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7話. 朝とは違う画像

Author: 6jay
last update publish date: 2026-10-21 19:38:46

検査室へ向かう間、美咲は携帯を手にしていなかった。

看護師が状態を確認しながら、ベッド脇について歩いた。絵里は出発直前にもう一度患者を診て、変化があればすぐ知らせてほしいと伝えた。今は血圧と意識が保たれており、再撮影を進められる状態だった。

久世は検査室と直接連絡を取った。

「藤崎先生は結果を見たら、すぐ相談してください。高瀬先生にも、ここまでのことは伝えてあります」

「はい」

久世はほかの患者の診療を終えに行った。絵里は美咲の初回診察の記録の横に、今痛がった範囲を書いた。脈拍が変化した時刻と鎮痛薬を投与した時刻も並べ、新しい画像が届く画面を開いておいた。

湊がモニターの横に紙を置いた。

「使った薬と反応をまとめました。痛みはいったん軽くなって、その後また強くなっています」

「ありがとう」

「最初から手術が必要だった、というわけではないんですよね?」

湊は持ってきた記録に目を落とした。見落とした変化はなかったか、最初の診察からたどっていた。

「最初の画像には、腸に穴が開いたとわかる所見や、大きな出血はありませんでした。診察の所見も今とは違います」

「こういう場合は、いつまで経過を見るんですか?」

「時間だけでは決められないでしょうね。だから、患者さんを診続けるんです」

湊はうなずいたが、顔にはまだ不安が残っていた。

絵里は少し言い方を変えた。

「今みたいに、新しく変わったことを見つけたら教えてください。それを間に合うように伝えるだけでも、次の判断は変わります」

湊がメモを読み返した。絵里はその紙を返さず、自分の記録の隣に置いた。

午後4時40分、検査が終わったと連絡が入った。

新しい画像が表示される間、絵里は放射線科へ再び電話をつないだ。応答した黒田修一教授も、2回分の検査を並べて開いていた。

「午前より、腹腔内の液体が増えています」

彼が先に言った。

絵里は同じ位置まで画像を動かした。腸の間にある液体が、前よりはっきりしていた。

「こちらの腸間膜も、変化が強くなっていますね」

「はい。それから、この区間の腸壁を見てください」

黒田が位置を示した。周囲の腸と違い、造影される様子がよくなかった。絵里は前の画像と交互に見た。

「腸間膜損傷による血流障害を疑います。ただ、画像だけで生きている範囲までは断定できません」

「活動性の出血については?」

「今目立つのは、そちらより腸の状態です。外科で直接評価する必要がありそうです」

絵里はその意見を書き留めた。どの臓器が破れたかを探すだけなら、見落としかねない問題だった。腸を支え、血を送る組織が傷つけば、腸そのものが持ちこたえられなくなる。

高瀬に連絡した。最初の検査から今までに変わったことと、放射線科の意見を短く整理して伝えた。

『今、診療エリアに入った。一緒に診よう』

美咲のベッドが戻ってきた。顔に汗が浮いていた。痛みを聞かれてうなずく動きも、小さくなっていた。

「動くと、もっと痛いです」

絵里は高瀬と一緒に再診察した。さっきは押されるとつらそうにしていた腹部が、今は力を抜けないほど敏感になっていた。

高瀬は診察を終えて毛布をかけた。画像と今の状態を併せて確認し、絵里を見た。

「手術の準備をしよう」

さらに観察するために時間を使う理由は、もう乏しかった。

絵里は美咲のそばへ椅子を寄せた。立ったまま、見下ろして話したくはなかった。

「腸に血が十分に届いていない部分が疑われます。最初より、お腹の中の変化も強くなっています。中を直接確認する手術が必要だと思います」

美咲が目を見開いた。

「今、ですか?」

「はい。今から準備したほうがいいです」

しばらく返事がなかった。注文の納期を気にして退院を尋ねていた人の前に、まるで違う選択が置かれていた。

「腸に血が行かないと、どうなるんですか?」

絵里は、血流の足りない腸が傷み、状態によっては一部を切除する可能性もあると説明した。どの範囲を治療するかは、中で確認しなければならなかった。

「それは、画像だけではわからないんですか?」

「危ない部分を疑うことはできます。ただ、実際にどこまで治療すべきかは、手術で判断する必要があります」

美咲の唇が乾いていた。絵里は看護師に、その不快感を和らげられるか確認してから説明を続けた。必要な治療と危険、確認した結果によって変わり得ること。短くまとめすぎないようにした。

高瀬もそばで質問を受けた。

「手術じゃなくて、薬ではだめですか?」

美咲が尋ねた。

「今のように、腸が傷んでいる可能性が高く、お腹の状態も悪くなっている場合は、薬だけで待つのは難しいです」

高瀬の答えを聞き、美咲はうつむいた。

絵里は少し待った。言葉を理解することと、受け入れることは、同じ速さでは進まなかった。

バッグの中で携帯が鳴った。美咲が画面を見た。

「姉です。先生から話してもらってもいいですか?」

「はい。今お話しした内容を、一緒に説明しますね」

絵里は同意を確認し、電話を受け取った。名乗ってから現在の状況を説明した。相手は驚き、同じ質問を何度か繰り返した。

『私が着くまで待てますか? 今から出れば……』

絵里は美咲を見た。美咲も電話のほうを見ていた。

「今、患者さんに手術が必要な理由をお話ししています。お姉さまがいらっしゃるまで治療を延ばすのは難しいです。こちらへ向かわれている間も、ご連絡がつくようにしておきます」

美咲が手を差し出した。

電話を返してもらうと、姉に言った。

「聞いてるよ。説明は、ちゃんと聞いた」

声が少し震えた。

「ゆっくり来て。事故、起こさないでよ」

絵里は目を伏せた。自分の状態より、相手の運転を先に心配する患者の言葉を、ときどき聞く。それでも、慣れることはなかった。

美咲は電話を切り、高瀬を見た。

「お願いします」

手術への同意と準備が進んだ。美咲は書類の説明を指でたどりながら、さらに2つ質問した。絵里は、可能性を確定した結果のように話さないよう、気をつけた。

痛みを和らげる処置のあと、美咲の表情が少し緩んだ。

「少し楽になったんですけど。それでも、手術はするんですよね?」

絵里は患者を見て答えた。

「痛みが軽くなったのはよかったです。ただ、腸の状態までよくなったとは言えません。今確認している変化があるので、手術は必要です」

美咲はそれ以上尋ねず、腹部から手を下ろした。絵里は患者が楽そうに見えるというだけで先ほどの判断が曖昧にならないよう、鎮痛後の状態も記録した。

廊下で手術室の準備状況を確認していた湊が戻った。麻酔チームにも、患者の状態は伝わっていた。

高瀬が絵里に言った。

「術前の準備を一緒に確認して。今日はあなたが主体になってやってみよう」

絵里は顔を上げた。

「私がですか?」

「外科専門医でしょう。この方の変化を続けて見てきたし、任せられるだけの経験があることも確認した。私も隣に入るから」

絵里は手術室の状況表を受け取り、自分の前に置いた。入る部屋と準備する器具を読む間、高瀬は待っていた。機会をもらえたと思うより先に、美咲に説明した手術をやり遂げたかった。

絵里が顔を上げると、高瀬が言った。

「迷うところがあれば、すぐ言って。1人で決めてから説明しないこと」

「はい」

患者のベッドが動き始めた。

美咲は朝着てきた上着を小さな袋に入れ、看護師に預けた。車の鍵と携帯も袋に収まった。絵里は必要な持ち物と貴重品が区別されて引き継がれるのを確認した。

扉の前で、美咲が尋ねた。

「先生も、入ってくれますか?」

「はい。高瀬先生と一緒に手術します」

美咲はそれを聞いて、袋から手を離した。

エレベーターでは、短い移動の間も状態を再確認した。美咲の目が、天井近くの階数表示を追っていた。車から歩いて出たという事実が、今この人にはどんな意味を持つのだろうと、絵里は考えた。

ベッド脇から、美咲の顔を改めて見た。電話をしていたときより口数は減っていたが、説明を聞いてうなずいた目は、今も絵里を追っていた。

手術室が近づくと、絵里は申し送りの内容をもう一度確かめた。

手術室の前で、昼から勤務している麻酔科専門医が説明を続けた。昨日とは別の麻酔チームだった。

絵里は申し送りを共有し、手を洗いに行った。

昨日初めて立った洗い場の位置が、もうなじんでいた。水が流れる間も、美咲が最後にした質問が頭に残っていた。

――先生も、入ってくれますか?

手術室の扉が開くと、絵里は中へ歩み入った。

患者のそばで待っていた高瀬が、目で準備を確認した。絵里は目の前の器具を見た。画像で異常が疑われた腸が、どこまで持ちこたえているのか。今度は、この手で確かめなければならなかった。

「始めよう」

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