Share

第 1019 話

Author: 一笠
しかし今では、翠は心から友達として、戦友として凛と一緒にやっていこうという想いがあった。

30分後、ようやく落ち着いた雪は乱暴に涙を拭いながら、掠れた声で言った。「目が覚めたんだったら、何か食べなきゃ。千鳥亭に料理を届けてもらうわね」

凛が返事をする間もなく、雪は立ち上がる。「少しは食べないと。何も食べてないから倒れたのよ」

雪が病室を出ていくのを見送りながら、凛は口まで出かかった断りの言葉を飲み込み、困ったような笑顔を浮かべた。

そして、翠の方に視線を向ける。

「翠さん」

「凛さん」

二人は同時にお互いの名前を呼んだ。

凛は微笑む。「お先にどうぞ」

翠が近づいてきて言った。「大丈夫です。私た
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1057 話

    凛が微笑んだ。聖天は、世界が輝きを増したように感じた。......1ヶ月にわたるヨーロッパ旅行が終わっても、凛はまだ授賞式の夜を忘れられなかった。妊娠後期になるにつれ、体は重くなっていったが、それでも凛は毎日撮影の仕事に忙しく、充実した日々を送っていた。その間、朔の裁判も行われていたが、判決は弁護士の予想とほぼ同じだった。その日、テレビでニュースが流れていた。「綾辻朔死刑囚の死刑が、本日午前に執行され......」その時、梓には朔の最後の瞬間が見えた気がした。ちょうど凛の検診中だった梓は、一瞬、動きを止めてしまった。凛は梓の手を握り、優しく言った。「梓、これで本当に自由になっ

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1056 話

    結婚式の後、聖天は凛と新婚旅行で海外に出かけた。ヨーロッパのカフェで休憩していると、弁護士から電話がかかってきた。「本日の公判は順調に進みました。このままいけば、あと1ヶ月で手続きが完了し、判決が下されるでしょう。綾辻さん、おそらく死刑は免れないかと。自首したあの『ウルフ』という男は、おそらく無期懲役、優奈さんに関しては......7、8年の懲役になると思われます」......弁護士は公判の様子を詳しく説明していたが、コーヒーを運んでくる凛の姿が目に入ると聖天は、「分かりました。残りは任せます」とだけ返事をした。凛も今日は公判の日だと覚えていたので、コーヒーをテーブルに置き自分も座

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1055 話

    二人は微笑みながら見つめ合った。この光景に、参列者たちは皆、深く感動した。雪は涙を拭いながら呟く。「聖天が凛と結婚できたことは、もちろん聖天にとっての幸せなんだけど、私たちにとっても大きな喜びね......」ふと視線を向けると、慶吾もこっそりと涙を拭っているのが見えた。雪に見つめられたことに気づいたのか、慌てて手を止め、背筋をピンと伸ばす。雪は涙を拭うと、微笑んで言った。「もう誰もあなたのことなんて見ていないんだから、泣いたってどうってことないわよ」「泣いてなんかない。こんなめでたい日に、なぜ泣く必要があるんだ?」慶吾は鼻をすすり、真面目な顔で言った。「目にゴミが入っただけだ」雪は

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1054 話

    真っ青な空には白い雲が浮かんでいる。昨日の夕方から、続々と招待客が島に到着し、別荘地にチェックインしていた。普段裕福な暮らしをしている彼らも、島の装飾に驚きを隠せなかった。島全体が美しく飾り付けられ、甘い雰囲気に包まれている。青と白を基調とした花々が桟橋から式場となる芝生まで敷き詰められていた。今までの霧島家はパーティーを開く際、仕事関係の人だけを招待していた。しかし今回は、雪が芸能界の重鎮たちを招待していた。それに、美雨も凛を応援するために多くの芸術家仲間を招待したのだった。招待客リストが完成した時、慶吾は思わず驚いた。「島が人で溢れかえってしまうんじゃないか?」すると輝が驚き

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1053 話

    「来る途中慶吾と話したの。夏目家を出て、霧島家に嫁ぐという決断をしてくれたあなたを、私たちは絶対に裏切らないようにしよう、って。それに今、あなたは妊娠しているのよ。これから10ヶ月もの間、とても大変だと思うし、出産だって命懸けのことなの。だから、もし私たちにできることが少しでもあるのなら、何でもさせて欲しいなって思って」雪は凛の肩に手を置きながら言った。「もしあなたが断ったら、私たちは悲しいわ。あなたのために何かしたいの」ここまで言われたら、もう断ることなんかできないだろう。凛は少し考えてから頷いた。「ありがとうございます。お父さん、お母さん」慶吾夫妻はすぐに満面の笑みになった。「そう

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 1052 話

    笑いを堪える凛の声に、聖天はほっと胸を撫で下ろした。「何か良いことでもあったのか?」「うん」凛は手に持った妊娠検査の結果を見ながら、嬉しそうに言った。「そんなに私に会いたいんだったら、聖北病院まで来て」本来であれば、拘置所から聖北病院までは車で1時間ほどかかるのだが、期待に胸を膨らませた聖天は50分もかからずに到着した。車を停め、遠くから入口に立っている凛の姿を見つけた聖天は、すぐに車を降り、彼女に向かって大股で歩いて行った。凛は幸せそうな笑顔で、両手を広げ、聖天の胸に飛び込んだ。「私、妊娠したの」「なんだって?」聖天は驚き、凛の肩を掴んで少し突き放した。「もう一度言ってくれ」そ

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 332 話

    使用人はすぐにブローチを恵子の手に渡した。恵子の真剣な表情を見て、一同は息を飲んだ。「凛......」恵子は興奮を抑えきれない様子で、震える手でブローチを握りしめ、「このブローチは、Y国のロイヤルファミリーの王妃の物なのかしら?」と尋ねた。「はい」凛は頷き、「昨年、王妃一家のご家族写真の撮影をさせていただきました。王妃は私の作品をとても気に入って、報酬とは別に、このブローチをくれました」と答えた。「このブローチは、本当に高貴な方しかお似合いにならないと思い、ずっと大切に保管していました。今日、恵子さんに贈ることができて、光栄です。ただ......」凛は泉を一瞥し、「泉さんは、こ

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 343 話

    凛は翠の視線を受け止め、微笑みながら「私のこんな小さなスタジオが、霧島グループとご一緒させてもらえるなんて......」と言った。翠はプロらしい笑みを浮かべたまま、「凛さん、そんなご謙遜なさって。あなたの能力があれば、将来必ず大きな成功を収められるでしょう。私たちはスタジオの今後の発展を楽しみにしております」「今は、あまり先のことは考えず、地に足を付けて一歩ずつ進んでいくことが、私にとって一番大切なことなので」凛の落ち着いた様子を見て、翠は内心で舌打ちした。この女は、自分が思っていたよりもずっと賢い。「では、本日はインタビューにご協力いただき、ありがとうございました」翠は立ち上がり、

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 357 話

    「人は年を取ると、死ぬ前に、過去の様々な後悔を思い出しては、何度も繰り返し考えてしまうものだ。まるで味がなくなったガムを噛み続けるかのように。後悔しても仕方がない。過ぎたことはもう戻らない」大山は空を見上げ、少し穏やかな表情で言った。「俺は、お前が幸せになることを願っている。佐藤家はお前に釣り合わない」凛はずっと黙っていた。この話題は、これ以上続ける必要がない。凛と煌は、とっくに終わっているのだから。この3年間で、凛は煌との思い出の多くを忘れてしまった。どうして煌を好きになったのかさえ、思い出せないほどに。今の煌は、凛にとって他人以下だった。「おじい様!」甲高い声が突然響き渡っ

  • 夏目さん、死なないで! 社長のアプローチが始まった!   第 333 話

    「ええ」凛はそれだけ答えた。声には温かみが全く感じられなかった。清子は凛の冷淡さに気づき、内心では少なからず不快感を覚えたが、顔には無理やり笑顔を貼り付け、「今度、機会があればコーヒーでもおごらせてください。その時に泉にも直接謝罪させますので」と言った。「いらないわ」凛はきっぱりと断り、「泉さんはまだお若いので、周りの言葉に流されやすいのでしょ。衝動的に間違ったことをしてしまう年齢だもん。今晩のことは気にしていないし、わざわざ謝罪してくれる必要もないよ」と言った。「清子は、私のことよりもご自身の人生を大切にしてくださいね」夫は他の女と子供を作っているというのに、まだ友達を利用して他

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status