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68話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2026-01-10 18:34:49

「──奏斗?まだ、寝ていないの?」

「香月……」

香月のとろん、とした目が俺を捉える。

まだ、寝惚けているのだろう。

「ごめん香月。起こしちゃったな。寝てていいよ」

俺は香月から離れ、トイレに行こうとした。

自分が情けなくて。

長い間香月を苦しめていた事が本当に申し訳なくて。

俺はベッドから降りようとした。

だけど、ふ、と香月の手が俺の手のひらに触れた。

「なんか……、どうしたの奏斗……?」

「え、なにが……」

俺が香月に振り向くと、香月の腕が伸びてきて。

俺の体がぎくり、と固まった。

「何だか、奏斗……泣きそうな顔してる。嫌な事、あった……?」

「──っ」

香月に言われた言葉に、俺はくしゃりと表情を歪めた。

俺の顔を香月がそっと両手で覆い、心配そうに見つめてくれる。

眠そうにとろんとした香月の瞳が次第に意識がはっきりしてくるように焦点が合ってくるのが分かる。

「奏斗……?奏斗本当にどうしたの、どこか痛い?」

香月はすっかり目が覚めてしまったようで、おろおろとしだす。

「どうしよう、雨に濡れたから?風邪ひいちゃったのかな?」

「いや、違う……。大丈夫、大丈夫だ香月」

「ええ?本当?奏斗、熱があっても我慢して、隠す癖があるでしょ?」

「──ははっ、そんな事もあったっけ」

子供の頃の話だ。

確かに、昔から俺は体調が悪くてもそれを隠していた。

両親は忙しくて、家を長期間留守にする事も多かった。

だから、風邪をひいて体調が悪くても誰も看病なんてしてくれない。

心配もされない。

それなら、誰かと会っている方が寂しさが紛れていい。

だけど──。

そんな俺の体調の変化に、いつも気が付いてくれるのは決まって香月だった。

俺が風邪を引いて熱を出していると、すぐに香月が気付いてくれた。

それで、俺の両親が不在の時は香月の家で看病してもらった。

香月のおばさんも、おじさんも仕事をしてたから。

香月の部屋のベッドで休ませてもらって。

香月が学校に行っていても、すぐに俺の看病をしに急いで帰ってきてくれた。

昼間はしんと静かな部屋で、1人で寝ているけど、そこが香月の家だから少しも寂しくなくて。

香月が学校から帰って来ると、学校で何をしたとか、どんな宿題が出た、とか色々話してくれて。

それで、夕ご飯も香月がお粥を
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