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第 717 話

Author: 一笠
「お兄さん、自分の将来を棒に振るつもりかしら?」

それを聞いて、達也は少し視線を落とし、優奈を見据えた。「俺が頭が良いって分かってるなら、これ以上やるとどうなるかも分かってるはずだ。

もう『お兄さん』って呼ぶな。俺たちは血の繋がりがない。家族でもない。

社長、お邪魔したな。これで失礼」

そう言うと、達也は背を向け、きっぱりと立ち去った。

優奈はその場に立ち尽くし、我に返ると、鼻で笑った。いい気味だ、よく言うよ。

いつまで清廉潔白なフリができるか、見てやろうじゃないか?

......

地下駐車場。

達也は苛立ち、ネクタイを乱暴に外し、エレベーターから大股で出てくると、柱の側に立っている翠の姿が見
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