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第10話

Author: いちご味いも団子
幸い、結婚の日取りには間に合った。もしあと一日でも目覚めるのが遅かったら、どうなっていたかわからなかった。

彩花が黙ったままでいると、翔真は言葉を継いだ。

「昨日、ウェディングドレスを見に行ってきた。今月末に結婚しよう。お前は誰よりも美しい花嫁になるんだ」

彩花は戸惑う気持ちで彼を見つめた。あの日の出来事をなかったことのように、平然と語る翔真の神経が理解できないのだ。

「お前は俺を恨んでるんだろう。でも誤解しないでくれ。俺は本当にお前を置いて行ったわけじゃない。ずっと後ろからついていたんだ。ただ電話に出て目を離した隙に、お前が狼に襲われて……危うく間に合わなくなるところだった。助けられて、本当に良かったよ」

そう言う彼の目尻がうっすら濡れていた。

「それと、美月ちゃんのことはもう放っておいてあげて。今日、佐伯家の迎えが来る。二人で一緒に見送ろう?

彼女が嫁いでしまえば、俺たちの生活も落ち着くはずだ。必ずお前に償うから。

結婚という大事な節目に、お前がいなかったら彼女にだって悔いが残るだろう?」

だが彩花は一拍の迷いもなく首を振った。

「行かない」

「彩花、どうしてそんなに美月ちゃんを敵視するんだ?彼女はずっとお前を姉として慕ってきたのに……

お前が行かないなら、俺だけでも行く。あとで後悔しても知らないぞ」

彩花は小さく笑った。後悔などあるものか。

翔真も、山城家もとうに諦めている。これから先、彼らのことで心を乱すことなど決してない。

傷つけられてきたのは美月ではなく、いつだって自分の方なのだから。

彩花の決意を悟った翔真は、仕方なくひとりで階下へ降りていった。だがそこで彼を待っていたのは、思いもよらぬ光景だった。

邸内には結婚を祝う雰囲気など一切漂っていなかった。正一はいつも通り新聞を広げてお茶をすすり、美佐子は庭の花を手入れしている。まるで何事もない朝の風景。

たまたま通りかかった執事を呼び止め、翔真は慌てて問いただした。

「今日は美月ちゃんの結婚式じゃないのか?どうしてこんなに静かなんだ?」

執事は目を瞬かせた。

「ご結婚?美月お嬢様ならまだ部屋でお休みですが……どなたとご結婚なさると?」

息が詰まるような感覚に襲われ、翔真は急ぎ正一と美佐子の前へ。

「おじさん、おばさん、今日は美月ちゃんの結婚式だろ?準備はまだなのか?美月ちゃんもまだ起きてないみたいだけど……

あの佐伯家のことだ、もし迎えの車が来ても花嫁が寝ていたなんてことになれば、失礼に当たるよ!」

事情を知らない翔真を前に、二人は顔を見合わせ、なんとか誤魔化そうと口を開いた。

「佐伯家からは連絡があってね、道が渋滞しているから、少し遅れるらしい。先に食事でもしてきなさい。迎えが来たら私たちが呼ぶわ」

その言葉が終わるか終わらないうちに、邸外からクラクションの音が響いた。

正一と美佐子は一瞬視線を交わし、その瞳に同じ不安を宿す。

やがて姿を現したのは、端正なスーツに身を包んだ恭介だった。朝の光を受けて、きりりとした横顔が一層冷ややかに際立つ。

「お父様、お母様、迎えに――」

言葉の途中で、翔真が険しい顔で遮った。

「美月ちゃんをそう簡単に連れて行かせるわけにはいきません。まだ家の準備も整っていないから、少し待ってもらえませんか?」

恭介は指先を触りながら目をそらした。「待って欲しい」なんて言葉を真正面から言われたのは初めてだ。

そのとき、階段から響いた声が場を凍りつかせた。

「待つ必要なんてないわ、行きましょう」

彩花だった。

彼女が手にしたスーツケースを、恭介は自然な仕草で受け取り、隣に立った。

その光景に翔真の表情が固まる。彼は慌てて駆け寄り、スーツケースを押さえる。

「待て!結婚するのは美月ちゃんじゃないのか?これは一体どういうことだ!」

恭介の唇がわずかに上がり、淡々とした声が響く。だが翔真の耳には、それが雷鳴のように轟いた。

「俺と結婚するのは――彩花だ」
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