべて隠すことを選んだ。

涼夏は丸一日近く、24時間ものあいだ意識を失っていた。

目を覚ましたのは、翌日の深夜だった。

目を開け、真っ白な天井が目に映る。

暗い森ではなかった。

涼夏は一瞬、状況を理解できずに呆然とした。

起き上がろうとしたとき、頭の傷が引きつれて激しい眩暈に襲われ、

そのまま枕に倒れ込んでしまった。

その物音で、もともと眠りが浅かった遼河が目を覚ました。

彼は涼夏のベッドのそばに寄りかかっており、顔を上げた目には眠気の色などなかった。

「目が覚めた?お腹は空いてないか?氷魚に何か買ってこさせようか」

涼夏は遼河の顔を見た。

あまりに平静すぎて、あの後どうなったのか分からず不安だった。

何より、あの男に汚されてしまっていたら......それが一番怖かった。

「遼河......わたし......」

遼河は、涼夏が何を言おうとしているのか察したかのように言った。

「心配しなくていい。何も起きてない。あの浮浪者はもう処理した。しっかり治療に専念すればいい」

その言葉を聞いて、涼夏はようやく安堵の息を吐いた。

何も起きてなかった。

それだけで生きていける気がした。

窓の外の真っ暗な夜空を見て、涼夏はやっと思い出した。

自分が小さな森に行った目的を。

焦った様子で口を開いた。

「遼河、お願いがあるの。妹を探してほしいの。栞は郊外にキャンプに行くって言ってたのに、電話も出ないし......すごく心配で......」

「お願い、探してくれない?彼女は遼河の婚約者でもあるでしょう?」

涼夏のその真っ直ぐな懇願を前に、遼河は複雑な気持ちになった。

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