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第 794 話

Author: 一笠
夜も更け、皆、それぞれ帰路についた。

凛は、聖天が助手席に座るのを見届けると、尋ねた。「黒木先生は、梓のために病院を辞めたね?」

「ああ」

聖天はシートに深く腰掛け、目を閉じながら言った。「あの晩、梓に言われたことが、相当堪えたらしい」

「まさか......」

凛は前方に目をやると、ちょうど礼が運転手に支えられながら車に乗り込むところだった。

今夜は、悠斗に散々お酒を飲まされた上に、何か鬱憤を晴らしたいように、礼は自らもどんどん杯を重ねていた。

凛は礼と知り合ってもう何年にもなるが、あんな風に我を忘れて飲む姿は初めて見た。

一体、誰が想像できただろうか?

普段は礼儀正しい礼が、恋のためにあんな
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