......一瞬にして気まずい空気が流れた。明らかに、出席者全員が凛のストレートな物言いに驚いていた。輝は内心でほくそ笑んだ。いい気味だ。この手の純情ぶった女には芝居をする隙も与えるべきじゃない。凛はもう夏目家の人間と無駄話をしたくなかった。木瀬夫人の方を向き、「もう一度写真を見たいのですが、可能でしょうか?」と尋ねた。木瀬夫人は我に返り、慌てて頷いた。「もちろん。すぐに担当者を手配する」凛は頷いた。「ありがとうございます。お手数おかけします」凛たちが去っていくのを見送りながら、正義は憤慨した。「凛のあの態度はどういうことだ?本当に我々が頭を下げてまで彼女に媚びろと言うことか?」
それから、スタジオの外で、輝は凛の車に乗り込むと、後部座席に渚が座っていることに気づいた。「姉さん、なんで彼女を連れてきたんだ?」輝は露骨に嫌な顔をした。渚は彼に白眼をむき、イヤホンを取り出して耳に差し込み、腕を組んで座席に深く座り込み、目を閉じて眠りについた。その様子を見て、輝は内心穏やかではなかった。「俺はお前の兄だよな?なんでこんな態度を取るんだ?」「彼女は今日一日忙しかったんだから、少し眠らせてあげて」凛は車を始動させながら、軽く説明した。「一緒に写真展の成果を見に行くのよ。少しは勉強になるでしょ」「いや......」輝はむっとして、二人を交互に見つめた。「まさか、この格好
「まだ配信も始まってないのに、もう諦めたの?らしくないね」そう言うと、凛は別のことを思い出した。「そうだ、あの主演男優の宣材写真は、どうして一緒に撮らなかったの?」「柳さんに頼むそうだ」この話になると、輝は途端に怒りをあらわにした。「あいつの言い分はさ、このドラマは大ヒット間違いなしの大作だから、宣伝の第一歩として宣材写真はプロのカメラマンに頼むべきだ、って。俺と柳さんが仲が悪いのは周知の事実だ。俺は彼の提案に反対した。何度か会議をして、プロデューサーたちがようやく別々に撮影することを認めてくれたんだ」凛は頷いた。「そう......」輝は眉をひそめた。「姉さん、なんで怒らないんだ?
霧島家。翠が帰ったと思ったら、輝が部屋に入ってきた。「叔父さん、さっき何を話してたんだ?翠、20分ぐらいで帰っちゃったけど」輝は不思議そうに尋ねた。「何も話してない」聖天は輝の方を向き、何気なく尋ねた。「夏目さんに送ったのか?」輝は驚き、とぼけた。「え......何のこと?」聖天は何も言わず、ただ静かに彼を見つめていた。まるで彼の心を見透かすかしているかのように。輝は耐えきれず、降参した。「盗撮したことは認めるよ、叔父さん。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。それともスマホ没収?」「見せてみろ」「え?」聖天が手を差し出すのを見て、輝は慌ててスマホを渡した。「姉さんに送ったんだけ
このところ、ちょくちょく聖天の日常の写真を盗撮しては凛に送っていた。凛の返事はいつもそっけなかったが、輝は懲りずに送り続け、しまいにはパパラッチに共感するようになっていた。この盗撮のスリルは、危険だけど刺激的なものだった。「どうしてそんなに凛さんと叔父さんがくっつくのを望んでいるの?」渚に問われて、輝は我に返った。「なんでって?二人お似合いだと思うからだよ!」「翠姉さんのほうがもっとお似合いじゃない?学歴も家柄も、叔父さんと釣り合ってるし」渚は聖天の部屋の方を眺め、複雑な表情を浮かべた。「翠姉さんが叔父さんに与えられるものは、凛さんが与えられるものよりずっとずっと多い。凛さんが翠姉
聖天が霧島家の本邸に住み始めてからというもの、屋敷全体に変な空気が漂っていた。しかし雪だけは、毎日嬉しそうに聖天のために様々な滋養スープやご馳走を用意していた。雪の前では聖天は合わせて二口三口と口へ入れるが、彼女が去ると残りは全部輝の腹の中へと消えていく。輝はうんざりした様子で言った。「叔父さん、これ以上飲んだら、マネージャーがブチ切れるぞ。来週は宣材写真の撮影があるんだ。もうこれ以上は付き合えない。そういえば、今回の宣材写真の撮影は姉さんに頼むんだ!」輝は意味ありげに目を細めた。「叔父さん、霧島家に戻ってきたことは姉さんに言ってないよな?」聖天は彼を一瞥した。「お前は話したのか?