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第 274 話

Author: 一笠
達也は恒夫を一目見て、思わず立ち止まった。

相手はすでに50歳を過ぎているというのに、全く歳を感じさせない。洗練されたスーツは控えめながらも上品な風格を漂わせ、黒々とした髪は、丁寧に整えられていた。

霧島家の人間特有の気品が、夏目家を輝かせているように感じられた。

「あなたが正義さんのご長男、達也だよな?」恒夫は笑顔で話しかけた。

達也は我に返り、慌てて近づいて言った。「はい、そうです。恒夫さん、はじめまして」

「立派な若者だね」

恒夫は達也の肩をポンポンと叩き、「将来はきっと、大物になるだろう!」と言った。

達也は照れくさそうに言った。「お褒めにあずかり光栄です。すごいのは、恒夫さんのような
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